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GT500決勝《あと読み》:次生のディフェンスに、立川のオーバーテイク。タイム差が小さくなるなかで光るドライバーの技

2017年08月07日 17:13  AUTOSPORT web

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スーパーGT第5戦、GT500クラスではトップドライバーの妙技が光った
スーパーGT第5戦富士はARTA NSX-GTがトップでチェッカーを受け、野尻智紀はGT500初、ホンダとしては2年ぶりの勝利となった。ARTAはスタートを務めた野尻、そして後半スティントを担当した小林崇志ともに後続に並び掛かられることもなく、終盤に小林がラインを外してコースオフしかかるシーン以外、安定した走りを見せた。ウエイトハンデが軽かったことから、前回の第4戦SUGO戦から優勝候補に挙がっていたが、ようやく本命の役割を果たすことになった。

 2位には昨年の第2戦以来という、MOTUL AUTECH GT-Rが表彰台を獲得した。「今回はクルマの速さ以上に、ドライバー、チームが頑張った結果だと思う」とロニー・クインタレッリが話すように、MOTUL GT-Rは後半スティントの松田次生が後続のZENT CERUMO LC500を文字どおりの鬼ブロック。ZENTの石浦宏明が何度も並び掛かろうとするも、ラインを先読み、石浦に「厳しいブロックで抜くチャンスがなかった」と言わしめる次生のディフェンスだった。

 リヤグリップが厳しくなった次生は一度、ダンロップコーナーの立ち上がりでリヤを滑らせて、石浦にチャンスを与えてしまう。それでも、「ダンロップコーナーでスライドしてホイールスピンしてしまいました。でも抑えなくちゃいけないから、ドリフト状態で抑えて。ドリフトの練習していてよかったなと思いました(苦笑)」と話すように、順位を死守。石浦が並び掛かるチャンスをまさに、身を挺して防いだ。

 予選のフロントロウがそのまま決勝でワン・ツーとなったわけだが、今回のレースのハイライトと言っても過言ではないのが、3位に入ったZENTの立川祐路のオーバーテイクだ。

20周過ぎから5番手に上がった立川と4番手のフォーラムエンジニアリング ADVAN GT-Rのジョアオ・パオロ・デ・オリベイラがバトル。ZENTは燃料リストリクター(燃リス)の制限もあってストレートが厳しく、立川がオルベイラのスリップに入るもストレートでは離されてしまう。そこで、立川が絶妙な技を使った。

 23周目の最終コーナーを立川は小さく小回りに周り、まずは強引にオリベイラの横に並んだのだ。

「もちろん狙っていましたけど、その時は一回で抜けきれるとは思っていなかった。ストレートは燃リスの影響で向こうが速かったので、とりあえず向こうの立ち上がりを苦しくさせてみようと」と、その時の状況を振り返る立川。

 予想外にインに入られたオリベイラは当然、クリップに付くことができずに当初のラインを変更させられ、ストレートに向けての加速が鈍る。立川も小回りしている分、立ち上がりは苦しいが、お互い厳しい状況に追い込んで立川は勝負を挑んだ。

「普通に後ろを走っているだけじゃストレートで離されて抜けないから、こちらから仕掛けて、きっかけを作らないといけない。ブレーキング勝負ではこっちの方が少し良さそうだったし」

「ストレートで並んだときは向こうの様子を見て、スキンシップを図ったり」と、立川ならではの表現でサイド・バイ・サイドのストレート上の様子を話すが、相手の状況を細かく分析する観察眼はさすがとしかいいようがない。

 結局、立川は最終コーナーの苦しい立ち上がりで、ヨーイドン状態に持ち込み、ストレートのGT-Rのアドバンテージをできるだけ抑えて、インからブレーキングで前に出て4番手に浮上。立川の真骨頂を垣間見た瞬間だった。

 今回の富士では練習走行から15台がコンマ9秒、そして予選Q1では全15台がコンマ7秒差に収まるという、超接戦状態、言い換えれば“スーパーフォーミュラ状態”の僅差の戦いとなった。

 ウエイトハンデ、燃料リストリクターの影響でこの第5戦は全15台の差が極めて小さくなったわけだが、クルマ、タイヤの差がなくなれば当然、コース上ではドライバーの実力勝負になる。次生のディフェンス、立川の仕掛けとオーバーテイク、まさに、トップドライバーの技の競演が光ったレース内容だった。