2017年08月08日 19:13 弁護士ドットコム
ゼリア新薬工業に営業職(MR)として入社した男性社員(当時22歳)が、入社後まもなく自殺したのは研修中のパワハラなどが原因だったとして、男性の遺族が8月8日、同社や研修を一部受け持った企業、講師を相手に損害賠償など、およそ1億500万円を求めて、東京地裁に提訴した。
【関連記事:「500万円当選しました」との迷惑メールが届く――本当に支払わせることはできる?】
遺族側は、研修を一部担当した「ビジネスグランドワークス(BGW)社」の講師から罵倒されたり、同僚の前で過去のトラウマの告白などを強要されたと主張。また、ゼリア新薬本体の研修も、6時間の睡眠も満足に取れないほどのスケジュールだったとしている。
男性の死は、研修中の強度の心理的負担が原因だとして、2015年に労災認定されている。遺族代理人の玉木一成弁護士は、「新入社員研修での人格否定のような研修方法に警鐘を鳴らしたい」と話している。
一方、研修会社は「事実誤認があり、研修は適切だった」、ゼリア新薬は「原因は分かりかねる」とコメントしている。
遺族らによると、男性は2013年、ゼリア新薬工業に入社。直後から8月までの予定で、同期約50人とともに、研修施設での「缶詰め」研修が始まった。このうち4月10日~12日には、BGW社による「意識行動変革研修」が行われた。
この期間は、朝5時半に起床。「バカ」など、人格を否定する言葉を浴びせられながら、「社会人の基本動作」を叩き込まれたという。被告の講師から過去のトラウマ体験を告白するよう、心理的に圧迫される場面もあったそうだ。
男性が残した記録には、同期の前で講師から「吃音(どもりなど)」であることを指摘されたり、過去のいじめ体験を告白させられたことが書かれている。ただし、遺族によると、男性にはそういった症状・事実はないという。
「厳しい追及から逃れるために、(ウソの)発言した可能性がある。もし事実であれば、暴露されたことになるし、事実でなければ、冤罪事件の自白と一緒。身に覚えがないことを発言させられ、それを『乗り越えろ』と。屈辱的な心理的負荷を与えている」(玉木弁護士)
労基署が、同期社員やゼリア新薬の人事担当者らにヒアリングしたところ、「軍隊みたいな研修」「異様な雰囲気」「最終的にはほとんどの受講者が涙を流す」などのコメントがあったそうだ。
男性は5月18日に自殺。労基署は、強い心的負荷があったとして、男性の死を労災と認定した。
男性の父親は、「こうした事件では被害者の『弱さ』の問題にされがちだが、息子はスポーツマンだったし、友だちも多かった」と無念そうに語った。
なぜ息子が死に追い込まれなくてはならなかったのかーー。父親はゼリア新薬に説明を求めたが、会社は手がかりとなる男性の「研修参加報告書」の提出を拒んでいるという。
父親は、男性のスマホの記録などから、BGW社の後に始まった、ゼリア新薬自体の研修でも、勉強や日報作成などで長時間の拘束があったと主張。パワハラと長時間労働があいまって、死に至ったとしている。
研修を担当したBGW社は、代理人を通して「当社は適切な研修で、問題がなかったと考えている」とコメントし、圧迫的な研修があったことを否定した。
同社はこれまで、東証一部上場企業を含め、約200件、計7200人ほどの新人研修を担当しているが、同種のトラブルはないとしている。
労基署からのヒアリングがないまま、労災認定されたといい、責任がないことを確認する裁判(債務不存在確認請求)も起こしているそうだ。この裁判の訴状によると、同社は研修を担当したのは4月10 日~12日までの3日間だけであり、男性が死亡した5月18日まで、間があるのは不自然としている。
男性がBGW社の研修後、友人に送ったLINE記録には、強がりの可能性は否定できないが、「正直俺は余裕だった」「まわりがボロボロ泣いててなんか異様な空気だった」「俺めっちゃ浮いてた」などの文言が確認できる。
BGW社は、自社の研修には問題がなかったとしたうえで、LINEの内容の変遷から、ゼリア新薬の研修で文学部出身の男性社員が、理系出身の同期と同じ課題を課されていたことから、勉強や再試験などに負担を感じていた可能性があるとしている。
「医学や薬学等の専門的な分野に及ぶものを含むだけでなく、相当長時間に及ぶ研修で、予習復習等の準備も含めると土日も含めて休みもないような状態で行われていたようである」(BGW社提供の訴状より)
一方、ゼリア新薬は弁護士ドットコムニュースの取材に対し、次のように回答した。
「事件が起きたのは事実です。ただし、私どもは40年以上新人研修を実施しており、自殺をされた原因につきましては、わかりかねております。提訴については、訴状を受領していないのでコメントできません」
また、自殺した男性を担当した研修講師は、BGW社から独立。会社に電話をかけたところ、「出張中」とのことだった。
(弁護士ドットコムニュース)