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武井咲は米倉涼子を超えられるか? 脱・清純派ヒロイン目指す『黒革の手帖』の奮闘

2017年07月27日 12:13  リアルサウンド

リアルサウンド

 これまで、たびたびテレビドラマ化されてきた松本清張原作『黒革の手帖』。1982年の山本陽子主演に始まり、幾人もの女優が、銀座の夜蝶として暗中飛躍するダークヒロイン・原口元子を演じてきた。とりわけ2004年の米倉涼子主演作は、放映当時の強烈なイメージに、いまだに“『黒革の手帖』=米倉涼子”と見る向きも多い。


(参考:夏ドラマ戦線、王者TBSの対抗馬はフジテレビか? 最後の切り札『コード・ブルー』の可能性


 派遣行員の原口元子(武井咲)は、父の死後に母が背負った借金を相続し、返済のため夜は銀座のクラブ「燭台」でホステスとして働いている。ある日、勤め先の銀行で不当な理由での派遣切りに遭った元子は、1億8千万円もの大金を横領し、自身のクラブ「カルネ」をオープンさせ、夜の銀座の若きママへと転身するーー。顧客の借名口座と金額が記された『黒革の手帖』を武器に、元子の戦いが始まる。


 “武井咲版『黒革の手帖』”が発表された時、意表を付かれた方も多いのではないだろうか。それはもちろん先の、“『黒革の手帖』=米倉涼子”のイメージがあまりにも強すぎるのが大きな理由の一つだろう。また、多くの映画やテレビドラマで清純派ヒロインばかり演じてきた現在23歳の武井に、夜の銀座を舞台にベテラン・クセモノ揃いの俳優陣の中、原口元子を演じきれるのかどうかといった、不安の声も多く目にしてきた。実際、原口元子を演じてきた女優たちの中でも武井は最年少であり、本作メインキャストの中でもまた同様である。


 武井は、これまでにも映画『愛と誠』や『フラジャイル』(フジテレビ)など数々の映画やドラマで、あるいはモデルとしても一際輝きを放っていた。武井が、一般に広く認知されるようになったのは、三浦春馬×戸田恵梨香W主演の『大切なことはすべて君が教えてくれた』ではないかと思う。三浦演じる高校教師が自身の部屋のベッドに見知らぬ女性らしき脚の存在をみとめ、毛布をゆっくりと上げると武井の素肌と大きな瞳が覗くーー。第1話開始から、約2分の間のことである。当時17歳の武井が同作で湛えていた瑞々しい存在感には、衝撃を受けた。


 あの時の瑞々しさは何処へやら、今作『黒革の手帖』での武井の目力は、したたかにのし上がっていく強固な意志を感じさせ、文字通り女豹を思わせる。安定した野太い声が特徴の米倉とは対照的に、武井の声はか細く、どこか脆さ、か弱さを感じさせるが、これらは本作の“虐げられた女性の、のし上がり劇”にある種のリアリティを与えることに成功しているのではないだろうか。


 第1話の武井演じる原口元子は、行員として同僚たちの前で振舞う姿、派遣切りに遭い巨額横領に踏み切る姿、横領後に銀行の上司たちに取引を求める姿、お世話になった「燭台」のママ・岩村叡子(真矢ミキ)に自身のクラブオープンを宣言する姿など、いずれもその涼しい顔した冷静沈着ぶりの印象が強く残った。ただ例外として、借金完済を目前にしたファッションもカジュアルで、借金返済額10万円入れたリュックサックを大切そうに抱えている元子がひったくりに遭う場面、あそこで彼女が見せた焦燥感は、明らかにか弱き乙女が夜道の暴漢に向けたものではない。事実彼女は何度も「私のお金」と繰り返し、武井自身が“脱・清純派ヒロイン”を宣言しているとも受け取れる。


 第2話の予告では、やたらと激しい展開を予感させる。元子と同じく派遣切りに遭った山田波子(仲里依紗)も深く関わってくるようだ。ぜひとも元子を追い込んでもらい、元子がどう切り抜け、どうのし上がっていくのか、楽しみたい。それはもちろん今作で、これまでの清純派ヒロインのイメージを払拭し、数々の困難を乗り越えていくであろう武井に向けたエールでもある。


(折田侑駿)