2017年08月09日 18:13 弁護士ドットコム
東京都内の病院で産婦人科医として働いていた男性(当時30代)が自殺したのは、月170時間を超える時間外労働によるものとして、品川労働基準監督署が労災認定した。決定は7月31日付。遺族の代理人をつとめる川人博弁護士が8月9日、東京・霞が関の厚生労働記者クラブで会見を開いて明らかにした。
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男性は2010年4月、医師国家免許を取得し、2013年4月から都内にある総合病院の産婦人科で勤務医(後期研修医)として働いていた。主な業務は、分娩や手術、当直勤務、カルテ・書類の作成など。亡くなる数カ月前から抑うつ状態、睡眠不足と疲労感、集中力と注意力の減退がみられるようになり、2015年7月に亡くなった。男性の両親は2016年5月、品川労働基準監督署に労災申請した。
川人弁護士が電子カルテのアクセス記録などを調べたところ、男性は月4回程度、当直勤務していたほか、精神疾患が発症したと推定される日から1カ月前の時間外労働が約173時間もあり、しかも6カ月前までにさかのぼっても休日がほとんどない状況だった。自宅が病院から近かったため、本来、休日であっても呼び出されることがしばしばあったという。
男性の両親は代理人と通じて、今回の労災認定について「救われる思い」としながらも、「同じような不幸が起きないかと懸念される」「医師も人間であり、また、労働者でもあり、その労働環境は整備されなければこのような不幸は繰り返される」とのコメントを発表した。
両親のコメント全文は下記の通り。
今回、息子の自死後2年、労災申請より1年2カ月余を経過して、労災認定がなされたことに感謝いたします。息子は研修医として、その激務にまさに懸命の思いで向かい、その業務から逃げることなく医師としての責任を果たそうとし、その過程で破綻をきたしたものと思われます。親としては、その仕事ぶりを今回認めていただいたと受け取り、救われる思いです。
息子は、産婦人科を専攻する後期研修医でありました。彼は、亡くなる少なくとも半年前よりほとんど休みなく勤務し、毎月時間外勤務として150時間、月によっては200時間に及ぶ仕事に従事し、手術、夜間の緊急対応に明け暮れていたものと思われます。
現在、厚生労働省で推進されている「働き方改革」において医師の応召義務の観点から医師への時間外労働規制の適用が5年先送りにされたことは、この間に同じような不幸が起きないかと懸念されます。応召義務は、開業医よりも24時間稼働する病院に勤務する勤務医に課せられ、夜間、あるいは、緊急対応は息子のような若手の医師に託されることが多いのが現状と思われます。
医師の自殺率、特に若いこれからの医師の自死が一般人口よりも高い理由は、不眠の継続による、または、過重な労働、責任の重さによる過大な精神的負担が原因と考えられます。さらに研修医は卒後研修のめまぐるしい環境の変化に絶えなくてはならず、また後期研修では、専門医資格の取得に向けた準備段階に入り、精神的疲労の蓄積はさらに増していくものと考えられます。
また、産婦人科を専攻した息子は、産婦人科特有の緊張感、いつ訪れるかわからない分娩への待機、正常に出産させることを当然とする一般常識など、精神的ストレスは大きく、その負担から解放されることはなかったことと思います。その中で、責任を委託された者に過重な労働負担がかかり、その結果、逃げ場を失いこのような不幸な転帰を迎えたものと考えています。
医師も人間であり、また、労働者でもあり、その労働環境は整備されなければこのような不幸は繰り返されると思います。
以上
(弁護士ドットコムニュース)