2017年08月06日 10:03 弁護士ドットコム
JR三ノ宮駅のホームで、スマートフォンを見ながら歩いていた女性に体当たりして転倒させ、大けがを負わせたとして、作家兼ミュージシャンの男性が7月下旬、傷害の疑いで逮捕、送検された。
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報道によると、男性は7月19日夜、兵庫県神戸市のJR三ノ宮駅のホームで、女性とすれ違いざまに体当りして転倒させて、頭蓋骨骨折の大けがを負わせた疑いが持たれている。男性は現場からそのまま立ち去ったが、防犯カメラや目撃情報から特定されたという。
男性は警察の取り調べに「女性がスマホを見ていて前を見ていなかったからぶつかっただけ」と供述するなど、容疑を否認しているということだが、これまでも、同じように歩きスマホしていた人とトラブルを起こしていたようだ。
産経ニュースによると、歩きスマホをしている人に対して、故意に体当たりしたり、自分のスマホを落として修理代を請求する「スマホ当たり屋」が全国的に発生しているという。もし、スマホ当たり屋に遭遇した場合、どのように対応するのがよいのだろうか。坂野真一弁護士に聞いた。
「スマホ当たり屋のほうから、わざと衝突してきた場合、身体に対する不法な『有形力の行使』でしょうから、当たり屋のほうが暴行罪に該当する可能性があります(刑法208条)。また、当たり屋からの故意の衝突により、けがを負った場合、当たり屋は傷害罪に該当する可能性があります(刑法204条)」
もし、当たり屋に遭遇したら、どのように対応するのがよいのだろうか。
「当たり屋がわざとぶつかってきても、歩きスマホをしている人は、良く周囲の状況が把握できていないだけでなく、マナー違反をしているという負い目があるため、つい当たり屋の言いなりになりがちでしょう。
しかし、その場で、当たり屋が要求する金銭をわたすことは、当たり屋の思うつぼなので、すべきではありません。当たり屋に対しては『あなたは私がぶつかったというが、あなたのほうからぶつかってきたのであれば、私が被害者の可能性もある。一緒に警察に行って話を聞いてもらおう』と申し出ることで、当たり屋が不当な要求を引っ込める可能性もあります。
実際には、民事不介入といって、警察が味方になってくれない場合もありますが、常習的な当たり屋であれば、警察と関わることは避けたがるでしょう。警察に行くことになった場合、できれば、当たり屋のほうから当たっていった事情を見ていた目撃者と一緒に警察に行くほうがよいでしょう」
だが、それでもタチの悪い当たり屋は、損害を主張し続けるかもしれない。そうした場合、どうすればいいだろうか。
「そのような場合は、『ここで言い争っていてもはじまらないので、正式に書面で請求してください。弁護士さんと協議のうえで回答します』と伝えて、連絡先を交換のうえで、改めて正式に請求するよう求めると良いのではないでしょうか。
それでも請求が来た場合、費用はかかりますが、弁護士を通じて相手方と交渉するのが最もストレスのかからない対応といえます。
よく、『要求を拒否するなら、出るとこへ出ようか?』などといわれる場合もありますが、怖がる必要はありません。裁判では、裁判官が双方の主張を公平に聞いて、証拠に基づいて判断しますから、特に訴えた側が有利になるということはないのです。
また、万一、裁判所が証拠を調べたうえで、相手方の主張を取り入れて『お金を払いなさい』という判決を出したのであれば、もともと裁判官から見ても法律上、支払うべき必要のあるお金なのですから、『払いなさい』と判決でいわれても当たり前のことが確認されただけで、特に不利になったわけではありません。
このように『出るとこへ出ようか』という言葉を怖がる必要はありません。そのようにいわれても、静かに「どうぞ」と答えておけば良いのではないかと思います。
また、実質的に考えても、裁判をするには、自分で訴状を書くのは大変なので、当たり屋としても弁護士に依頼する必要が高くなると思いますが、弁護士も無料ではありません。5万円を回収するために10万円をかける当たり屋はまずいません。
だとすれば、当たり屋がわずかなお金を狙って、弁護士に訴訟を依頼する可能性はそう高くはないと考えられます」
ちなみに、歩きスマホをしながら誤って他人にぶつかってしまった場合はどうだろうか。
「歩きスマホをしていて、誤ってこちらから相手にぶつかってしまった場合、歩きスマホをしている側に前方不注意などの過失があると思われますから、相手方にけがをさせた場合には、過失傷害の罪に該当する可能性があります(刑法209条)。
また、歩きスマホしながら誤ってぶつかってしまい、相手方に損害を与えた場合は、過失による不法行為として、損害賠償をしなければならない可能性もあります(民法709条)。
報道によると、アメリカのハワイ州・ホノルル市では近々、歩きスマホしながらの交差点横断などが規制されるようです。歩きスマホは、自身にとっても非常に危険な行為です。できれるだけ避けたほうがよいでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
坂野 真一(さかの・しんいち)弁護士
ウィン綜合法律事務所 代表弁護士。京都大学法学部卒。関西学院大学、同大学院法学研究科非常勤講師。著書(共著)「判例法理・経営判断原則(中央経済社)」。近時は火災保険金未払事件にも注力。
事務所名:ウィン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.win-law.jp/