シーズン後半戦となるERCヨーロッパ・ラリー選手権の第5戦『ラリー・ジェシュフ』が、8月4~5日に開催され、このターマック(舗装路)戦を得意とするフランス人ドライバー、ブライアン・ブフィエ(フォード・フィエスタR5)がERC今季初勝利をマーク。同イベント5勝目を挙げ、自身の持つ最多勝利記録を更新した。
ポーランドの工業都市ジェシュフを中心に開催されるこのターマック戦の週末は、ERCレギュラー勢やWRC世界ラリー選手権ドライバーなど、有力候補に次々と不運が襲いかかる厳しいラリーとなった。
実質的シェイクダウンとなる木曜のクオリファイ・ステージで最初の困難に遭遇したのは、優勝候補の一角を占めるブフィエその人。彼のドライブするジェミニ・クリニック・ラリーチームのフォード・フィエスタR5は、ポップオフ・バルブの不調で水圧が低下。16番手というポジションでステージを終えることとなった。
そんな波乱のなか迎えた金曜デイ1、最初のステージでトップタイムを刻んだのは、このイベントから本格的にシリーズへの復帰を果たした“ロシアン・ロケット”ことアレクセイ・ルキヤナク(フォード・フィエスタR5)。
5月初旬に母国ロシアでのテスト中に大クラッシュを喫し重傷を負ったルキヤナクは、本来8月末のチェコ戦での復帰を目標に据えていたが、懸命のリハビリを経てこの後半戦からカムバック。木曜のクオリファイ・ステージでは足と腰、そして左のかかとに痛みを訴えながらトップタイムを記録し、その勢いのままにSS1を制し最初のラリーリーダーとなった。
しかし、この劇的なカムバックを果たしたルキヤナクにも不運が襲う。続く24.56kmのSS2、フィニッシュまで残り4kmの地点で、彼のフィエスタは激しくロールオーバー。マシン損傷が大きく、早くもラリーからの撤退を余儀なくされることとなった。
「コーナーのひとつに楽観的に挑みすぎた」と、そのクラッシュ原因を語ったルキヤナク。「典型的なペースノート・エラーだ。ノートに従ってもっと速い右コーナーだと思って飛び込んだら、曲率が厳しく出口のディッチに捕まってしまい、バンクのせいでマシンが宙を舞った」
「僕らは路上を何回転かしたけど、ふたりとも大丈夫だ。その手前がクレスト越えのコーナーだったので、レッキの時はそちらに注意がいってしまい、このコーナーの厳しさを見落としたんだろう」
かわって首位に立ったのは、このSS2でもトップタイムをマークした、スポット参戦のマッズ・オストベルグ(フォード・フィエスタR5)。続くSS3ではブフィエに最速を譲るも、ラリーリーダーの座を堅持。このままふたりのWRCスタードライバー同士のバトルが続くかと思われたが、今度はそのオストベルグにも不運が待っていた。
首位を走っていたそのSS3で、彼のマシンにパワーステアリングの不調が発生。これで大きく遅れたオストベルグは実質リザルトに絡むことが不可能に。
このステージ以降、デイ2のSS7を除いて最終ステージ前のSS10まで、ブフィエが全ステージを制覇する勢いを見せ、2番手につけた2年連続ERC王者、カエタン・カエタノビッチ(フォード・フィエスタR5)に38.5秒の大量リードを築くことに成功。最終SS11は安全マージンを見ながらカエタノビッチに最速を譲り、自身の持つイベント最多勝利記録を更新する5勝目と、2017年ERC初勝利を決めた。
「デイ1の午後から自分たちのペースには自信があったし、本当に満足のいく走りができた」と笑顔で振り返ったブフィエ。
「もちろんマッズがトラブルに見舞われたのは残念で、可能なら別の方法で彼からリードを奪いたかった。でも、このラリーは僕にとっても重要な1戦で、なぜなら遠い遠い昔に僕がラリーデビューを飾った地でもあるからね。長らく勝利から遠ざかってもいたし、またポディウムの頂点に帰ってこれて本当に幸せだ」
一方、2位に入ったカエタノビッチは、選手権争いのライバルであるブルーノ・マガラエス(シュコダ・ファビアR5)が初参戦イベントで9位に終わったことから、ポイントリーダーの座を奪還することに成功。
「本来、僕の母国ラリーなので(ブフィエに)負けてしまったことに怒るべきなんだろうけど、2位で選手権首位の座を取り戻したことに満足しているよ」とカエタノビッチ。
これで前人未到となるERC3連覇に向けて、5戦で5人の勝者が誕生する激戦のシーズン制覇に向け、1歩前進した形となった。
次戦第6戦は2004年以来、ERCの名物イベントとして知られる『バウム・チェコ・ラリー・ズリン』。首都プラハから南に300km離れた大学都市モラヴィア周辺のターマック・ステージ群を舞台に、8月25~27日に開催される。