日本の科学技術研究が失速気味だ。科学技術・学術政策研究所が先月発表した調査によると、日本の自然科学系の論文引用数は世界4位と、前回調査時の2位を下回った。研究にかけられる資金の乏しさが影響しているとも言われるが、こうした中、英科学誌ネイチャーは8月14日、日本の科学研究予算の削減に関する記事を掲載した。
かつての「研究者の楽園」は、過去10年で20%以上も予算が削減
記事タイトルは「研究予算削減が日本の研究者のフラストレーションを煽っている(Budget cuts fuel frustration among Japan's academics)」。
記事では、日本の研究機関で研究にかけられるお金が年々減っている現状を紹介している。例えば、理化学研究所はかつて潤沢な研究資金を持っていることから「研究者の楽園」と呼ばれていたが、それも今や昔。「過去10年で予算は20%以上削減され、その影響で、同研究所の脳科学総合研究センターの研究者は61人から41人に減少した」と報じている。
大学の研究資金不足についても指摘する。国立大学法人の運営費用として国から支出される「運営交付金」は、2004年の法人化以降毎年1%ずつ減らされている。これは、企業との共同研究や軍事研究の実施によって、大学の競争力を強化する目的で行われているが、削減で生じた経済的損失を埋めるために大学が取ったのは、教員補充の停止や任期付き教員の採用だった。
科学技術白書でもこの点について、経済的にも雇用面でも不安定な状況下にある若い研究者が、短期間で独創性と創造性を兼ね備えた研究を遂行するのは困難と明記されているという。記事の最後には、
「日本は重大な科学的発見を生み出し出版する力の衰えを残念がるかもしれないが、それは驚くべきことではない」
と、研究資金の減少による科学力の失速は当然だと指摘。ネイチャーのフェイスブックには「悪いニュースだ」とのコメントが付くほか、国内のツイッターでは「ネイチャーがこんなに大きく取り上げるほどの」と驚く声や、「もうこれこのまま文科官僚に送りつけたい」といった感想が上がっていた。
2015年度の日本の研究開発費総額は中国の半分程度
国内でも、同様の指摘は多くされてきた。昨年2016年には、ノーベル生理学賞を受賞した大隅良典教授が日本学術振興会のコラムで、大学や研究所の経営資金の乏しさや、「科研費等の競争的資金なしには研究を進めることは困難」な現状を述べていた。
研究者が科研費を貰うためには、日本学術振興会の審査を通過する必要がある。そのため大学では、審査に通りやすい分野や流行中の分野の研究者を採用する傾向が強まっており、結果として基礎研究がおろそかにされがちだという。若い研究者にも「はやりの」研究や「役に立つ」研究をしたいと言う人が多いらしく、大隅教授はこうした傾向について
「研究者は自分の研究が、いつも役に立つことを強く意識しなければいけない訳でもないと考えている。『人類の知的財産が増すことは、人類の未来の可能性を増す』と言う認識が広がることが大切だと思う」
と見解を述べていた。
冒頭で紹介した科学技術・学術政策研究所の調査によれば、2015年度の日本の研究開発費総額は18.9兆円と、アメリカ、中国に続き3位だ。しかし額を見ると、アメリカが51.2兆円、中国が41.9兆円と、日本との差は大きい。大学や公的機関、企業など、それぞれの研究機関にいくら振り分けられているかを確認すると、日本では公的研究機関に総額1.4兆円配分しているが、アメリカでは同じ公的機関に5.4兆円、中国では6.8兆円かけている。ここでも差が開いている。
ネイチャーの記事では最後の一文で、「日本は確かに過去の科学に関して誇りがあるだろうが、未来を守るためにもっと対策を取るべきだ」と警鐘を鳴らしていた。