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老舗ファッション誌「装苑」はなぜ隔月刊化を決めたのか?

2017年08月02日 07:53  Fashionsnap.com

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「装苑」7月28日発売の2017年9月号 Image by: 文化出版局
ファッション誌「装苑」が来年5月から隔月刊化する。「服装の改善とその普及」を目的に1936年から81年にわたり月刊誌としての歴史を築いてきた同誌は、なぜこのタイミングで隔月刊化を決めたのか。児島幹規編集長の思いとは。

 装苑は1936年に創刊し、先駆的なファッション雑誌として多くの読者に支持を得てきた。80周年を迎えた昨年は創刊時の目的であった「服装の改善とその普及」を現代の視点で見直し、若い世代へのアプローチを図ったところ、実売数が増加。紀伊国屋パブラインでは、昨年の実売率が5月号は95.1%、12月号では90.5%と12冊のうち半数が70%以上の水準だった。また、実売数においても1号を除いて対前年比プラス、販売収入も130%に近い数字となった。

 好調の理由の一つには「他誌とは異なるテーマで、時間をかけて作り上げた特集」がある。特に"ファッションを愛する著名人"を積極的に起用。「カルチャーなしでは生きられない!」と題した2016年5月号の特集では蒼井優や二階堂ふみが、最新号の2017年9月号では山崎賢人や小松菜奈、満島ひかり、NEWSの増田貴久といった旬の女優やアーティストが登場するなど、人気の高い著名人を入り口にすることで若い世代とファッションを繋ぎ、裾野を広げる試みが功を奏したという。

 手応えを感じた児島編集長は「これからもっと数字を伸ばせる」と確信を得た一方で、「部員数も予算も限られる中、すべての号で納得のいくことは難しく、無理をすれば編集部員にとってよくない環境が生まれる」とクオリティーを維持できる状況ではなくなることを危惧。好評を得ている内容はそのままに「装苑」らしさを追求するためには、隔月刊化は苦渋の選択だったという。

 また、リアルタイムで動画が配信されるなどデジタルが定着したことで「紙媒体の役割が変わった」ことも要因の一つに挙げる。情報過多の現代だからこそ、心に響くようなビジュアルやテキストを使った「記憶に残る情報発信」が今の紙媒体の役割と考え、ゼロから1を生むメディアであり続けるために決断が必要という考えに至ったという。
 児島編集長は「一般的に隔月刊への変更はネガティブに受け取られますが、その印象を変える先駆者になれたら」と前向きな姿勢。今後の発行スケジュールは、11月28日発売の1月号までは月刊誌として展開。12月27日発売号と3月28日発売号は合併号となり、5月28日発売の7月号から隔月刊をスタートし、毎奇数月28日に発行する。ページ数や発行部数は以前よりも増やす計画だ。

 不況が続くファッション出版業界だが、児島編集長は「かつては他のファッション誌がファッションと人々を繋ぐ役割を果たしていたため、装苑はもう一段階上で表現することが可能でしたが、そのバランスが崩れた今、装苑が若い人のマインドを引き上げる役割を果たす必要がある。出版界全体では広告が見込める世代に向けた雑誌が増え、消費行動の少ない若い世代の雑誌が休刊していきますが、10代から20代がファッションに憧れなければ、数年後には30代から40代に向けたメディアの存続すら難しくなる」と捉えている。隔月刊化しオリジナルの特集を強化することで「かつての雑誌媒体のように、毎号の発売日を楽しみにしてもらえる存在を目指したい」と意欲を示している。また、リアルな企画やイベントなどとの連動も計画しており、紙媒体を軸に同誌ならではのファッションの楽しみ方を提案していくという。