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映画初主演の北村匠海、『キミスイ』で見せた“生きた感情”を観客に届ける演技

2017年08月02日 08:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『君の膵臓をたべたい』で映画初主演を果たした北村匠海が、見事な存在感で観る者を引きつけている。今年は『恋と嘘』『勝手にふるえてろ』の公開も決定済みの、音楽ユニット「DISH//」のリーダーでもある北村が、本作で感じさせる魅力を取り上げたい。


(参考: 窪田正孝ら&DISH//『僕たちがやりました』スペシャルユニット結成


 インパクトのあるタイトルに、外国の青春ホラーか何かか? と思った人もいるかもしれない。あるいは、浜辺美波と北村というフレッシュなふたりがW主演を務める、『キミスイ』なる呼ばれ方もある人気小説を原作とした映画と知り、続々公開されているキラキラ映画のひとつかな、と。答えはそのいずれでもない。本作は主人公たちと同世代の若者はもちろん、人生経験を重ねた大人にこそ響く切ない人間ドラマだ。


 現在19歳の北村の芸歴は長い。小学3年生のときにスカウトされ、CMデビュー。2008年には歌手デビューと、映画、ドラマ双方で俳優デビューを果たす。2011年12月からはTAKUMI名義で若手男性アーティスト集団EBiDANの音楽ユニット「DISH//」のメンバーとなり、リーダーも務めているが、ここに来て俳優としての活躍が目覚ましい。


 憂いのある印象的な瞳を持つ北村は、子役出身というイメージをつけることなしに青年へと成長。昨年は映画『信長協奏曲』『セーラー服と機関銃 ―卒業―』『あやしい彼女』『ディストラクション・ベイビーズ』、ドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)『仰げば尊し』(TBS系)に出演し、一気にファンを増やした。


 若くから活動している関係で、登場人物の幼少期や子供時代を多く演じてきたが、『君の膵臓をたべたい』では、『TAJOMARU』『シュアリー・サムデイ』『信長協奏曲』と監督作を含めて、これまでにも縁が深い小栗旬が、北村が演じる主人公の“僕”の現在(映画版オリジナル設定)を演じている。


 高校生の“僕”は、人と関わるのが苦手で、いつもひとりでいる青年。しかし大勢の友達に囲まれている人気者の同級生、桜良(浜辺)が膵臓の病に侵されていることを知ったことで、日々が変わっていく……。


 『あやしい彼女』でのロックギタリストや、『ゆとりですがなにか』のメガネ男子、『仰げば尊し』の不良少年など、ビジュアルからも攻められるキャラクターとは違い、『君の膵臓をたべたい』の“僕”は、感情をあまり表に出さず、自分の殻に閉じこもっている地味な青年だ。自分は「もうすぐ死ぬ」と明るく笑って話す桜良の奔放な言動に振り回されながら、頑なだった心を揺さぶられ、世界を広げていく“僕”。作品を観客に寄り添わせなければならない、難しいキャラクターに、北村は内面から一体となり、観る人の胸の奥深くに入り込んでくる。


 北村自身、「“僕”という人間が、何を考えているのか、手にとるように分かり、撮影中は、徐々に役柄と自分が重なっていくのを感じていました」と振り返っている。なかでも、“僕”が感情を爆発させる、桜良の母親を前にした終盤でのくだりは、芝居を超えた力を感じさせ、忘れられないシーンになった。


 北村は、人物の機微を繊細にくみ取り、“生きた感情”を、まっすぐに観客に伝えることができる。芝居の基本のようでいて、実は貴重で、難しいことをやれる才能を持った俳優である。


(望月ふみ)