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ドラマ撮影で失明のスタントマン、労災認められず 背後にテレビ局の「やりがい搾取」

2017年08月07日 10:23  弁護士ドットコム

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ドラマ撮影中の事故で、左目を失明したフリーの男性スタントマン(40代)が労災請求したところ、三田労働基準監督署が請求を却下していたことが分かった。男性は審査請求(不服申し立て)を行い、労災認定を目指している。


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三田労基署が管轄する東京都港区には、NHKを除いた主要テレビ局(民放キー局)が集まっている。テレビ局は、俳優など「実演家」の労災保険料を払っておらず、男性の労災が認められるかどうかは、実演家の権利向上をめぐる分水嶺となりそうだ。


厚生労働省は近年、リーフレットなどを通し、個人事業主である実演家も「労働者性」があれば、労災は認められると発信している。男性を支援している映画監督で、日本俳優連合(日俳連)理事でもある高瀬将嗣氏は、「労基署の判断は、厚労省の方針と真っ向から対立するものだ」と憤っている。


●テレビ局は労災保険だけでなく、傷害保険にも未加入

高瀬氏によると、男性は2014年11月、民放キー局が自社制作した連続ドラマの撮影に参加。アクションシーンのリハーサル中、「もらい事故」で左目を強打し、失明した。


こうした事故に備え、映画会社では傷害保険に入っているところもあるそうだが、放送局は未加入。事故の都度、治療費や見舞金などを払うことが通例だという。この局も男性の治療費を一部立て替えていたが、連ドラの放送が終わると、「後遺症は自己責任」として、支払いを打ち切ったという。


男性は労災請求のため労災証明も求めたが、局は「労働者ではない」と拒否した。局側の主張は、キャスティングや演出などは、「口頭」で請負契約を結んだアクション監督に一任しており、スタントマン個人とは契約をしていないなどというもの。労基署の判断も局の主張をなぞったものだった。


●年収300万以下が半数の実演家…労災の個人加入は不可、民間保険は負担デカすぎ


一般に労働者性の判断は、(1)指揮監督下の労働であるか、(2)報酬が労務の対償であるかによる。


高瀬氏は、スタントマンは指定された場所で、指定されたパフォーマンスが求められており、労働者だと主張している。現場で難度の高いアクションを要求されても、断るのは容易ではないという。


「自主的なトレーニング中の事故について、面倒を見てくれとは言っていない。しかし、撮影のような仕事中のケガについては、制作サイドが労災や包括保険で対応すべきだ。


たとえば、建設現場では、元請けが下請けの分も労災保険料を払っている。実演家の場合、労災保険料は賃金の0.3%。テレビ局が払えない額だとは思えない」(高瀬氏)


「体が資本」の実演家たちにとって、ケガは収入が途絶えることと同義だ。そこに労災保険があれば、休業補償が受けられるし、万一のときは障害補償や遺族への補償もある。


しかし、実演家は原則として個人では労災保険に加入できない。「一人親方」などに認められている「特別加入」も対象外だ。一方、民間の保険は通常、補償の幅が狭く、手厚い補償を望めば、保険料は高額化する。


年収が何千万円もあるのなら、それでも良いのかもしれない。しかし、日本芸能実演家協議会(芸団協)の2014年の調査によると、実演家のおよそ半数は年収300万円未満。華やかなイメージと異なり、年収1000万円以上は約8%しかいない。


今回のスタントマンの男性も、日当は2万円だったという。その彼に対し、このテレビ局がかけた言葉は、「ケガをしないのがスタントマンだろう」という心無いものだったという。


●労災保険料払わないなら、民間保険などの活用を検討すべきでは?


個人事業主である実演家は、長らく労災の対象外だと考えられていた。しかし、パフォーマンス集団「マッスルミュージカル」団員の労働者性が認められる(2009年)など、実演家の労災認定は増えているという。


そもそも、もとをただせば、俳優やスタントマンの多くはかつて撮影所の契約社員で、労災も適用されていた。それが1970年代頃からの撮影所の倒産に伴い、個人事業主化せざるを得なくなったという経緯がある。


厚労省も2016年11月、芸能関係事業者などを対象に、実演家との契約が「雇用契約」でなくても、労働者性が認められれば、労災保険に加入する義務があるとするリーフレットを発行している。


ただし、厚労省の担当者によると、会社が労災保険料を支払うことは、実演家を労働者と認めることになり、安全管理や労働時間など、各種労働法規に縛られることになるという。


もし、制作会社がそれを不都合だというのであれば、体を張る実演家に対し、危険性に見合った報酬や補償を払ったり、民間保険を活用したりすべきではないか。安いギャラで活用し、ケガをしたら自己責任などというのであれば、単なる「やりがい搾取」といえないだろうか。


失明した男性スタントマンは現在、仕事に復帰。しかし、距離感覚がつかめないため、裏方に徹しているという。


高瀬氏は、「制作側は、代わりはいくらでもいるという態度だから、これまで問題があっても、なかなか声があがってこなかった。なにより、私の事務所もされたことがありますが、『事故があったことが公になったら視聴率に関わってくる』という根拠で事故自体を隠蔽しようとしたケースもある。それらを是正するためにも全力で支援したい」と話している。


(弁護士ドットコムニュース)