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小沢一敬が語る、THE BLUE HEARTSに憧れ続けた日々 「ブルーハーツが僕の人生を決定づけた」

2017年08月10日 16:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 THE BLUE HEARTSのアルバム全8作品と真島昌利のソロアルバム2作、計10作品がアナログ復刻盤として発売された。1987年のデビューアルバム『THE BLUE HEARTS』から『YOUNG AND PRETTY』『TRAIN-TRAIN』といった代表作をはじめ、『BUST WASTE HIP』以降の5作品及び真島昌利のソロアルバム2作品は今回が初のアナログ化となる。


 2015年に30周年を迎え、今もなお多くのファンに愛され続けるTHE BLUE HEARTS。リアルサウンドでは、14歳の出会いから今に至るまで、ずっとTHE BLUE HEARTSに魅了され続けているというスピードワゴン・小沢一敬にインタビュー。THE BLUE HEARTSとの出会いから、甲本ヒロトと真島昌利から受けた影響、アナログ盤を聴いた印象などをたっぷりと語ってもらった。(編集部)【※インタビュー最後にチェキプレゼントあり】


ーーTHE BLUE HEARTS(以下、ブルーハーツ)は1987年にデビューアルバム『THE BLUE HEARTS』をリリースしています。当時14歳の小沢さんはどんな音楽を聴いていましたか?


小沢一敬(以下、小沢):子どもの頃は音楽に関心がある方ではなくて、お姉ちゃんの影響で尾崎豊さんや長渕剛さんを聴いてました。当時はヤンキーブームだったし、尾崎豊がアイコン的な存在で、「擦れた少年」みたいなものが流行ってたんですよ。僕も学校をよくサボるタイプだったし、パジャマで登校するような生徒で(笑)。そんな時に幼馴染から「これ良いから聴いてみなよ」って『THE BLUE HEARTS』を録音したカセットテープを渡されたんです。とりあえず家に帰って、聴いてみようとプレイヤーにセットしたら、<ズッタンズズタン ズズタタズッタン>っていう「未来は僕らの手の中」のドラムが始まったの。聞いた瞬間に本当に訳がわからなくなっちゃって、枕に顔を押し付けて「ワァーー!」って叫んで……なぜか知らないけど涙が止まらなくなったんだよね。


ーーそれほど衝撃が大きかったんですね。


小沢:ブルーハーツで大好きな曲はいっぱいあるけど、一番大事な曲と言われたら「未来は僕らの手の中」。その頃はニューミュージックを中心に聴いてたから、パンクロックの音は衝撃的だった。ザ・クロマニヨンズ(以下、クロマニヨンズ)に「突然バーン」っていう曲があるんだけど、ブルーハーツとの出会いはまさにあんな感じ。そのカセットを何回も何回も巻き戻して聴いたし、それから好きになりすぎて『THE BLUE HEARTS』や『YOUNG AND PRETTY』、『TRAIN-TRAIN』くらいまでなら歌詞もほとんど覚えてる。ヒロト(甲本ヒロト)とマーシー(真島昌利)、どっちが書いた曲かも大体わかるよ。でも、テープをくれた友達もめちゃくちゃ好きだったみたいで、もらったテープのタイトル欄に「“伝説の”リンダリンダ」みたいなオリジナルの曲名につけてて、当時はずっと勘違いしてタイトルを覚えてた(笑)。


ーーそこからパンクロックに興味を?


小沢:ヒロトやマーシーのおかげで音楽そのものを好きになって、そこからSex Pistols(以下、ピストルズ)やThe Clash(以下、クラッシュ)も聴いたし、どんどんオイパンクにハマっていきました。愛知で暮らしていたからTHE STAR CLUBにとにかく夢中になって、あとSAも好きだったな。SAは一回解散してるんだけど、その頃はSAのTAISEI(Vo.)さんも19歳くらいで、ハックフィン(名古屋)での解散ライブのカセットも持ってるよ。好きなバンドはたくさんいるけど、結局一番なのはヒロトとマーシーなんだよね。


ーーブルーハーツから影響を受けることも多かったですか?


小沢:『THE BLUE HEARTS』を聴いてからバンドを組みました。当時はバンドブームもあったので。でもみんな貧乏だったから、ドラムの担当はダンボールでお手製のドラムセットを作って、菜箸をスティック代わりに練習してました。しかも、住んでた街が田舎だったから練習するスタジオも周りになくて、しょうがないから近くのビニールハウスで演奏する、みたいな。学園祭では、「リンダリンダ」「世界のまん中」「キスして欲しい」、あとLAUGHIN’ NOSEの「GET THE GLORY」をあわせた4曲を延々と演り続けましたね。学園祭が終わった後は体育館に移動して演奏を続けるんですけど、ずっと終わらないのを見かねた先生がブレーカーを落とすんですよ、音がならないようにって。ギターとベースの音は鳴らないけど、真っ暗な体育館にドラムの音だけが鳴り響いて……「なんか漫画みたいだな」ってその時は思ってた。


ーー当時、なぜそこまでブルーハーツに夢中になったと思いますか?


小沢:うーん。探せばいろんな理由はあると思うけど、ブルーハーツが好きな理由を理屈で説明するのって、なんかブルーハーツに失礼じゃない? たとえば、カレーが好きな理由を説明しろって言われてもできないのと一緒。ブルーハーツは言葉で説明できるようなバンドじゃないし、カテゴライズもしたくない。なんで好きなのか聞かれても、理由はわからないんですよ。もしかしたらブルーハーツとカレーは似てるのかもしれない。


ーー多くの人に愛されているところは、カレーに似ているかもしれないですね。歌詞やサウンド面はどうですか?


小沢:ブルーハーツを青春ソングや応援ソングみたいに言う人はたくさんいるけど、そう捉えられるのが僕はイヤで。ブルーハーツの歌はそんなに安いものじゃないし、いちいちそういうことを口に出さないよ、このふたりは。たとえブルーハーツの曲に背中を押された人がいたとしても、きっとヒロトもマーシーも自分たちには関係ないと思っているんじゃないかな。これは個人的なイメージだけど、ふたりは背中を押そうとか、励まそうと思って曲を作ってるわけじゃないし、「お前らはお前らで勝手にやれよ!」って考えてると思う。周りの人をどうにかしようとする気もないし、そういう押し付けがないからブルーハーツの歌は良いんですよ。


ーー2ndアルバム『YOUNG AND PRETTY』や3edアルバム『TRAIN-TRAIN』を聴いた時の印象は?


小沢:『YOUNG AND PRETTY』が出た頃にブルーハーツのことを知って、『TRAIN-TRAIN』まではレコードで持ってます。アルバムとして一番好きなのは、『YOUNG AND PRETTY』かな。特に「ラインを越えて」が好き。マーシーの歌声が本当に最高で。あと「英雄にあこがれて」はスピードワゴンの出囃子で使ってました。「チューインガムをかみながら」の歌詞に<セックスへたでもいいだろ?>って一節があるんだけど、中学生の頃って“セックス”という単語だけでドキドキしてたから、給食時間に放送室に行って勝手にかけると教室の奴らが動揺するんです(笑)。まぁ、思春期特有の思い出ですね。


ーー青春時代を共に過ごしてきたんですね。


小沢:ただ、最初は『TRAIN-TRAIN』と『BUST WASTE HIP』の良さがわからなかった。今は大好きなんだけど、最初にピストルズを聴いた時も正直肩透かしだったというか……当時はブルーハーツやLaughin’Noseのような「ウォー!」ってなる音楽を聴いてたから、「ピストルズってこんなもんなの?」「なんだよ軽いな」って。それと同じで衝動的な頃のブルーハーツと比べると、『TRAIN-TRAIN』は肩透かしを食らった感じ。大人になっちゃったなーと当時は思ってたんですよ。でも「君たちはパンクだ」と言われた時のマーシーが、「俺たちはテッパンモッカーズだから」ってボケをよく言っていて、その意味をわかるようになってきてから、どっちの作品も大好きになりました。(※テッパンモッカーズ テッズ、モッズ、パンク、ロッカーズをあわせた造語)


ーー最初に挙げた「未来は僕等の手の中」も「ラインを越えて」も真島さんの曲です。甲本さんと真島さんで作詞と作曲にも特徴が出ますよね。


小沢:マーシーの書く詞は文学的ですよね。こういうのはあんまり言いたくないんだけど、高い山の頂上に凛と立っているのが僕の中のマーシーなのよ。すごく風の冷たい場所に薄着で立っていて、高いところから美しい世界を見渡している、みたいな。歌詞を読んでいても、ヒロトはいつもニコニコしているんだけど、マーシーはクールに見えるというか……マーシーは火で例えると青いところかなって。


小沢:火って、赤い部分より青い部分の方が温度が高いんですよ。一見冷たく見えるものの方が、実は熱いんじゃないかと僕は考えていて、ブルーハーツの中で一番熱いのもマーシーなんだろうなって勝手に思ってます。


ーー過去のインタビューでも、真島さんに憧れていることを話してましたね。


小沢:そうですね。マーシーの『夏のぬけがら』は生涯のベストです。僕は中卒なんですけど、15歳の頃にやることがなさすぎて、マーシーに弟子入りしようと思ったことがあって。マーシーの母校に電話をかけて「どこに住んでるんですか?」って住所を聞いたんですよ。さすがに教えてもらえなかったし、いま考えると本当に頭のおかしいやつだったと思います(笑)。


ーー趣味や生き方にも影響は受けましたか?


小沢:中学の頃はマーシーの好きなものは全部見ないとって思っていて、『ザ・ブルーハーツ 1000の証拠』というブルーハーツのことがなんでも載っている本で、マーシーの好きな小説や映画を調べてました。そこからアレン・ギンズバーグやジャック・ケルアックのようなビートニク文学を読むようになったし、星新一や筒井康隆を知ったのも、ロバート・デ・ニーロが出てる『ディア・ハンター』を観たのも全部マーシーの影響です。


ーー今の小沢さんを形成したのは、真島さんといっても良いくらいですね。


小沢:本当にブルーハーツが僕の人生を決定づけたなって。だって、ブルーハーツに出会ったおかげで、いまこうやって遊ぶように暮らしてるんだから。『ドブネズミの詩』っていう本でヒロトが、昼間からお酒を飲んでレコードをかけるような大人になりたいって書いてるんですけど、僕も徐々にそんな大人に近づいている気がします(笑)。


ーーどんな時にブルーハーツを聴きたくなりますか?


小沢:夏になれば「THE ROLLING MAN」が聴きたくなるし、嫌なことがあった時は「ネオンサイン」かな。「ネオンサイン」に<決して泣いてはいけないよ 友達に心配かけるから>っていうフレーズがあって、嫌なことがあっても今は泣いちゃダメだなって我慢することも。あと、「ながれもの」はお笑い芸人が全員好きですね。だって<おもしろい事を考えて みんなを楽しくさせたいな>っていう歌詞が芸人そのものだからね。でも、『THE BLUE HEARTS』と『YOUNG AND PRETTY』を聴けない時期もあって。若い頃と今は普通に聴けるんだけど、大人になりかけている時というか、ストレート過ぎる歌が照れくさい時期もあったんですよ。「こんなこと言ってられねーよな」って。


ーーなにか聴けるようになったきっかけがあったんですか?


小沢:20歳を過ぎた頃、東京に出てきて考え方が変わったんです。それまではずっとマーシーになりたかったんだけど、その時からマーシーが好きなヒロトになりたい、ヒロトみたいにいつもニコニコしていこうって。


ーーそれが今の小沢さんの芸人としてのキャラクターにも繋がってる?


小沢:それはわからないです。だって周りが自分のことをどういう風に見ているのかわからないから。そもそも仕事とプライベートを切り離して考えたくないんですよ。よく仕事とプライベートのオンオフがないねって言われるんですけど、仕事も遊びもその日の予定としか考えてない。こうやってインタビューを受けているのも友達と会う感覚に近いし、初めて会う人に緊張することもほとんどないです。緊張するのは新ネタをやる時だけかな(笑)。


ーー今日はレコードプレイヤーもあるので、好きな1枚を実際に聴いてみてください。


小沢:え~、なにがいいかな。迷うけど、やっぱりこれかな。『夏のぬけがら』。


ーー『夏のぬけがら』は今回初めてアナログ化されました。実際に聴いた印象はどうですか?


小沢:幸せ。すごく幸せ。これを言うとおじさんっぽいと思われるかもしれないけど、やっぱりアナログの方が良いなって思っちゃう。そもそもパソコンで音楽を聴くのが嫌いなんです。なんか耳がキンキンしちゃうから。あと、ジャケットが良いですね、レコードは。クロマニヨンズのアナログ盤も全部持ってます。前はパンクバンドのレコードもたくさん持っていて、カーテンレールの上に飾るといい感じなんですよね。この中だと、『THE BLUE HEARTS』のジャケが一番好き。


ーーバンド名だけがプリントされていて、シンプルだけどインパクトがありますよね。


小沢:これは当時から言われていたけど、“THE BLUE HEARTS”って変わった名前だよね。“The Clash”も同じで、グループ名を言うのが恥ずかしくなかったのかなって。特にあの時代はカッコつけているバンドや尖ったパンクバンドがたくさんいたから、ライブ会場で「僕たちブルーハーツです」って言えたのがすごいし、そういう名前を付けたことが奇跡。きっとブルーハーツが一番「BLUE HEARTS」だったのは、あの頃だったんだろうなって思う。


ーー当時ライブを観に行ったことはあったんですか?


小沢:愛知県のホールで演った時は先輩と行きました。でも、当時は子どもだったから、面と向かって「好き」なんて言えないんですよ。ずっとポケットに手を突っ込んで、ヤジまがいなことを言ってたんですけど、ライブが終わったら打ち上げする場所まで追いかけて、打ち上げが終わった後も付いていきました。会場ではヤジるのに、終わった後についてくるなんて、本当に最悪な客だったと思う(笑)。全部好きだからこそなんですけど、今となっては反省してます。


ーー甲本さんと真島さんには、実際に会ったこともあるんですよね?


小沢:初めて会った時に握手をしてもらって、こっちの手が痛くなるくらい強く握ってくれたんです。それ以来、僕もファンと握手する時はギュッと握るようにしてます。ヒロトとマーシーも僕がふたりのことを好きなのを知っていて、ある時「こっちにおいでよ」って呼んでいただいたこともあるんですけど、「いいです、いいです」って逃げちゃいました。好きな気持ちが強すぎて、知り合いになりたくないんですよ。一緒に飲みたいと思うこともないし、どちらかといえばヒロトとマーシーが飲んでいるのを、4つくらい離れた席から見ていたいです(笑)。


ーー本当に熱狂的ですね。最近のアーティストで、好きな人はいますか?


小沢:ここ何年かで好きだったのがandymori。初めて出会った時は、The Libertinesみたいだなって驚いたんですよ。クロマニヨンズを抜かせば、1位はandymoriです。


ーー結成から30年経っても、今だに若い世代にも愛されているブルーハーツ。改めて、小沢さんにとってブルーハーツはどのような存在でしょうか。


小沢:僕は一番良い時期にブルーハーツに出会えました。中2の頃に出会って、ヒロトとマーシーと一緒に歳をとってこれたことが本当に幸せ。言い過ぎかもしれないけど、ブルーハーツは義務教育にすべきだと思ってます。彼らの音楽を聴いて育てば、絶対みんな良いやつになるはず。僕からすれば、ブルーハーツに出会わない人生は想像できないんですよ。またカレーの話になるけど、日本に住んでてカレーを食べたことない人はいないですよね? ブルーハーツもみんな知ってるし、みんな好きなもんだと思ってるから。一時は、こんなにまっすぐ歌われたらツライよって思うこともあったけど、ヒロトとマーシーにはこの歳になるまでずっと影響を受けてきたし、これからもずっと受け続けていくと思います。(泉夏音)