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「裁判はストレスの連続」鳥取連続不審死、被告人に睡眠薬渡した「検察側証人」の苦悩

2017年08月05日 11:13  弁護士ドットコム

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2009年に表面化した鳥取県の連続不審死事件で、男性2人への強盗殺人罪などに問われた元スナックホステスの被告人(43)に対する上告審判決が7月27日、最高裁第一小法廷であった。被告人は2件の強盗殺人について一貫して無罪を主張していたが、小池裕裁判長は1審の死刑判決とそれを支持した2審判決をいずれも「正当」と認め、「強固な殺意に基づく計画的で冷酷な犯行」と指摘。被告人の上告を棄却し、死刑を事実上確定させた。


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このニュースを「当日、ラジオで知りました」と振り返るのは、裁判で検察側の有罪立証を支える証言をした被告人の知人の男性Aさんだ。捜査が行われていた頃は警察から「マスコミに話をしないように」と言われ、裁判中も検察官から「表に出ないように」と言われていたというAさん。裁判が事実上終結したことから鳥取市内の自宅で取材に応じ、捜査や裁判の過程で感じた苦悩や葛藤を明かした。(ルポライター・片岡健)


●「仕方ないかなと思う」

裁判の認定によると、被告人は2009年4月、270万円の債務の返済を免れるためにトラック運転手の男性(当時47)に睡眠薬を飲ませ、海で溺れさせて殺害。さらに同10月、電化製品の代金53万1950円の支払いを免れるため、電器店経営の男性(同57)も同様の手口により川で殺害したとされた。Aさんはそんな被告人の裁判で「凶器」の睡眠薬に関し、重要な証言をした証人だった。


裁判員裁判だった鳥取地裁の第1審。Aさんは、「被告人から『暴力団組長の女が覚せい剤をやめたいのに、夜眠れない』などと言われ、自分が不眠症のために病院で処方されていた睡眠薬を渡してしまった」などと証言した。1、2審判決によると、Aさんが病院で処方されていた睡眠薬は被害者の男性2人の体内から検出された睡眠薬と成分が一致。それに加え、Aさんの主治医が「1000人以上の患者の中で他に同じ組み合わせで薬を処方した患者はいなかった」と証言したことが裁判で有罪の決め手の1つとなった。


そのことに水を向けると、Aさんは「私は嘘を言った覚えはなく、正直に話をしただけですから。それで被告人が死刑になったとしても、仕方ないかなと思います」と落ち着いた口調で言った。被告人が立件された事件の内容を知った時から「強盗殺人で被害者が2人なら、(有罪の場合)死刑になるだろう」と思っていたという。


●証言中は「つらいし、恥ずかしかった」

ただ、そんなAさんも8年前の事件発覚以来、捜査や裁判の過程では精神的ストレスを覚えることの連続だった。


Aさんはまず、警察から睡眠薬に関して受けた最初の事情聴取では、「被告人に睡眠薬を譲り渡したことははないです」と嘘をついてしまった。「他人に睡眠薬を譲り渡したら、薬事法(現・医薬品医療機器等法)違反になるのではないか」と心配だったためという。


その翌日、妻と相談したうえで警察に「本当は被告人に睡眠薬を譲り渡しました」と打ち明けたところ、3日に渡って取り調べを受けたが、結局、薬事法違反には問われなかった。しかしその後、検察官から「検察側の証人として裁判に出てくれないか」と頼まれた時にはまた嫌な思いがしたという。見た目はおとなしそうなAさんだが、前科や前歴があるためだ。


「検察官には、もしも裁判で弁護士から私の前科や前歴のことを言われたら、どうしましょうか・・・と話しました。そうしたら検察官は『その時は私が手を上げ、そのことは本事件と関係ありませんと言いますから』と言うので、裁判に出ることにしたのです」


実際、証人出廷した際は満員の法廷で弁護側から前科、前歴についてしつこく質問された。弁護側はAさんについて、「警察の考えるストーリーを押しつけられると断れない立場にあった」と主張していたためだ。検察官が打ち合わせ通りに異議を述べ、前科、前歴に関する弁護側の質問は終わったが、傍聴席には自分の過去を隠していた知人も座っていたため、「つらかったし、恥ずかしかった」という。


●「親の罪の深さは子供たちに関係ない」

Aさんと話していても、死刑が確定する被告人に対しては同情している様子は見受けられなかった。ただ、事件当時、Aさんの一家と被告人の一家は同じ敷地内の別棟のアパートで暮らしており、Aさんは被告人が5人の子供がいるシングルマザーであることは知っている。子供たちのことはやはり気がかりなのだという。


「被告人の子供たちは被告人の言うことをよく聞いており、なついているようでした。私も子供たちとはアパートの敷地で一緒にベビーテニスをしたり、車で学校に送ったりしていたため、あの子どもたちは今どういう心境なのか、今後どうやって大人になっていくのかということは考えてしまいます。親の罪の深さを考えても、それは子供たちに関係ないですから」


Aさんは何も悪いことをしたつもりはないが、被告人の嘘を信じて睡眠薬を譲り渡してしまったことを悔やむ気持ちがないわけではないという。「そんなことに使われるとわかっていれば、譲り渡していなかったのに・・・」と考えることもあるそうだ。


そして今、Aさんが思い出すのは以前、ある拘置所で勾留されていた時に看守に聞いた獄中での死刑囚たちの話だ。


「死刑囚も刑の確定から10年くらいは拘置所で刑を執行されずに生かされているので、その間に仏様のようになる人もいれば、逆にヤケを起こし、どうしようもない状態になる人もいるのだそうです。被告人には反省して欲しいですね」


最後に、全国の注目を集めた事件に証人として関わるようになってから今日までの日々を総括し、どう思うかと尋ねると、Aさんは短くこう言った。


「8年でしょ。長かったですよね」


【ライタープロフィール】


片岡健:1971年生まれ。大学卒業後、フリーのライターに。全国各地で新旧様々な事件を取材している。編著に「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(鹿砦社)。広島市在住。


(弁護士ドットコムニュース)