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PKCZ®が語る、音楽シーンの現在と未来「90年代を見直そうというタームに入ってきている」

2017年08月19日 10:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 PKCZ®の連続インタビュー企画、ラストはDJ MAKIDAI、VERBAL、DJ DARUMAによるクロストーク。満を持してリリースされた1stアルバム『360°ChamberZ』のコンセプト、7月に行われた世界最大級のEDMフェス『Tomorrowland』の手応えから将来的なビジョンまで、PKCZ®の現在と未来について語り合ってもらった。(森朋之)


■「これがいまのPKCZ®のベスト」と言える作品になった


ーーまずは1stアルバム『360°ChamberZ』の手応えから教えてもらえますか?


DJ MAKIDAI:今回はたくさんのアーティストの方々に参加してもらってるんですけど、 みなさんからの「おめでとう」という言葉もそうだし、先日3人で「HiGH&LOW THE LAND」「居酒屋えぐざいる」に行ったときもファンの方から「アルバム良かったです」 という反応があって。アルバムを出したことによって、自分たちがやれることもさらに増えそうだなと思いますね。


VERBAL:リリースまでに約2年かかったので「待ってました!」とリアクションされるのも嬉しいし、「ここから次のレベルに行こう!」と新しいビジョンが見えて来たのも良かったなと思っています。


ーー活動スタートからの2年間はイベントが中心でしたからね。


VERBAL:海外のDJをブッキングしたいときも「まだ音源はないんですけど、そこをなんとか」という感じでオファーしてましたから(笑)。名刺代わりのアルバムが出来たこと で、確実に可能性は広がるんじゃないかなって。既にメンバーと「世界進出」というテーマで盛り上がっているし、いいポイントになると思います。


DJ DARUMA:曲がほとんどない状態でイベントを続けてきたことで、いろんな発見もあって。たとえばリード曲の「PLAY THAT feat.登坂広臣,Crystal Kay,CRAZYBOY」は三代目 J Soul Brothersのツアーをはじめ、様々なライブやイベントで披露してきたことで、音源化する前からアンセムになっていて。フィーチャリングさせていただいているアーティストも、ほとんど現場で一緒にやったことがある人たちですからね。そういう意味では、イベントが軸になってるんだなって思います。


ーーゲストのアーティストも多彩だし、音楽のジャンルもすごく幅広いですよね。


DJ MAKIDAI:そうですね。メンバーが聴いてきた音楽、感銘を受けてきた音楽が中心になってるんですけど、それはひとつのジャンルで括れないので。90年代のヒップホップ・カルチャーという共通項がありつつ、これまで経験したことを咀嚼して、「どこがいちばん良いラインだろう?」という話し合いのなかで、「これがいまのPKCZ®のベスト」と言える作品になったんじゃないかなと。それを象徴しているのが、Wu-Tang ClanのMETHOD MANとEXILE THE SECONDが参加してくれた「INTO THE CIRCLE」なんですよね。


ーー90年代ヒップホップを代表するラッパーであるMETHOD MANが参加したことは既に 大きなニュースになっていますが、これはやはり、VERBALさんのコネクションですか?


VERBAL:いや、さすがに直接つながりがあったわけではないので(笑)。ただ、僕たちのテーマとして「仲間から繋げていく」ということがあって。アメリカの大統領とかは難しいかもしれないけど(笑)、アーティストだったら、誰かしらつながりがありますからね。いまはインスタでDMすることも出来るし、「こういうことをやってるんですけど」 とアプローチすれば「おもしろいね」という反応が返ってきますから。METHOD MANの場合は、たまたま僕たちの仲間のなかに知っている人がいたので、そこからコンタクトを取った感じですね。


DJ DARUMA:METHOD MANが参加してくれるなんて、逆に夢にも思えてなかったです。自分にとっては現存する90’sのラッパーのなかでもいちばん好きな人だし、スーパーアイドルの一人なので。


DJ MAKIDAI:そうだね。


DJ DARUMA:「本当にラップを送ってきてくれるのかな?」と少し半信半疑だったんですけど、すごくガッチリしたラップをRECしてくれて。しかもMVにも出てくれるなんて、まったく想像してなかったですね。


DJ MAKIDAI:「INTO THE CIRCLE」は「Hot Music」(Soho)がもとになっているんで すけど、三代目 J Soul Brothersのツアーに帯同させてもらったときに、楽屋で「この曲を 使って、おもしろいことができたらいいね」という話をしてたんですよ。


DJ DARUMA:そうそう。すごくスローなテンポにしたり、いろいろ試して。


DJ MAKIDAI:許諾を取るのに時間がかかってしまったんですけど、この曲だったからMETHOD MANも快諾してくれたんですよね。MVに関しても、こちらが作った仮の映像を見て「これだったら出る」と言ってくれて。それもすごく嬉しかったですね。


■若い世代は90年代の音楽の捉え方が自由


ーーEXILE THE SECOND、三代目 J Soul BrothersをはじめLDHのアーティストも多数参加していて。ふだんの活動とは違った彼らの表現が楽しめるのも、このアルバムの魅力だと思います。


DJ MAKIDAI:せっかくPKCZ®のアルバムに参加してもらうんだから、いつもは出来ないことだったり、もっと濃い部分を出してもらいたかったんですよね。


VERBAL:進化が早いんですよね、みなさん。ELLY(CRAZYBOY)なんて2年前はラップ始めたばかりぐらいだったのに、いまはすごいですからね。「スタジオに遊びにくれば?」みたいな感じで来てもらって、その場でリリックを書いてもらったんですよ。その後、短期間で10曲分くらい書いてデモを渡された時はビックリしました(笑)。学習能力の高さと制作意欲には脱帽です。


DJ MAKIDAI:上から言うわけではないけど、すごく成長のスピードが速いんですよ。


VERBAL:これは余談ですけど、この前、GENERATIONSのライブを観に行ったら、(白濱)亜嵐くんがDJをやっていて。4つ打ちで盛り上げたところで「Everybody Fuckin’ Jump!」って叫んで(笑)、お客さんも「イエー!」みたいになっていて。それがすごくい い感じだったんです。僕だったら「Fuckinなんて言っちゃマズいかな」って思うかもしれ ないけど、亜嵐くんはぜんぜん迷いがなかったし、それは正しいことだなって。


DJ MAKIDAI:しかも爽やかなんだよね。


VERBAL:そう。亜嵐くんがそういうことをやってくれると、僕らもやりやすくなるし。


DJ DARUMA:GENERATIONSのメンバーもそうだけど、いまのシーンを見渡してみると、20代でカッコいいヤツがどんどん出て来てるんですよ。 KANDYTOWNとか CreativeDrugStoreやYEN TOWNなどを見ていても、ヒップホップを自由に解釈していて、すごくナチュラルに楽しんでいて。気張らない感じもいいんですよね。これは僕の個人的な意見なんですけど、90年代に20代だったアーティストーー電気グルーヴやスチャダラ パーやそれこそZOOの皆さんーーって凄く独特の余裕感があって、いまの20代の佇まいは それにすごく近いと思っていて。90年代を見直そうというタームに入ってきて、若者のテ ンションまで似ているのは興味深いですよね。


ーー若い世代のクリエイターが音楽やカルチャーのトレンドを自然に取り入れて、独自の解釈を加えて発展させているんですね。


DJ MAKIDAI:そう考えると、90年代を知っている自分たちがPKCZ®として2017年に活動 していることもいいことだなって思いますね。GENERATIONSやEXILE THE SECONDが参 加してくれることもすごく意味があるし。


DJ DARUMA:これはMAKIDAIが言ってたんですけど、「INTO THE CIRCLE」を聴いて 「『Hot Music』がもとになってるんだな」と分かる若い子はほとんどいないと思うんですよ。でも、それでいいんですよね。サンプリングの元ネタを知らなくても、「カッコいい な」というところで楽しんでもらえたら、継承してくれてることになると思うので。もちろん、どこかのタイミングで「Hot Music」を知って、「これって『INTO THE CIRCLE』 で使われていた曲だ」って気付いてくれたら最高ですけどね。


VERBAL:若い世代は90年代の音楽の捉え方が自由なんですよね。僕らはリアルタイムで 知っているし、良くも悪くも型にハマっているところがあると思うんです。「このトラックに歌を乗せるんだったら、こういう感じじゃないとダメでしょ」って。若いクリエイターはコード感やリズムによって「こういう感じも良くないですか?」と自由にメロを乗せてくれるから、僕らにとってもすごく新鮮なんですよ。これも余談ですけど(笑)、 Happinessがクリス・クロスの「JUMP」をカバーしたときもすごく良かったんです。彼女たちは当時のことを知らないと思うけど、だからこそピュアに表現できるというか。本当に知っているとコスプレっぽくなりがちだし、知らないからこその自然なエネルギーってありますからね。


DJ DARUMA:シンプルに「新しい、かわいい、カッコいい」というヴァイブスで捉えて るんだよね。


DJ MAKIDAI:そうだね。自分たちの体に入っている音楽が、1周回って“アリ”になってい るというか。服やダンスもそうですよね。


ーーアルバムが完成したことで、PKCZ®の役割もさらに明確になってますよね。2年前ではなく、このタイミングでリリースしたことも良かったのでは?


DJ MAKIDAI:そうですね。アルバムはひとつの目標だったんですけど、制作のミーティングのなかでHIROさんから「もっと海外のクリエイターをフィーチャーして、他のアーティストが羨ましいと思うような存在を目指してほしい」と言ってもらって。2年かかりましたけど、Afrojack、METHOD MANが参加してくれたことを含めて、存在意義を示せたんじゃないかなと思います。


DJ DARUMA:最近だと、カルヴィン・ハリスやDJキャレドといったアーティストがそうですけど、いろんなアーティストを召喚しながら、自分のカラーを出すというスタイルがワールドスタンダードになってると思うんですよ。そういうタイミングでPKCZ®がこのアルバムを提示できたことも、良かったんじゃないかなって。m-floがやっていた「loves」シリーズもそういうスタイルだったけど、勿論その時はまだスタンダードではなかったしm-floはすごく早かったんですよね。


VERBAL:「loves」シリーズは究極の他力本願スタイルというところもあったけどね(笑)。僕らはもともと海外の音楽が好きで、アメリカのヒップホップをカッコいいと思っ て育ってきてるので、「海外のラッパーやシンガーと一緒に新しいことをやりたい」という気持ちが強くて。いまはそれがサクッとやれますからね。「曲が出来ちゃったから、リリースしません?」ということも増えると思うし、来年以降はさらにグイグイやりたいですね。


DJ DARUMA:7月に(世界最大級のEDMフェス)『Tomorowland』に出させてもらったの も、すごく良い経験になりました。向こうでは完全に新人なんですけど、だからこそ音楽 だけで勝負できるチャンスでもあって。3人でセットを考え抜いていまのベストをぶつけたんですが、すごく反応があったし「こいつら、いいじゃん」って感じで盛り上がってくれたんですよ。ちゃんと時代感を捉えて、戦略的にポイントを抑えながら表現すれば、ある程度は勝負出来るなって。そう思えたのも自信になりましたね。


VERBAL:16個のステージのなかで、2番目に大きいステージだったんですよ。しかも前 日にタイムテーブルが変わって、僕らの前にUmmet Ozcanというビッグアーティストが出 たんですよね。もちろんガッツリ盛り上げていたし、僕らがかけようと思っていた曲もガンガンかけていて、「これはビールとか飲んでる場合じゃないぞ」という感じになって。


DJ DARUMA:飲みたかったけどね(笑)。


VERBAL:(笑)。でも、いざやってみると思った以上にリアクションがあって。日本の国旗を掲げてくれる人もいたし、すごくいい経験でした。


DJ MAKIDAI:『Tomorrowland』のブランドもあるとは思うんですけど、僕らがやらせて もらった60分のセットに対する反応は正直だったと思うんですね。そこでいい感じに盛り 上げられたのは本当に良かったなって。音楽の表現はもちろんだけど、VERBALくんが英 語のMCで繋いでくれたし、お客さんも「日本のアーティストなんだな」とか「着てるものもおもしろいな」とかいろんな見方をしてくれて。来年以降も楽しみですね。


ーー期待してます。PKCZ®は多面的なプラットフォームとして機能していると思うし、日 本のシーンにも大きな刺激を与えそうですよね。


DJ DARUMA:そうなったらいいですよね。洋楽が好きだったり、クラブシーンに接してる人って、日本の音楽をあまり聴かない人も多いと思うんですよ。そういう人がコンビニで自分たちの曲を聴いて「日本語だけど、このサウンドの質感、めっちゃいいな」と思ってもらいたんですよね。もちろんアルバムを聴いてもらえたら嬉しいけど、まずは「こういう曲がチャートに入ってきたらおもしろくなるな」と思ってもらえる状況を作りたいので。


DJ MAKIDAI:大切なのはふり幅だと思うんですよね。多種多様な楽曲をPKCZ®から発信 することで、いろんなシーンに切り込んでいきたいなと。『360°ChamberZ』というタイトル通り、どこから見てもらっても、どこから入ってきてもらっても「いいな」と思っても らえるものを提示していきたいし、クリエイティブな発想で物事を捉えていきたいんですよね。それを形にできたのが、今回のアルバムだと思います。