フェイクニュースが世界的な問題となる中、トークイベント「日本が危ない―フェイクニュースを暴け2」(主催:ラジオデイズ)が8月1日、太田区民プラザで開催された。ジャーナリストの津田大介さん、同じくジャーナリストの安田浩一さん、ライターの西岡研介さん、コラムニストの小田嶋隆さんが登壇し、フェイクニュースやヘイトスピーチにどう対処していくのかを語った。
デマに対しては、ファクトや論理を時間を掛けて積み上げていかなければならない
米大統領選において、トランプ支持者向けに大量に作られたことで話題になったフェイクニュース。しかしデマや信憑性の薄い情報自体はネット上に以前から存在していた。西岡さんがそうした不確実な情報に注意を向けるようになったのは、東日本大震災のときだ。
「取材のためにSNSを利用し始め、ネット上にヘイトスピーチや被災地・放射能に関するデマが溢れていることに驚いた。デマを発するのは簡単だけれど、それを潰していくのはかなりの労力が必要になる」
「フェイクニュースを信じている人にはどういう言葉なら届くのか」という西岡さんの問題提起に対し、小田嶋さんは、
「フェイクニュースを信じている人たちは自分たちは真実を見極めている少数者だと思っている。マスゴミを鵜呑みにしている一般大衆は可哀そうだと思っている。いくらソースを提示しても、全てマスゴミの嘘だと退けてしまう」
それでは、フェイクニュースを信じている人たちに対して、なす術はないのだろうか。安田さんは、「特効薬はなく、ファクトを積み上げていくしかない」と語る。
「デマはわかりやくす瞬く間に広まってしまうが、それに対しては、多くのファクトや論理を時間を掛けて積み上げていかなければならない」
マジョリティの言う「表現の自由」は「差別をする自由」にすぎない
フェイクニュースやヘイトスピーチへの対策を考えるときに避けて通れないのが、「表現の自由」との兼ね合いだ。差別発言であれば、それを表明することを禁止できるのか。
今年の6月、作家の百田尚樹氏が一橋大学の学園祭で講演予定だったが、学内外から批判が上がり中止となった。津田さんは「ヘイトスピーチをする人からはものを言う機会を奪ってもいいのだろうか。中止にはせずに、その場で批判した方がよかったのでは」と問題提起した。
しかし安田さんは、この騒動について「一橋大学の留学生やマイノリティが百田尚樹の話で嫌な思いをすることがなくて安心した」と心情を吐露。表現の自由については、
「常にマジョリティの側から『表現の自由』『言論弾圧』という言葉が出てくることに強い違和感を覚える。差別の自由を守ろうとしているだけだと思う。差別をする人に対しては、それが割に合わないということを知らしめる必要がある」
と語った。しかし法律で言葉を取り締まるのには反対だという。むしろ「人種差別禁止条約に基づいた法整備が必要」だと指摘した。
一方、西岡さんは、ヘイトスピーチを法律で規制することに賛成だ。
「ヘイトスピーチはヘイトクライムの一環。被疑者は、暴力を振るわれたのと同じように、言葉によって傷つく」
ただ、法律で規制する場合には様々な課題がある。津田さんは、「どの言葉なら規制するのか、その線引きが難しい。差別発言をした人とそれをリツイートした人を同様に罪に問うのか。まとめサイトにも責任はあるのか」と指摘した。
完全なねつ造とは異なる「ハーフフェイクニュース」の問題
2016年10月、沖縄県東村高江の米軍北部訓練場で、大阪府警の機動隊員が抗議活動中の市民に向かって「土人」「シナ人」と暴言を吐き、差別だという批判が相次いだ。
大阪府の松井一郎知事は、機動隊員の発言が「不適切」と認めながらも、「反対派も過激なんじゃないか」と擁護するような姿勢を見せていた。ネット上でも、「何が差別なの?」「(反対派は)一般人の通行妨害までやっている」といた声が渦巻いていた。
津田さんは、「こうした時に問題になるのは、事実のねつ造ではなく、切り取って誇張すること」と指摘する。
「沖縄の基地反対運動では、一部の人が暴力的になってしまうことは確かにあります。それを切り取って誇張し、『反対派も暴力を振るっている』『どっちもどっち』と言う人がいるわけです。アメリカ大統領選で話題になったマケドニアの若者によるフェイクニュースも、完全なねつ造ではなく、一部を切り取って誇張していたわけです。完全に虚偽(フェイク)というより、『ハーフフェイクニュース』が問題になるわけですね」
最後に、フェイクニュースやヘイトスピーチへの対策として、西岡さんは「NPOを作ってどこにセーフとアウトの線引きがあるのか判断していく取組が必要だ」と提案。また安田さんは「フェイクニュースの対極にある調査報道に地道に取り組んでいくしかない」と語った。