2017年08月05日 11:13 弁護士ドットコム
仕事のためのベビーシッター代なのに、経費として認められないのはなぜか。フリーランスライターの女性(39)は日々、そんな葛藤を抱えている。
【関連記事:「タダで食べ放題」相席居酒屋で、大食い女性に「退店して」――店の対応は許される?】
「保育園に入るまで、単発の仕事をするためにベビーシッターさんに依頼して乗り切っていました。入園後も夜の会食などのために度々、ベビーシッターを利用しましたが、いずれも仕事のため。ところが、ネットで調べたら、ベビーシッターは経費として認められないとあり、本当にびっくりしました。納得がいかないです」
ネット上でも、このような声は多い。「仕事のため」であっても、ベビーシッター代が経費として認められないとは本当なのか。認められないのであれば、何か方法はないのか。蝦名和広税理士に聞いた。
「私も小さな子どもを抱えており、ご質問者様のお悩みは痛いほどわかります」
そもそも「ベビーシッター代は経費として認められない」のは本当なのだろうか。
「どんな項目が経費として認められるのか。これについて、所得税法37条1項で、『所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用』に限り、必要経費になると定められております。
ベビーシッター代がこれに該当するかどうかですが、結論から言えば、現状の国税庁の取扱いでは業務に直接関係がないので必要経費には含まれないとの考え方となります」
利用している人の事情から言えば、「直接関係がない」とは納得しがたいかもしれない。
「必要経費の範囲については数々の裁判でも争われております。しかし、それら裁判例に照らしても現状ベビーシッター代は必要経費としては認められるのは難しいのが現状です。
理由として、税法は個人的事情を考慮してはいないからです。ご質問者様が今と全く同じ業務を、子どもを持たない同業者が行った場合には、当然ベビーシッター代は発生しません。税務的な考え方では、個人的事情でベビーシッター代が発生してしまっていると考えるわけです」
ベビーシッター代は安くないだけに、切実な悩みでもある。
「ここで視点を少し変えてみましょう。ご質問者様はフリーランスライターということなので、所得税法上は事業所得者に該当すると思われます。
事業所得の計算は総収入金額から必要経費を控除して算出されます。仮に、これが給与所得者の場合には、収入金額から給与所得控除と呼ばれる概算の必要経費を控除して、給与所得を算出することになります。つまり給与所得者の場合、ベビーシッター代などの個人的事情が介入する余地なく、収入金額に応じて概算で必要経費が決められるわけです。
一方の事業所得者は、実額にて経費計上が認められるとはいえ、個人的事情を加味していては、給与所得者との公平性が保てなくなってしまいます。そのため、事業所得の必要経費になるのは、個人的事情を除外した、どの同業者においてもおよそ一般的に発生する支出に限定されるべきといった制限がかかってしまいます」
しかし、会社員の場合には、会社から福利厚生としてベビーシッター代の補助が出るケースもある。もし自身で会社を設立すれば、経費として認められることになるのだろうか
「ご質問者の場合、ご自身で会社を設立し、企業として社長を含む従業員のために設備を設け、福利厚生制度の一環としてベビーシッターサービスを提供した場合には、経費として認められる可能性は高まるでしょう。
法的な取扱いはさておき、実態として保育料やベビーシッター代は経費としての性格を持つケースもあり、現に欧米諸国では税額控除等の税制上優遇措置が手当されています。
過去、政党の政策提言として、成長戦略・女性の就労支援のため、家事支援税制の導入が掲げられたこともありますが、納税者としてぜひ今後の税制において取扱いの改正を望みたいテーマであるのは間違いないでしょう」
【取材協力税理士】
蝦名 和広(えびな・かずひろ)税理士
特定社会保険労務士・海事代理士・行政書士。北海学園大学経済学部卒業。札幌市西区で開業、税務、労務、新設法人支援まで、幅広くクライアントをサポート。趣味はクレー射撃、一児のパパ。
事務所名 : 税理士・社会保険労務士・海事代理士・行政書士 蝦名事務所
事務所URL:http://office-ebina.com
(弁護士ドットコムニュース)