今シーズンは19人中、15人のドライバーがポイントを獲得して、タイム差だけでなくポイントランキングでもとにかく僅差のスーパーフォーミュラ。今週末の第4戦ツインリンクもてぎの金曜走行でも、タイヤの使用状況が異なるにも関わらずトップから17台が1秒差以内で、風向きが変わっただけでも大きく順位が変わる状況だ。そんなわずかな違いが大きな差となるスーパーフォーミュラだが、今回の第4戦もてぎでは新しい要素が3つも加わることになる。
そのひとつめの要素は、今回の第4戦で投入される2スペック目のタイヤとなる新設計のソフトタイヤだ。開発段階ではトヨタ、ホンダからそれぞれ数名のドライバーが今回のソフトタイヤをテストできたようだが、もてぎでこのソフトタイヤを装着するのは全ドライバーが初めて。
つまり、今週末のレースウイークに未経験の新ソフトタイヤを装着することになるため、ドライバーはそのグリップレベル、そしてエンジニアはセットアップが手探り状態で、予測と臨機応変度が大きく試されることになるのだ。
レギュレーション上、週末に使用できるソフトタイヤは3セットのみで、予選のQ1~Q3の3セッションを考えれば、実際に使用するのは予選がはじめて。金曜走行では皮むきやウォームアップの確認に1周だけ使用したドライバーも見られたが、アタックに使用したドライバーは取材した範囲ではいなかった。やはり、予選セッションで”ヨーイドン”の状態になることは間違いなく、昨年の模様からも予選はかなりスリリングな展開になりそうだ。
開発段階の情報からはソフトタイヤはミディアムタイヤよりも約2秒速いラップタイムで周回できるパフォーマンスがあると言われており、予選のタイムが気になるところ。また、裏を返せばそれだけピークのグリップが高いということは、摩耗やタレも大きくなることが推測され、ドライコンディションとなったレースでは各ドライバーのソフトタイヤの使用タイミングやタイヤマネジメントが勝負の分かれ目となることは間違いない。
そして、今週末のスーパーフォーミュラのふたつ目の注目ポイントは、この第4戦からトヨタ、ホンダともに導入することになるシーズン2基目のニューエンジンの出来映えだ。金曜の練習走行ではまだまだその素性の比較はできなかったが、スーパーGTとも兼用する2リッター直列4気筒ターボのNRE(ニッポン・レース・エンジン)の開発競争は、ワンメイクや共通部品が多くなった今となっては国内モータースポーツの勢力図を左右する大きな要素。
これまでスーパーフォーミュラではトヨタ・エンジン勢が優勢で、ライバル陣営もそのエンジンパフォーマンスの高さを認めていたが、今季のバージョン2ではどれほどの進化を遂げているのか。TRDのエンジン担当、佐々木孝博エンジニアに聞いた。
「そんなに多くのアップデートはできませんでした」と、いきなり拍子抜けするように今回の改善点の少なさを認める佐々木エンジニア。「いろいろ最適化はしていますが、このスーパーフォーミュラはOTS(オーバーテイク・システム/燃料流量が20秒間、通常の90kg/hから100kg/hに増量して、約30馬力アップ)があるので信頼性の確保が難しく、入れたいタマは次回に見送りました」とのこと。
一方のホンダは、佐伯昌浩プロジェクトリーダーがシーズン前半の時点から「ピークパワー、最高速は(トヨタに)負けてない」と話しており、スーパGTでのバージョン2エンジンの開発の方向性からも、最高速に到達するまでの低中速域のピックアップやドライバビリティの改善を今回のバージョン2エンジンに施してきているようだ。
やや平行線気味のトヨタと、アップデート版を持ち込んだホンダの両エンジンの対決は、この第4戦もてぎだけでなく、後半戦のスーパーフォーミュラのゆくえを占う意味でも見逃せないポイントとなる。
今週末のポイント、最後の3つめの要素は、今回の第4戦もてぎからチームルマンに驚きのビッグネームが加入したことだ。その名はスティーブ・クラーク。ご存知の方は多くはないとは思うが、F1ではマクラーレンやメルセデスAMG、そしてフェラーリなどでシニア・エンジニア、チーフ・エンジニアなどを務めた人物。言うなれば世界トップクラスのスゴ腕エンジニアが今回から大嶋和也の担当エンジニアとして、スーパーフォーミュラに参戦することになったのだ。
昨年のストフェル・バンドーンや今季のピエール・ガスリー、そしてアンドレ・ロッテラーなどなど、ドライバーラインアップは世界のトップクラスに肩を並べつつあるスーパーフォーミュラだが、エンジニアレベルでも世界のトップカテゴリー級になりつつある。スティーブ・クラークと同時期にフェラーリでF1を戦ったP.MU / CERUMO · INGINGの浜島裕英監督もすでに挨拶済みとのことで、「物事を広く見て考えられるエンジニア」とライバルとなったエンジニアを高く評価していた。
まだ金曜の走行しか終わっていない段階ではあるが、大嶋和也も「すごく経験が豊富なエンジニアで、前回の富士から見ていたり、ファクトリーでの7ポストリグのテストにも参加して、ある程度、クルマのセットアップのイメージを固めていたみたいで、やりたいことやアイデアが豊富。進め方もわかりやすいですし、今までのやり方とは違いますね。レースウイークの中でもどうやって戦っていくか細かく計画を立てています」と、すでにその実力を認めている様子。
チームとしては大嶋和也とエンジニアが英語でコミュニケーションを進める分、セッション中のメカニックたちの対応の面などでまだまだ課題があるようだが、スティーブ・クラークの存在が今後のチームルマン、そして世界規模への発展を目指すスーパーフォーミュラにとって、重要な存在になっていきそうな気配を感じる。この第4戦もてぎだけでなく、今後も注目していきたい存在だ。