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『バズリズム』プロデューサーが語る、音楽との“フラット”な向き合い方

2017年08月11日 10:03  リアルサウンド

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 音楽の魅力を広く伝えるメディアとして、大きな機能を果たすテレビの音楽番組。CD全盛期に比べて番組数が減少する中、それぞれ趣向を凝らした番組づくりが行われている。そんななかでも、注目すべき番組に焦点をあてていく連載『テレビが伝える音楽』。第三回は、『バズリズム』(日本テレビ系)のプロデューサーを務める前田直敬氏にインタビューを行った。ネクストブレイクの新人からロングキャリアの大物まで、アーティストたちの魅力を独自の視点で紹介する『バズリズム』はどのようにして作られていったのか。その答えは、前田氏が歩んできたキャリアとMCを務めるバカリズムの存在にあった。(編集部)


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■「間口を広くしてマスに音楽を届けたいと思った」


ーーまず、前田さんがこれまでどういった番組に関わってきたかをお聞かせください。


前田直敬プロデューサー(以下、前田):1998年に日本テレビに入社して、1年目の後半に『THE夜もヒッパレ』のADに配属されたのが最初の音楽番組でした。その後『THE夜もヒッパレ』が終了して、『FUN』という松任谷正隆さんと藤原紀香さん、今田耕司さんが司会だった番組も担当しました。僕が主に音楽番組を担当するようになった決定打は、2006年にバップ(日本テレビグループのレコード会社)に出向になったことですね。そこで3年半A&Rをやることになって。


ーーテレビマンがレコード会社に出向してA&Rを担当するというのはかなり珍しいパターンだと思うのですが、そこで得た経験で今に生かされていることはありますか。


前田:出向する前、僕は目の前の景色が変わらないことにちょっとモヤモヤした時があって。というのもテレビってマスターテープを1本作って納品したら、パラシュートのように地方、ネットワーク各局に同じクオリティのものが電波にのって届くんですよね。でもバップに行って、当たり前ですけど地域や店によってCDのラインナップや並べ方が違う、関わる人の方針や意図で展開に大きく差が生まれるということにびっくりしました。A&Rは草の根的に一つずつ販路を増やしていくというテレビとは真逆の行動が必要なんですけど、僕はそれがものすごく楽しかったんですよね。たしかにその経験や感覚は今もすごく役に立っています。テレビ業界では視聴率が一つの指標として重要視されますが、リアルなマーケットの感覚をつかんでおくことが大切だということもその経験から得たことかもしれません。テレビ番組は千万単位の視聴者を喜ばせるつもりで向き合わなければならないので、実際にライブでアリーナクラスの会場を埋めることができるアーティストでも番組にブッキングするのが難しいこともある。でも、その数万人の間では確実にお金が動いているし、マーケットやコミュニティが成立している。そうやってコアとマス、両方を理解しておくことは大事だなと思っています。


ーー現在担当されている『バズリズム』を立ち上げることになった経緯は?


前田:僕が担当していた中村正人(DREAMS COME TRUE)さん司会の音楽番組『LIVE MONSTER』が2015年3月に終了することになって。『LIVE MONSTER』の前身番組に『Music Lovers』というストレートなライブの中にトークを挟み込んだ音楽番組があったんですけど、“超一流アーティストの全国大会”というイメージの番組でした。もう一方で、金曜深夜に『ハッピーMusic』や『ミュージックドラゴン』という第一線で活躍するアーティストから次世代アーティストまでが出演する、“タウン情報誌”みたいな感覚でやっていた番組があって。当時はそうやって番組ごとに、役割分担を意識していたんですけど、『LIVE MONSTER』が終了して、それが全部金曜深夜の1番組に集約されることになったんです。だからなるべく間口を広くしてマスに音楽を届けたいと思った時に、オンリーワンなMCのブッキング候補がバカリズムさんだったんですよね。知性も感じるし、普段のお笑いのネタを見ていてもどこか上品さがあって。そこにアーティストが加わったとしても、恐らく相手を傷つけることはないだろうという予感があったんです。結果として、予想通りになりましたね。


ーー番組を観ていても、バカリズムさんは若手の方にもベテランの方にも柔軟に対応されていて、安心感があります。


前田:当然ですけど芸人さんって、最終的には笑いに消化したいという思いがある。アーティストとのコミュニケーションのラリーが最終的に壮大なフリになって、自分のお笑いでオチをつける、というようなことが時折見られます。でもバカリズムさんは実際ご一緒してみると、良い意味でそういう欲がないんですよね。アーティストさんから見ても、新鮮な角度からの質問があったりもして。例えば、第1回のゲストだったポルノグラフィティさんが楽曲の制作環境の話をした時に、バカリズムさんも作業場を持っていらっしゃるからか、同じクリエイター目線で「こういうところに気が散るようなものを置いてたりしないですか?」とか「どういう部屋なんですか?」と聞いていて。他とは一味違ったトークの展開が生まれるのもバカリズムさんのMCありきだと思っています。


ーー『バズリズム』はゲストのラインナップが幅広く、ネクストブレイクも積極的に紹介されている印象があります。なかでも、新人アーティストをランキング形式で紹介する「コレはバズるぞ」は毎回注目を集めていますが、どういう経緯で始められた企画なのでしょうか。


前田:僕自身の強い思いとして、誰もが音楽番組に出れば良いというわけではない、というのがあって。『夜のヒットスタジオ』(フジテレビ系)や『トップテン』(日本テレビ系)『ベストテン』(TBS系)のように、テレビの真ん中に音楽があるような時代があったと思うんですけど、残念ながら今、嗜好が細分化されていく中で、テレビに出てスタジオ歌唱すれば必ず人気が出るのかと言ったら、残念ながらそうではないこともあるわけですよね。でも人気が爆発する寸前のところにいるアーティストと、僕らテレビがうまくタッグを組むと、一気にブーストする時があるんです。例えば、以前「これはバズるぞ」ランキングで1位になったWANIMAなどがそうですね。彼らにはその後『バズリズム LIVE 2015』にオープニングアクトとして出演してもらいました。そのライブで「これは絶対イケる」と思って、バックステージで「来年は本編でやろう」と言ったのを覚えています。実際、翌年は本編で出てもらいました。人気が出てからアーティストに頭を下げるのはある意味当たり前ですし、僕はその手前のところからきちんと自分たちの気持ちを伝えていきたい。だからこそ次世代のスターに早いうちからベットしていくというか。「これはバズるぞ」はアーティスト側だけでなく、僕らにとってもそういった大きな意味があります。


ーーなるほど。WANIMAのようなアーティストとは、普段どのように出会うのですか?


前田:「これはバズるぞ」に関しては、CDショップのバイヤー、ライブハウスのブッキング、音楽誌の編集者、イベンターなど色々なカテゴリーで感度の高い方々にアンケートをとって集計していますが、打ち合わせの場で「今なんとなくこのアーティスト気になるよね」とか、「ザワザワしない?」と話し合う時もありますね。いただいたサンプル盤も含め、普段からいろいろな音楽を聴くようにしています。


ーー常に新しい音楽にアンテナを張ってらっしゃるんですね。また、先ほどお話に挙がった『バズリズム LIVE』のように番組と連動したイベントの開催も特徴的だと思いますが、これにはどういった思いや意図があるのでしょう。


前田:今は、音楽だけでなくどの分野においても、地上波のテレビ番組だけを作っている人間がだんだん減ってきていると思うんですよね。僕も『バズリズム』のプロデューサーでありながら、『TOKYO BEAT FLICK』というHuluのオリジナルコンテンツのライブ番組にも制作プロデューサーで関わっていますし。もちろん放送外の利益を得るという目線もあるし、テレビ以外のところにも存在意義を見出していくという目的もあります。あとは、ライブでしか分からないこともありますよね。例えば配信で何百万ダウンロードという実績はあっても、ライブでの集客力に結びつかないこともありえる。だからライブイベントを組む時は、普段の番組のブッキングで使う脳みそとは、全く違う部分を使っています。先ほどもお話したように、集客力があるアーティストと視聴率を取れるアーティストはイコールではないんですよね。僕らテレビを作っている側の人間は視聴率で一喜一憂するんですけど、目の前に視聴者がいる景色はない。でもライブって、目の前に観客が存在するじゃないですか。それが番組でアーティストをブッキングする上で新しい指標を与えてくれて……だから自分の中では、テレビ以外の場も全部連動してるんですよね。


■「最終的には自分のアンテナを信じるしかない」


ーーライブとテレビではパフォーマンスの演出も違ってくると思うのですが、演出のこだわりや、ライブとは変えていることはありますか?


前田:ディレクターの利根川(広毅)が主となって作る今の日テレの演出って、画面が暗いことを恐れてないんです。昔の音楽番組は、とにかく煌々とスタジオを照らして明るくするという傾向があったと思うんですけど、実際のライブは暗いですよね。『THE MUSIC DAY』も『ベストアーティスト』もそうですけど、今の日テレの音楽番組の画は、暗さがあるからこそ明るさが引き立つようになっているんです。それでメリハリが生まれる。美術チーム、カメラ、音声を含めて、今の日本テレビの音楽番組を作っているチームの能力やクオリティは抜きん出ている、と自信を持って言えます。


ーーそういったライブ感に加えて、日本テレビの音楽番組はお笑いやバラエティとうまくタッグを組んでいるような印象があります。


前田:遡っていくと『今夜は最高!』や『THE夜もヒッパレ』もそうですよね。たしかに日テレの場合、こだわりというか、なんとなくそういうDNAはあるかもしれません。そこに縛られているわけではないですが、例えば長時間の音楽番組を作る時、多くのアーティストの楽曲を新旧織り交ぜて、シンプルに繋ぐ方法も出来る。でも、視聴率で勝っていかなきゃいけないという大使命を考えた時に、今時それだけではダメだな、と。今年の『THE MUSIC DAY』で言うと、データ放送やスマホとの連動企画を行なったり、シンフォニーとコラボしてリッチな空間に見せたり。そうやってテレビとして、リアルタイムで観なきゃいけないという事件性をどれだけ盛り込めるかが大事だろうなと思っています。


ーー前田さんが『バズリズム』を通して、視聴者に伝えたいことはありますか?


前田:自分の場合は、前提として音楽が好きだからやっていて。日テレは音楽専門チャンネルではないので、音楽を特別好きではない人が音楽番組に関わることもあるだろうし、あって良いだろうし。サラリーマン的には音楽番組をやるのって、すごいリスキーなんですけど(笑)。それでもなぜやるかと言うと、僕自身音楽のおかげで喜怒哀楽をずいぶん揺さぶられているし、いつも思うんですけど仕事を通して泣けるって、なかなかないなと。番組を通して、観ている人の人生まで救うことは出来ないかもしれないけど、気を安らげたり、魂を震わせるようなことは出来るのかなと思っています。


ーーそういう熱い思いがあるからこそ、『バズリズム』は愛されているんでしょうね。


前田:番組自体にも厚みが出てきました。小沢健二さんが出演してくれたり、Corneliusさんが『バズリズム』だけに出てくれたり。ブッキングオファーをしているのは僕ですが、僕が凄いわけではなくて、バカリズムさんの看板を背負わせてもらっているからなんですよね。特にCorneliusさんが出演したことは、番組として長期的な目線で考えると大きな意味があり、大事なことでした。


ーーバカリズムさんはCorneliusさんとも普段どおり話していて、それを番組としても自然にサラッと見せていましたよね。ゲストによって扱い方が変わると視聴者は冷めてしまうこともありますが、『バズリズム』はどんなゲストに対してもフラットです。


前田:“フラット”というのは、自分の中でとても大きなテーマですね。当たり前ですけど、アーティスト本人の人気や知名度、事務所やレコード会社の大きさというのは違いはあるんですけど、それによって対応が変わるのは恥ずかしいというか。だからなるべくそうならないように気をつけていて。番組を1時間みっちり色々な出演者で埋めようと思うと、たぶん一瞬で埋まるんですよ。でもそこをグッとこらえて、今のこのタイミングだったらどういうラインナップにするのかという整理が必要で、そのためにもなるべくフラットにいないといけないな、と。


ーーフラットでいること、大切ですが、すごく難しいことだと思います。


前田:そうですね。話題になっているからといって、そこに今乗っかることが100%正しいのかな? と思う時もあるし、逆にまだ皆が気づいていないけど、すごく良いものがあったら出したい、と思うこともある。最終的には自分のアンテナを信じるしかないなと思って、自分が信じるものを積極的に発言しています。そこのアンテナがズレてきたら、自分はもう退けば良いなって。『LIVE MONSTER』時代にいち早く番組に出演してもらったback numberや、MAN WITH A MISSON、SEKAI NO OWARI……今はWANIMAもそうですが、自分が信じたアーティストや音楽が良い展開になっている。だからきちんと結果が出るうちは、自分のアンテナを信じて頑張らせてもらおうと思っています。


(取材・文=村上夏菜)