F1シーズンを転戦していると、いろいろな人との出会いがある。そんな人たちに、「あなたは何しに、レースに来たのか?」を尋ねる連載企画。今回は、ルイス・ハミルトンの父親アンソニー・ハミルトンだ。
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不思議なめぐり合わせの縁のことを奇縁というが、F1の世界では、稀に奇縁としか思えない偶然に出会うことがある。今年のハンガリーGPに来ていたアンソニー・ハミルトンが、まさにそうだった。
アンソニー・ハミルトンはルイス・ハミルトンの父親である。ドライバーの父親がサーキットに来ること自体はそんなに珍しいことではないが、アンソニー・ハミルトンは今年、開幕戦からずっと姿を見せていなかった。しかも、ハンガリーGPの2週間前に開催されたハミルトンの母国グランプリとなったイギリスGPにも顔を見せなかった。
ハミルトン親子にとって、ハンガリーGPは因縁のグランプリである。それは2007年の予選でハミルトンがロン・デニスの指示を無視して、フェルナンド・アロンソとポジション争いを展開したため、チーム内が混乱。結局、アロンソがペナルティを科せられた苦い思い出がある。
じつは、あのときFIAにマクラーレン内で起きていたことを、FIAに密告したのが父親のアンソニー・ハミルトンだったと言われている。
さらに今年のハンガリーGPでは、予選前にフェリペ・マッサが突然体調を崩して、ポール・ディ・レスタが代役としてウイリアムズからレースに出場した。
そのディ・レスタのマネージャーをかつて務めていたのが、なんとアンソニー・ハミルトンだった。だが、2人は2012年半ばに決別。その後、法廷闘争を繰り広げるまで関係が悪化したこともあった(2014年に和解が成立)。
そのディ・レスタが法廷闘争を繰り広げた2013年以来、4シーズンぶりにF1にカムバックしたという場に、今シーズン初めてサーキットに来たというアンソニー・ハミルトンがいたのは奇遇としか言いようがない。
ところで、アンソニー・ハミルトンは、いま何をしているのだろうか。
「いまはもう、ルイスのマネージャーでもないし、ほかのだれかのマネージメントもしていない。レース業界からは完全に足を洗った。いまはスポーツ関連の会社を設立して、ボートを漕ぐためのトレーニングマシンとサッカーボールをリフティングするためのトレーニングマシンを販売しているよ」
ハンガリーGPには、「夏休みを利用して、のんびりと久しぶりのF1観戦に来た」と言うアンソニー・ハミルトン。しかし、マクラーレンCOOのジョナサン・ニールらチーム関係者とあちこちで立ち話し、さらにセッション中はモーターホームではなく、ガレージでヘッドセットを付けて無線を聞いていた姿は、「のんびり」というイメージから程遠かった。
もしかしたら、F1復帰のために食指を動かしていたのかもしれない。