2017年08月08日 09:53 弁護士ドットコム
電通は7月27日、長時間労働の是正に向けた『労働環境改革基本計画』を発表した。2014年度に年2252時間あった1人当たり総労働時間を、2019年度に2割削減するという目標などが掲げられた。
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総労働時間削減のために、
・午後10時~翌午前5時までの深夜業務を原則禁止
・正社員や契約・派遣社員を計274人緊急増員する
・正社員採用を17年度の1.5倍にあたる年250人に増やす
・ロボットによる業務自動化(RPA)を進める
・サテライトオフィスを全国18か所で導入予定・在宅勤務を導入予定
・週休3日制への移行検討
などの施策が実施、または実施予定とされた。また各局にハラスメント防止を担当する局長補を配置し、行き過ぎた指導を防止するための研修強化や新入社員のケアプログラムを導入する。
今回発表されたこの計画、労働問題に詳しい弁護士はどう評価するのか。古金 千明弁護士に聞いた。
まず注目すべき点は、どういったところか。
「電通は、今回発表された『労働環境改革基本計画』(内容は一部実施済み)と2016年12月22日に発表された『育児・介護休業施策の拡充について』に基づき、残業時間の削減も含めたトータルな労働環境の改善のための施策を講じることになります。
『労働環境改革基本計画』の内容をみると、1人あたりの年間総労働時間が2014年度に2252時間であったのを、2019年度までに2割削減して、1800時間に削減するという大幅な労働時間の削減を目指しているのが、まず注目されます」
年間1800時間というと、どういった働き方に変わるのか。
「土日、国民の祝日、年末年始(12月29日~1月3日)を休日とすると、年間総労働時間を1800時間まで削減するとされている2019年の所定労働日は、243日となります。勤務年数が6年6ヶ月以上ですと、1年間に付与される有給は20日ですので、有給を全て取得した場合の年間の労働日は223日(=243日-20日)となります。
1日の所定労働時間が8時間労働とすると、8時間×223日=1784時間となります。そうすると、暦によって所定労働日は変わりますが、電通の掲げる年間の1人あたりの年間の総労働時間1800時間という目標は、
(1)土日、国民の祝日、年末年始をきちんと休めること
(2)有給は100%取得できること
(3)残業時間は、ほぼ0
を前提としているものであることがわかります。この目標が実現できれば、長時間労働が常態化していたとされる電通の労働環境は劇的に改善され、世間でいうところの『ホワイト企業』になったといってもよいでしょう」
他にもサテライトオフィス・在宅勤務の導入なども検討されている。
「『労働環境改革基本計画』をみると、残業時間削減のために有効と考えられる施策を、かなり網羅的に実施することが定められています。
また、進捗のモニタリングとして、『1人当たりの総労働時間』『1人あたり月間法定外労働時間数』『1人あたり月間休日勤務回数』『1人あたり有給休暇取得日数』を定点観測対象として、数字をモニタリングするとされています。
しかし、年間の総労働時間1800時間という電通の目標を達成するためには、2016年度の1人あたりの総労働時間(2166時間)から、更に約17%削減する必要があります。上記の施策を全て実施したとしても、ここまで大幅な削減を2年という比較的短期間で、実現することは、一般論としては、簡単ではないと思います」
計画では、取引先に対する協力要請や業界団体を通じたルール作りを推進していくことにも触れられた。
「広告業界では、クライアントから要求がある場合には、たとえ長時間労働となっても仕事を仕上げるのが『当然』というようなカルチャーが一部にあるといわれています。電通の目標を達成するためには、電通の取引先に対して、納期直前のやり直し等の『シビア』な要求をできるだけ控えてもらう等の『協力』をしてもらうことが不可欠でしょう。
もちろん、取引先からみれば、電通の労働時間削減に協力する義務はないわけですので、『電通に無理を聞いてもらえないなら、無理を聞いてもらえる他の広告会社に発注する』という対応もありえるところです。そのため、広告業界全体のカルチャーを変えていかなければ、電通の掲げる目標を達成することは容易ではないかもしれません」
実際にこの目標が達成されれば、社会的な反響も大きそうだ。
「厚生労働省の働き方・休み方改善ポータルサイトには働き方・休み方改善の施策を実施している企業の具体的な事例が掲載されていて、これから労働環境を改善しようとする企業のための参考情報が提供されています。
もしできうることならば、電通も、『労働環境改革基本計画』のこれからの実施状況や、モニタリング等で新たに発見された課題やその課題への対策等、PDCAの概要を情報公開して、これから労働環境を改善しようとする企業のためのモデルケースとなって頂ければと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
古金 千明(ふるがね・ちあき)弁護士
『天水綜合法律事務所』代表弁護士。IPOを目指すベンチャー企業・上場企業に対するリーガルサービスを提供している。取扱分野は企業法務、労働問題(使用者側)、M&A、倒産・事業再生、会社の支配権争い。
事務所名:天水綜合法律事務所