トップへ

有村架純にできた2つの故郷 『ひよっこ』思いが溢れた言葉を振り返る

2017年08月12日 13:42  リアルサウンド

リアルサウンド

 『ひよっこ』(NHK総合)の物語は、みね子(有村架純)が表へ飛び出し、茂(古谷一行)に「おはよう。じいちゃんごめん、寝坊した。早く起きて田んぼ見るって約束したのに」という朝の挨拶から始まった。奥茨城に住む小さな農家、谷田部家には田んぼが当たり前にある。


(参考:朝ドラの“お約束”崩す『ひよっこ』、脚本家・岡田惠和の狙いは?


 「奥茨城編」「乙女寮編」「あかね荘編」と進んできたストーリーは、ここ数週間で登場人物が様々に交錯し始めている。乙女寮の舎監だった愛子(和久井映見)があかね荘で暮らすことになり、すずふり亭のホール係であった高子(佐藤仁美)は三男(泉澤祐希)の兄、太郎(尾上寛之)の嫁に行った。中でも、行方不明だった実(沢村一樹)がみね子とあかね荘で過ごす画は、なかなかに想像できなかっただろう。そんな中だからこそ、第19週「ただいま。おかえり。」でみね子と実が奥茨城に帰ることの意味合いは大きい。


 「ただいま。おかえり。」は、“谷田部実”という人物の家族思いで優しい人柄、谷田部家にとっての実を表した週だ。実は出稼ぎ労働者として東京で暮らしている時も、変わらず家族を思っていた。ひったくりに遭い、記憶をなくすその時まで。記憶を失っていても、そこにいるのは谷田部実。変わらず父親っ子の進(髙橋來)、すっかりお姉さんに成長したちよ子(宮原和)、子供達の相手をするその姿は父親そのものだ。そして、「実っていい名前ですね。好きです」、笑顔で父の茂に告げるシーンは、息子として。古谷一行の涙を堪える名演が、観るものの心を打つ。「もう一回好きになってくれるかな」と再び妻としての決心を固めた美代子(木村佳乃)。実をエスコートし、奥茨城まで連れて帰ってきたみね子も、一人の娘。「こんな感じか?」と、よくやられていた両手でほっぺたを挟める仕草は、別れた島谷(竹内涼真)にもされていたのもあり、少しこっぱずかしそうな表情を見せる。


 また、「ただいま。おかえり。」は、稲刈りのため実が奥茨城に帰ってきた第1週「お父ちゃんが帰ってくる!」を踏襲したシーンが随所にインサートされている。一家団欒で食卓を囲み、夜には暖を取り大人だけの話を、田植えを終え家に帰る道すがらみね子が「谷田部家のみなさま、今年も田植えお疲れ様でございました」と礼をするシーンは、稲刈りの時のセリフと同じものだ。また、家族でこの時を過ごすことが出来た。みね子の思いが溢れた言葉だ。


 タイトルにある「ただいま。おかえり。」は、みね子、実が奥茨城に帰ることと、もう一つの意味を持ち合わせている。みね子にとっては、東京ももう一つの故郷になっていた。早く東京に戻りたい、自分の場所で早く働きたい。“みね子がいない、すずふり亭”を知った店の面々は、みね子の帰りを心待ちにしていた。帰る場所がある。共に生活をする時子(佐久間由衣)に「おかえり」と言われ、「ただいま」とみね子は返すのだった。


 一旦の収束を見せた『ひよっこ』だが、第20週「さて、問題です」では予告に、乙女寮の面々、牧野由香(島崎遥香)、綿引正義(竜星涼)とこれまでストーリーを彩ってきた面々が続々と登場する。冒頭で登場人物が交錯していると書いたが、それは更に複雑に絡まっていきそうだ。9月30日の最終回まで残り1カ月余り。『ひよっこ』は、まだまだ視聴者を楽しませてくれる。


(渡辺彰浩)