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三浦大知はいかにして音楽シーンで稀有な存在になったかーーFolderからの20年を追う

2017年07月30日 18:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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8月2日にリリースされる三浦大知のニューシングル『U』。包容力を感じさせる大らかなミディアムナンバーの「U」、鍵盤のリズミカルなリフに導かれて進むアッパーなダンスチューン「Complex」、<ひとりじゃない>という歌詞と後半のシンガロングパートがリンクする「Life is Beautiful」の3曲が収録されており、シングルでありながら彼のミュージシャンシップが様々な面から楽しめる1枚となっている。また、このシングルのリリースの前日であり、かつ彼のデビュー20周年の記念日となる8月1日(メインボーカルを務めていたFolderのデビューシングル『パラシューター』のリリース日が1997年8月1日だった)には東京・代々木公園野外ステージでフリーライブが開催される。


 それにしても、『U』というタイトルはどうにも示唆的に思えてならない。今回のシングルは、アルバム『HIT』後初の作品となるが、『HIT』に至るアルバムタイトルを少し前の作品から並べてみると『D.M.』→『The Entertainer』→『FEVER』→『HIT』となる。自身と見つめ合ってその役割を改めて定義し(『D.M.』はセルフタイトル、『The Entertainer』はまさに彼のパフォーマーとしての矜持そのもの)、自らの実力を世間に対していかに証明するかについて腐心したうえで(『FEVER』=熱狂を呼び起こす、『HIT』=文字通りの意味)、今度は「あなた」に語りかける。昨年のミュージックステーションでの「Cry & Fight」の披露をひとつのきっかけとして一気にメディアスターにのし上がったフェーズを経て、改めてファンひとりひとりとの関係性を築こうという彼のスタンスが垣間見える。


 前述した「Cry & Fight」の評判は主に「バックトラックなしでシンクロする高度なダンス」という切り口で語られていた印象があるが、この曲にはダンス以外にも「アカペラ、かつ踊りながらでもしっかりと聴かせる安定したボーカル」と「最先端のダンスミュージックのエッセンスが散りばめられたサウンド」という聴きどころがあった。そしてこの2つこそ、三浦大知のこれまでの足跡を語るうえでの非常に重要な要素である。


 変声期を迎える前にFolderのメインボーカルとしてデビューした三浦にとって、自らの声との対峙はそのまま彼のアーティスト人生と重なってくるテーマでもある。声変わりにあたって活動を休止していた時期もあるが、その際には子ども心に不安を覚えることもあったという。そんな時期を経てリリースされたソロとしての最初のシングル「Keep It Goin’ On」がコーラスワークに定評のあるゴスペラーズの黒沢薫によるものであること、またソロ1作目のアルバムとなる『D-ROCK with U』の冒頭が彼のソウルフルなシャウトとフェイクで始まることは、心身の不安定な時期を乗り越えて大人に成長した彼が再び歌う喜びを取り戻すストーリーを体現しているようである。一方、ソロデビューのタイミングでリビルドされた歌声に対して、その歌い回しにはFolder時代から今に至るまでの連続性が感じられる。改めてFolderのファーストアルバム『THE EARTH』を聴くと、声を張る部分と抑制して歌うパートのギャップで独特の色気を醸し出す現在の彼のボーカルスタイルの片鱗を随所に確認することができる(その傾向は気怠いミディアムナンバー「GONE GONE GO AWAY」あたりに特に顕著である)。


 『THE EARTH』に収録されている楽曲の多くは小森田実によって手がけられているが、今ではSMAPの名パートナーとしてたびたび名前の挙がる彼によるR&Bテイストのサウンドは当時のJポップのど真ん中を行くものだった。この頃から三浦は「時代の空気を感じて自分の音楽を作る」ということを肌で学んでいたのかもしれない。最新作『HIT』では自身も作詞や作曲に関わりながら旬のコンポーザーを多数起用する(前述のseihoに加えてCarpainter、SOIL&”PIMP”SESSIONSなど豪華な顔ぶれが揃った)というスタイルが確立されている。これまでも『Who’s The Man』ではKREVAをはじめとするヒップホップ畑のミュージシャンとの蜜月を展開し、『D.M.』では作品のオープニングにダブステップ的な意匠を大胆に導入、さらに『The Entertainer』ではデジタルと生音の組み合わさった感覚の楽曲にトライするなど(『The Entertainer』が発表された2013年は、生音への回帰が話題となったダフト・パンク『Random Access Memories』がリリースされた年でもある)、時流をうまく解釈しながら自らの表現の魅力を高めてきた。歌と踊りというフィジカルな部分をよりどころにしながらその音楽性を自由に拡張していく様は、ミュージシャンとして非常に現代的な佇まいである。


 彼の代名詞となったダンス、様々な苦難ののちに獲得した強靭なボーカル、トレンドやコラボ相手とリンクしながらしなやかに進化するサウンド。これらが三位一体となった音楽を少年から大人に成長する20年の道程を経て自らのものにした三浦大知というアーティストは、日本のポップミュージックの歴史において稀有な存在であると言っても決して過言ではない。『U』に収録されている3つの楽曲は、そんな確信をさらに強いものにしてくれる。日本のエンターテイメントを背負って立つ存在としての今後の歩みが実に楽しみである。(文=レジー)