スーパーフォーミュラ参戦3年目で、ついに小林可夢偉(KCMG)が初優勝……と、誰もが確信していた第4戦ツインリンクもてぎの決勝レース。しかし、2番手に実質10秒以上のギャップを築きながら、ピット作業で右リヤタイヤの装着に時間が掛かってしまい、まさかの後退、2位でレースを終え、スーパーフォーミュラ初優勝のチャンスが手の中から滑り落ちてしまった。
「自分の中で、(ピットでのアクシデントは)ショックというよりも笑ってしまったんですよね」と、会見でその時の状況を振り返る可夢偉。
「僕の横で(マシンの斜め前でピットレポートしていた松田)次生さんが『あっーーー!!』ってすごい顔で驚いている姿を見て、笑っちゃたんですよね。クルマは週末を通してずっと良くて、今まではここまでのパフォーマンスを出すことができなかった中で速さを見せることができたのは良かった。まだまだ足りない部分があるので、それはこれからハングリーにやって成長しつつ、もうピットストップで笑うことがないように、次生さんの『あっーーー!!』っていう顔を見ないように頑張りたいなと思います」
「次生さんは衝撃的な顔をしていましたよ。この世の終わり、みたいな」と、可夢偉は深刻になりかねない雰囲気を、笑いに変えて表現した。
可夢偉節炸裂で、会見会場は笑顔に包まれるが、スーパーフォーミュラ3年目でようやくつかんだ優勝のチャンス。その絶好の機会を目の前で失ってしまった落胆は、想像に難くない。
トップのままで迎えた35周目のピットイン。通常ならば、12~13秒のストップ時間で済むピット作業。しかし、右リヤタイヤのナットがはまっていない状況でジャッキダウンしてしまい、タイヤがはめられないなどで30秒というストップ時間になってしまった。コースインした時には、可夢偉はトップのピエール・ガスリー(TEAM MUGEN)の12秒後方の2番手になってしまっていた。
このピットイン以前にも、可夢偉とKCMGは不幸にも無線のトラブルに見舞われていた。レースの序盤10周前後では交信できていた無線がその後、トラブルでつながらず、可夢偉とチームでコミュニケーションが採れなかったかったことも戦略面で悪い影響を及ぼしてしまったのだ。
「何回か手を振ったり、首をこうやって(真横に向けて)アピールしたんですけどね。お陰で首の左側が痛くなりました。久々に毎周、必至にサインボードを見ていました。でも、気づいてくれなくて、寂しかったです(苦笑)」と会見で話す可夢偉。
「ギャップも途中で分からなくなって、集中がちょっと切れました。もっと前にピットに入りたかった」と、チームと可夢偉の悪い兆候はこの時点から起きていた。
KCMGの土居隆二監督は「何かいつもと違う仕草をしていたら、チームが気づかないといけない。ピット作業と合わせて、まだまだチームが細かい部分の詰めをしていかないといけない。可夢偉がせっかく4戦目でここまで上がっているのに、チーム力も一緒に乗っかって上がっていなかいと。まだまだトップチームと比べて、そういった部分でのシステムができてない」と、現状のチーム状況を話す。
土居監督はレース直後に表彰台の裏で可夢偉に謝罪の言葉を述べ、チームスタッフもガレージに戻った可夢偉に謝罪。そこで可夢偉はチームを批判することなく、次のオートポリスに向けて、ポジティブなコメントでチームを鼓舞したという。
「(可夢偉は)気持ちが腐ってもおかしくないですし、落胆は大きかったと思いますけど、ピット後も2番手で後ろのソフトタイヤ勢を抑えてくれた。レース後も、ピットの壁に2~3個、穴を開けて怒ってもおかしくない状況で、可夢偉はポジティブに気持ちを切り替えてくれた。それはチームにとって今後のステップにつながっていきますし、彼をがっかりさせないように今後は予選でポール、そして優勝、その先のチャンピオンという目標に向かっていきたい」と話す土居監督。
可夢偉も、会見で落胆の表情やチーム批判はせずに、「次は30秒のギャップを作ります!」と男気を見せる。4戦目にして優勝争いに加わることになったKCMGと可夢偉、その物語は、まだ始まったばかりだ。