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作詞家 zoppが明かす、“夏うた”への危機感「季語を使う不便さが顕著に出てきた」

2017年08月05日 10:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zopp。彼は作詞家や小説家として活躍しながら、自ら『作詞クラブ』を主宰し、未来のヒットメイカーを育成している。これまでの本連載では、ヒット曲を生み出した名作詞家が紡いだ歌詞や、“比喩表現”、英詞と日本詞、歌詞の“物語性”、“ワードアドバイザー”としての役割などについて、同氏の作品や著名アーティストの代表曲をピックアップし、存分に語ってもらった。第12回目となる今回は『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)の「夏うた特集」出演時に語った“夏うた”の特徴を深掘りし、日本語詞ならではのルールについて話を聞いた。(編集部)


(関連:『関ジャム』出演! 作詞家zoppが語る、ヒットする応援歌の共通点「平歌とサビは目線が違う」


■「体言止めがあると『歌っぽい』」


ーー『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)の「夏うた特集」出演時には「夏の思い出」(ケツメイシ)を例に挙げて、「体言止め」「音ノリを良くするために『ん』『い』に音を乗せない」「韻を踏む」が“夏うた”の特徴だと言われていましたね。こうした要素は日本語ならではなのでしょうか。


zopp:どの要素も海外でも使えるものだと思います。英語の場合「S(Subject/主語)・V(Verb/動詞)・O(Object/目的語))」の形が一般的で、体言止めで終わることが普通。一方日本語の場合は「S・O・V」となり、体言止めで終わることがあまりないです。人間は最後に言われた言葉が自然と頭に残るので、その言葉を強調したい時、あえて最後に持ってくるんです。あと、体言止めは歌詞に使うと歯切れが良いとも言われています。


ーー海外では体言止めが主流で、むしろ動詞が最後に来ると強い表現になるということでしょうか。


zopp:そうですね。もともとの言語が持つ方程式と逆にすると印象に残るというのは、文章にも歌詞にも言えることです。日本語の場合、最後に来るのが動詞なので「う段」や「あ段」で終わることが多い。でも、体言止めだと「あ・い・う・え・お」と最後の母音で全ての段が使えます。そして体言止めがあると「歌っぽい」んです。和歌や俳句、川柳もそうなんですけど、例えば「黄昏に・二人で歩く・桜道」のように五・七・五の時に名詞で終わることが多いので、名詞で終わると歌のように感じる、というのが潜在意識にあるんだと思います。歌詞の中に体言止めが少ないと、説明文や感想文のように感じてしまうんです。歌詞を作る上で体言止めを使うのはほぼマストなルールで、特にAメロや、Bメロ、サビの終わりなどで五・七・五の最後の五字が名詞で終わると特に印象に残りやすいですね。


ーー「音ノリ」や「韻を踏む」といった手法は英語詩だとどういう風に使われているんですか?


zopp:以前の連載の話(参考:ワンオクやマンウィズ海外人気の理由のひとつ? 日本語詞と英語詞をうまくミックスさせる方法)とも重なるんですが、日本語の曲はルールが特殊で「ん」や「ー(長音)」に音を乗せても良いんです。でも海外の場合、そこに音を乗せることはなく、日本語では「ス・タ・ン・ド・バ・イ・ミー」と7個で発音するのが「Stand・by・me」と3つになるようにむしろいかに言葉を縮めるかがすごく大事。曲というのは短い音の羅列が並んだもので、音ノリは短ければ短いほど良いです。日本語は平坦で、跳ねたり伸びたりあまりしない言語だから、実はもともとあまりメロディに合っていないと言えます。「ん」「い」「ー」に音を乗せて良いルールになった理由は分からないですが、おそらく昔は楽譜があって、そこに日本語を当てはめていっていたから、というのもあると思うんですね。でも普段の会話では「ん」「い」「ー」に音を乗せないので、何を言っているのか分かりづらいですよね。たった4分しかない物語で一つの情報を聞き取れなかったら、それだけで曲の世界が変わってしまう。パッと聴いて言葉を理解できるようにするためには音ノリを良くした方が絶対に良いと思っています。


ーー日本語詞で「ん」「い」に音を乗せてしまうとキレが悪くなることもあるかと思います。海外だと、特にK-POPなどはキレの良いものが多いですよね。


zopp:K-POPも「ん」「い」に音を乗せていないので、韓国にも英語のように言葉を縮める発音ルールがあるのかもしれません。そういえば、最近は日本語でも楽曲で略語を使う機会が増えてきました。


ーー西野カナさん「トリセツ」などが思い浮かびます。


zopp:西野カナさんの場合は、略語が“若者”代表であることの旗印のような役割を果たしている例ですね。こうしたタイトルは、第一印象で音楽ジャンルを意識付ける意味もあるかもしれません。WANIMAは「やってみよう」などシンプルな言葉をタイトルにしたり、MAN WITH A MISSIONやONE OK ROCKは複雑な英単語を使ったり……。日本人は母国語を好みながら外来語を取り入れますが、欧米人はタイトルに外来語は使わない。たまに親日家の方が「おはよう」とか歌詞の中で使ったりしますけど、タイトルに「おはよう」をつける人はなかなかいないですよね。


ーーそう考えると、日本人は独自の文化を作っているんですね。


zopp:そうですね。それは日本語の言葉選びや、先ほど話した音ノリにも表れています。韻を踏むのは遡ると漢文の時代からあるもので、大きく分けたら言葉の頭で韻を踏む頭韻と、最後に韻を踏む脚韻がある。あとは母音は違って子音が同じもので韻を踏む、とか。日本語では韻といえば脚韻のイメージですが、海外では母音と子音が同じ、というのはキャッチーなもので、ミッキーマウス(=MM)のようなネーミングにもよく使われるんですよ。日本語詞でも頭韻や、子音で韻を踏む方法を歌詞に取り入れると、聴きやすかったり、違和感なく入ってきたりする。夏うたの例で言えば、僕が作詞したNEWSの「SUMMER TIME」は頭からサビの最後1行の手前まではずっと韻を踏んでいるので、その当時意識して作ったんだと思います。


■「夏うたを作詞するときはどこを切り取るかが重要」


ーーここまで番組でも挙げていた「体言止め」「音ノリ」「韻」について聞いてきましたが、“夏うた”を書くときに他に意識することはありますか?


zopp:実は秋の歌ってあまりなくて、秋の歌=夏の終わりの歌、ですよね。だから、夏を描くときはすごく細かく切ることを意識しないといけないんです。夏が来る瞬間と、夏真っ盛りと、夏が過ぎていくころと、夏の終わり、というように。夏は3カ月くらいあるシーズンで、夏休みも長いので、夏うたを作詞するときはどこを切り取るかが重要になります。8月の終わりは夏休みが終わって夏が終わるイメージですけど、実際は10月くらいまで暑かったりしますよね。この辺りの意識の擦り合わせが難しくなってきた気がします。


ーー昔より夏の解釈が広がったということでしょうか。


zopp:そうだと思います。気候の変化による四季のズレは、今後歌詞に影響することもあるでしょうね。今はSNSがあるからか、その日その瞬間を切りとる癖がついてきていて、長いタームで時間を見なくなってしまいました。早いうちから水着姿のミュージックビデオが出るのは、多分「今の季節ならもうこれを歌わせないと」という作り手側の感覚があるんですけど、もうそういう流れではなくて、まさに“今”のものを切りとってあげないといけない。夏の期間が長くなって6月に水着を着ても違和感はなくなったとはいえ、季節との兼ね合いって難しいですよね。


ーー日本の気候の変化とともに、季節を歌う歌にも変化が出ている。


zopp:以前は春に必ず1アーティストが「桜」の歌を歌って有名になったり、冬には冬の女王・広瀬香美さんがいましたが、最近はそういった季節を代表する歌手がいなくなってしまいました。どのアーティストもあまり季節を意識しない歌を歌い始めたのかもしれませんね。季語が存在する日本語の中で季節感のない歌を歌うのは少しもったいない気もするんですけど、実際僕も歌詞を書いている時に季語を入れると、それによってその季節を過ぎると歌わなくなるというイメージがあって。昔はその季節だけ盛り上がるので十分だと思われてたんですけど、一年を通じて楽曲が聴かれるようになった今は、季語を使う“不便さ”が顕著に出てきた気がします。AKBグループやジャニーズのような確固たるファンがいるアーティストはちゃんと毎年夏うたを作っていますけど、そこに至るまでのアーティストは季節を限定した歌より、どの季節でも歌えるような楽曲を作ってるような気がします。最近はその四季も崩れ始めていますが、それでも季節の流行歌を作り続けてほしいですね。


(取材=中村拓海、村上夏菜/構成=村上夏菜)