トップへ

和久井映見、『ひよっこ』愛子役で人気急上昇 愛すべきキャラクターの魅力に迫る

2017年08月21日 07:12  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 8月8日の放送で、過去最高視聴率23.7%を記録したNHKの連続テレビ小説『ひよっこ』。有村架純演じるみね子の父・実(沢村一樹)が見つかったことで、物語も大きな動きをみせてきたが、14日から放送されていた第20週「さて、問題です」では、久しぶりに乙女寮のメンバーが集結した。乙女寮といえば、個性的なメンバーはもちろんだが、和久井映見演じる舎監役の愛子は、魅力的キャラクターが多数登場する本作のなかでも、とても人気の高い人物の一人だ。改めて、愛子=和久井映見の魅力に迫る。


(参考:島崎遥香が語る、『ひよっこ』由香役に対する葛藤 「自分と似ているからこそ、とても難しい」


 基本的に本当に悪い人が登場しないという『ひよっこ』。これまでも、みね子の叔父である宗男(峯田和伸)や、乙女寮の面々、「すずふり亭」の従業員、「あかね荘」のメンバーなど個性的なキャラクターが多数登場してきているが、なかでも“愛すべき”キャラクターといえば、愛子だろう。


 みね子たちが働いていた向島電機「乙女寮」の舎監として、乙女たちの良き“姉”という立場である一方、みね子から“面倒くさい”と思わせてしまうほど“かまってちゃん”の一面も持つ。おっちょこちょいで抜けている部分がありつつ、いざというときには大きな心で人を包み込むという、良い意味で多面性を持つ理想的な女性だ。乙女寮のメンバーが、海水浴に行くという話になったとき、自分が行くわけでもないのに、みね子に「誘わせる」ような行動をとる下りなどは、何ともいえず愛らしい。


 こうした愛すべきキャラクターを作り上げているのが和久井の絶妙なさじ加減だ。劇中の愛子は、上擦った声で、ややもすると作り込み過ぎた印象を受け、物語のなかで現実離れし、浮いてしまいがちなキャラクターなのだが、和久井がギリギリのラインで説得力を持たせている。


 和久井といえば、これまでの作品では、『ピュア』(フジテレビ系)のように軽度の知的障害を持つ特徴的な主人公を演じることはあったものの、作り込むキャラクターというよりは、『夏子の酒』(フジテレビ系)や『妹よ』(フジテレビ系)などナチュラルな芝居で魅せる女優という印象があった。しかし『ひよっこ』では、緩急でいえば“緩”の部分をデフォルメしたコミカルなキャラクターを“作り込んでいる”ように見受けられる。愛子は、普段の和久井の声のトーンよりも明らかに上擦っている。


 こうした“緩”の部分を請け負いつつも、センチメンタルな部分ではしっかりと重厚感ある演技をみせてくれる。向島電機が倒産すると決まったとき、乙女寮のメンバーたちが動揺するなか、愛子はみんなの心の支えとなって大きな心で包み込む。このときの愛子には、普段のおっちょこちょいさも、抜けた部分もなく、とにかく頼りになる大きな柱のような存在感だった。


 軽い部分と重厚な部分という、相反するベクトルを持つキャラクター。基本的には、のほほんとして、かまってちゃんという面が大部分を占めているが、こちらの側面があまりにも立ち過ぎると、白けてしまうし、センチメンタルな部分を強調するためのあざとさと感じられてしまう危険性もある。しかし、和久井の演技は、ギリギリまで攻めつつも、昭和40年代の東京という世界観を逸脱していない絶妙なあんばいだった。


 もともと、和久井のコミカルなキャラクターというのは秀逸で、吹越満と共演したドラマ『殴る女』(フジテレビ系)では、ひょんなことからロートルボクサーのトレーナーになってしまった女性を演じ、テンポの良い掛け合いを披露。この作品は、ボクシングをテーマに「自分の居場所」を求めてさまよう人たちを描いているストレートな人間物語なのだが、和久井と吹越がみせる芝居の“緩急”が抜群に心地よかった。


 今後も、佐々木蔵之介演じる「すずふり亭」のシェフ省吾との恋の行方など、まだまだ「ひよっこ」には欠かせない愛子だが、多くの視聴者は彼女が幸せになってくれることを祈っているだろう。


(磯部正和)