2017年08月12日 10:13 弁護士ドットコム
会社員などの「働き方改革」の整備がゆるやかながらも進む中、流れに一歩遅れをとっているのが教員の労働問題だ。そんな中、東京都港区の教育委員会がはじめる教員の働き方改革に教育関係者らから注目が集まっている。
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〈学校現場における教職員の働き方の改善に向けた取組について〉
港区立の幼稚園、小学校、中学校の各学校で、保護者に宛て、そう題されたプリントが配布されたのは、1学期の終業式を控えた7月末日だった。具体的な内容は各学校によって異なるが、「勤務時間終了後は、原則定時退勤。遅くとも、午後8時には退勤」「週に1度は定時退勤」「長期休業期間は定時退勤」などが並ぶ。
差出人は、港区教育委員会教育長、各学校長の連名だ。
保護者の1人は「学校でトラブルがあった際など、担任の先生から19時すぎに電話がかかってくるので、働きすぎではないかと気になっていた。民間企業でも働き方改革が進む中、旧態依然とした先生たちの働き方が変わるのは当然のこと」と話す。また別の保護者も「定時退勤は当たり前だし、その分、余裕をもって子どもに向き合って欲しい」と、この試みにエールを送る。
この取り組みについて、港区教育委員会事務局の中島博子庶務課長は、「かねてより、教育現場の長時間労働が課題となってきた。教育の質をあげるためにも、働きやすい職場にすることで、先生たちが心身良好な状態にあることが大事と考えた」と、その狙いを語る。
「先生たちは、子どもたちが帰ってから、授業準備や保護者対応などがあり、長時間勤務になってしまっている。先生たちは翌朝の出勤時間は早く、疲れもたまってます。メリハリをつけた働き方をすることで、これまで以上に、子どもたちと向き合える教育環境としたい」
今年5月に校長会で話をしたところ、「本当にできるのか」という戸惑いも見られたそうだ。そこで、一律で同じ対応をさせるのではなく、現状に照らし合わせた実現可能な目標を各学校で設定した。
実際、各学校の取り組みをみてみると、長期休業期間中は多くの学校で定時退勤(午後4時45分、午後5時など)を目標に掲げるが、中には「午後6時30分には退勤する」程度にとどめた学校もある。
また、中学校は部活動によって、長時間労働になりやすいとの指摘があるが、「毎週水曜日は部活休養日とし、定時退勤を原則とする」、「長期休業期間中は、定時退勤」などの目標を掲げる中学校も複数あった。
達成できなかった場合、罰則はないのか気になるところだが、「罰則はない。調査結果も集約をしない。学校から実施結果を求めることで、調査書の記入などの学校の事務負担につながる。あくまで長時間労働を見直すためのきっかけ作りの1つとしての取り組み」(森田秀和・庶務課教職員係長)だ。
なお、学校で教員の長時間労働がやまない背景の1つに、労働時間の管理が厳密になされていないとの指摘もある。今後、港区では、労働時間を把握するためのタイムレコーダーの設置も検討中だという。
この改革について、港区外の公立小中校の教員たちに聞くと、「自分の区では、こうした動きはない」(大田区・20代)「教育委員会、校長が呼びかけるのは大きい。全国に広まって欲しい」(千代田区・30代)などと、一様に好意的な反応だ。
今後、こうした動きは広がっていくのか。文部科学省も手をこまぬいているわけではない。今年6月末には、文部科学省などが「学校現場における業務改善に係る取組の徹底について」という通知を全国の教育委員会にあてて出している。
この中で、「教員の業務負担の軽減が喫緊の課題」「教員の長時間勤務を見直すことで,教員が自らを研鑽できる機会を持ち,意欲と能力を最大限発揮して教員自身が誇りをもって働くことができるようになる」として、勤務時間の適正把握、労働安全衛生管理体制の整備などを呼びかけた。
巨大組み体操、スポーツ事故など「学校リスク」について情報発信する名古屋大学大学院准教授の内田良さんは、新刊「ブラック部活動 子どもと先生の苦しみに向き合う」で、部活動が顧問教員の長時間労働につながっていることなどを指摘した。
その内田さんも、この港区の取り組みについて「多くの学校がまだ無風状態のなかで、少しずつ声を上げ始めた学校がいることは、これからの改革に大きな期待を抱かせてくれます」と、評価する。
民間で働き方改革への大きなうねりが起こっている中、教員の労働環境についても同様の改革はなされるべきだろう。保護者もまた、その働き方改革に協力することが必要であることは言うまでもない。
(弁護士ドットコムニュース)