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錦戸亮の笑顔は、一週間の疲れを癒やしてくれる 『ウチの夫は仕事ができない』の新鮮な夫像

2017年08月12日 11:52  リアルサウンド

リアルサウンド

 妻から「理想の夫」だと思われていた小林司は、実は仕事ができない。「できる夫」だと信じ込んでいる妻には、職場のお荷物社員だと知られたくない。ミスは多いし、上司や同僚の視線は冷たいし、「会社辞めたい」と思っていた矢先に妻が妊娠。身重の妻のためにも仕事を頑張りたい……そんなちょっと残念で、でもけなげで可愛い、仕事ができない夫・小林司を器用に演じている錦戸亮。妻の沙也加(松岡茉優)との、ほのぼのした会話に一週間の仕事の疲れが癒される。


参考:錦戸亮、“愛情の仕事術”で好評価へ 『ウチの夫は仕事ができない』第5話レビュー


 優しすぎて意見を強く主張できなかったり、要領が悪くて本当に言いたいことが伝わらなかったりすることで、仕事をしていると損をすることは確かにある。仕事に限らず恋愛を含めた人間関係において、私たちには高度なコミュニケーション能力が必要とされる。損得を一瞬で判断して、効率よく端的に自分の魅力を表現できる人は確かに評価が高くなる。


 一方、一度「仕事ができない」というレッテルが貼られると、そのイメージを覆すのは難しい。そんななか、主人公の小林司は大きな問題にぶつかって、一つ一つ解決していくうちに少しずつ味方を増やしていく。正直に、自分の心に嘘をつくことなく、そして誰かを傷つけることなく、最善の道を必死に探すのだ。


 ショートカットで楽々と結果を出せる「できる男」とは別の、寄り道をしながらも周囲に幸せをもたらす男。そんな仕事の仕方を教えてくれる自己啓発本はないが、説得力のある錦戸亮の演技が、「こういうやり方もありかな」と思わせてくれる。


 職場で仕事ができると認められるのは、職業や会社によってそれぞれにある独特のルールや慣習に従い、プロ目線で目的を達成する力があるということ。最近、ある企業の厳しすぎる新入社員研修が問題になった。人格否定や洗脳のような行き過ぎた研修によって個性を消して、会社の利益再優先の人間になることで認められるという場合もある。


 自分が今まで大切にしてきたもの、自分らしさを消すことなく私たちはどう仕事と付き合っていけばいいのか。仕事ができる上司、土方(佐藤隆太)も、仕事優先で家庭をかえりみなかったことで妻と別居したことを後悔している様子。仕事はもちろん大事だが、人生には手放してから悔やんでも遅すぎるものがたくさんある。


 どう折り合いをつけるか、どうバランスをとるか、そして何を信じるか。仕事ができる、できないにかかわらず、誰もが人生で悩む問題なのだ。


 彼を支えている妻の沙也加も、彼女なりにマタ友からの情報に影響を受けつつ、彼と一緒に悩み、悩むことで彼への理解を深めていく。


 第6話は「ケンカ」がテーマだ。ケンカとは無縁の穏やかな小林司がケンカから何を得るのか。職場の相手とのケンカは避けたいところだが、どう対処すべきかをドラマから学ぶこともできそうだ。


 「仕事ができない」と、開き直るわけでもなく、部下の軽蔑の眼差しにふて腐れることもなく、自分だけのためでなく愛する妻のためにも「仕事ができる男」になるべく進む小林司。仕事ができないと、「仕事ができる風」の装い方だけうまくなる人が多いなか、やけに新鮮に感じる。仕事、人間関係疲れを癒し、充電するためにも、小林司(錦戸亮)の笑顔は必要だ。(石田陽子)