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大根仁『ハロー張りネズミ』は最高の探偵ドラマだ ジャンルレスな作風の魅力

2017年07月28日 06:03  リアルサウンド

リアルサウンド

 最高の探偵ドラマが始まった。金曜ドラマ『ハロー張りネズミ』。弘兼憲史原作で、深夜ドラマ『まほろ駅前番外地』、『リバースエッジ大川端探偵社』、映画では『恋の渦』『SCOOP!』などを手がけてきた大根仁による脚本・演出、主人公は瑛太と森田剛演じる探偵2人組だなんて、最高に決まっている。


参考:深キョンのブランド力は高まり続けるーー『ハロー張りネズミ』“まぶい”役柄に注目


 洒脱な音楽、あかつか探偵事務所メンバーの軽妙な掛け合い、とりわけ麗しい深田恭子、初回のグレ(森田剛)が『あぶデカ』を模倣するシーンはもちろん、今までのあらゆるバディもの、探偵ものを思い起こさせる場面の数々は、探偵ドラマへの愛そのものであり、それだけで金曜日の夜に、なんだか快く酔ってしまうような気分にさせられるのだ。今日の放送で3話目となる『ハロー張りネズミ』。1話は人情もの、2話そして今回の3話は瑛太の語りが言うところの前後編でお送りする「アクション、爆破、ラブアンドサスペンス」と、企業や大物政治家が絡んだ大きな事件に立ち向かうガッツリサスペンスと、どうやらジャンルを越えていろんな味が楽しめるらしい。


 ジャンルレスなドラマでも変わらないものはある。瑛太演じる七瀬五郎と森田剛演じるグレ、彼らを見守る頼れる所長・山口智子、ミステリアスで美しい蘭子を演じる深田恭子、2話から登場のリリー・フランキー演じる南の胡散臭さなど、キャラクターの魅力はもちろん、ジャンルの違う2話から垣間見られるのは、事件の鍵を握る人々の「家族」の物語である。


 1話では、伊藤淳史演じる、交通事故で娘を亡くし、娘の死を知らない瀕死の妻のために、娘と似た女の子を依頼してきた父親・川田の姿が描かれた。五郎とグレは川田のために、本物の子役を調達しようとしたりするがうまくいかず、偶然見つけた、亡くなった娘とよく似た女の子、児童養護施設で生活する遥(三本采香)を必死に説得し、母親の死の間際に「娘」に会わせるという川田の望みを叶える。川田はその後、娘とそっくりの遥を引き取り、一緒に生活を始め、グレが言うように「うまいことまとまった」わけである。


 だが、孤独な少女・遥の強い眼差しがこの「泣ける人情話」に一石を投じる。1話で難しい依頼に当惑する探偵事務所の3人が、偶然つけたテレビに映るドラマの再放送に夢中になるシーンがあった。ドラマ『家なき子』ならぬ『米なき子』である。そしてテレビ画面の中の女の子と共に「同情するなら米をくれ」と連呼するのだが、その後登場する、過酷すぎる過去を持ち、誰も寄せ付けない遥の眼差しは、テレビ画面の女の子、さらに言えばその元である『家なき子』の安達祐実に繋がる気迫がある。彼女は、五郎の依頼を引き受け、川田の娘と同じように髪を切り、バレエの衣装を着て、初対面の「母親」を前に「父親」と共に「ママ死なないで」と泣き、川田に引き取られた後は、川田の亡き娘と同じようにバレエのレッスンに通う。それは山口智子演じる所長が言うところの「亡くなった娘の代用品」という役柄を受け入れた上での迫真の演技なのか、それとも母親が死んだ時に一緒に死にたかったと言う彼女の母親への愛が、初対面の母親の死を前にリンクしたのか、それは定かではない。だが、五郎の「自分が誰にも必要とされてないと思っているんだとしたら、それは絶対に違う。遥ちゃんには絶対生まれてきた意味がある」という言葉、そして川田の「ありがとう」に、自分の未来に少しの希望も見出せなかった彼女の心が動いたのは確かだろう。


 2話は、25年前に父親が殺された事件について調べ直してほしいと言って現われた謎の美女・蘭子(深田恭子)が中心に描かれる。明らかにヤバそうな案件を「困っている美人は放っておけない」と所長の忠告をよそに引き受けた探偵2人。蘭子のもとに突然送られてきた、父親が殺された時の音声テープと、彼女が語る父親が巻き込まれた陰謀のあらすじを元に、25年前の事件とそれに関わった人たちが動き出す。


 ここでも、家族にまつわる悲しい過去を持った人たちが存在する。父親を殺された蘭子はもちろん、吹越満演じる、蘭子の父親の右腕と呼ばれていた男・仲井である。彼の過去はまだ明らかになっていないが、荒れ放題の彼の家に訪れたグレが発見し目を見開いた、白い布に覆われた四角い箱の謎と、仏壇に置かれた、子供の顔写真を含めたいくつもの写真が、会社を辞めた後の彼の人生の過酷さを物語っていると言えるだろう。


 事件が大きいだけに、探偵事務所の3人がそれぞれの方向から事件を探った2話の終わりは、所長の手柄によるダイイングメッセージの発見と、グレが連れてきたキーパーソン・仲井、そして電話によってもたらされる、五郎が見つけだしたもう一人のキーパーソン・南(リリー・フランキー)からの過去の書類の発見と、それぞれの手柄を持ち寄る形でメンバーが集結していくのがなんともいい。血文字を脳内で変換して怖くなっていた五郎と所長が、ドアが開くのも電話が鳴るのにも驚く姿を微笑ましく見ていたら、書類を手にしてご満悦の表情で五郎に電話する南の元に手榴弾が投げ込まれ、「えっ?」という声と共に南の事務所が爆発するというオチに衝撃を受ける。そして第3話の予告から見てとれる五郎とグレの凄まじいアクション。今夜も楽しみで仕方がない。(藤原奈緒)