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劇場版最新作も大ヒット! “戦う魔法少女”のイメージ決定づけた「なのはシリーズ」の功績

2017年07月27日 10:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 魔法少女と聞いて、どんな存在を思い浮かべるだろうか。今、魔法少女といえば戦うものだというイメージが定着している。日曜朝にも戦っているし、深夜アニメでも戦っている。現在『Re:CREATORS(レクリエイターズ)』というアニメ作品が深夜に放送中で、様々なフィクションのキャラクターが現世に召喚され戦う物語なのだが、いろんなジャンルのテンプレ的なキャラクターが現世に召喚される。中世の女騎士、魔道士、アウトロー的な中年男性や巨大ロボットに搭乗する少年などなど。その中には魔法少女もいるが、可愛い格好の小学生女子が強大な力を振るう様が描かれている。むしろ、他のどのキャラクターよりも一撃の破壊力が強いように描写されている。


参考:魔法少女アニメなぜ激増? 『魔法使いサリー』から『魔法少女育成計画』に至る系譜を読む


 『魔法少女リリカルなのは』は、そんな戦う魔法少女のイメージを決定づけた作品のひとつだ。2004年に1作目が放送されて、シリーズを重ねて昨年にもTVシリーズが放送された。「なのはシリーズ」の功績は、男性ファン主体の深夜アニメ市場に魔法少女を定着させたことであり、魔法少女ものの市場を拡張し、このジャンルの表現の幅を広げた点にある。傑作『魔法少女まどか☆マギカ』のような作品が生まれる素地を作った作品と言える。


 同じ2004年には女児向けの作品として「プリキュアシリーズ」がスタートしているが、こちらも従来の魔法少女ものとは一線を画す、バトル主体の展開で、こちらも魔法少女ものの概念を大きく拡張させた作品だ。2004年は、今日の魔法少女のイメージを決定づけた作品が、朝と深夜に相次いで登場した年だった。


 女児向けの「プリキュアシリーズ」が戦うようになったのは、先行作品の『セーラームーン』や『カードキャプターさくら』の影響を受けての女の子たちの価値観が多様化していく時代を反映していると思われるが、メインターゲットが男性アニメファンであったはずの「なのはシリーズ」も、同じく戦う魔法少女という方向性に行き着いたのは興味深い現象だ。Pixivなどでは両作品をコラボさせた二次創作が多数投稿されていたりもする。


 男性ファンがメインターゲットだからであると推測できるが、「なのはシリーズ」は、激しいアクションと、戦いの果てに築かれる友情など、少年漫画的な展開が大きな魅力だ。シリーズ1作目と2作目では、なのはと相棒役のユーノとの間の恋愛要素も匂わせたが、その後は徐々に薄まっていった。今日、魔法少女は運命や世界の命運をかけて戦い、その中で女の子たちが絆を深めるというのが王道となり、多くのフォロワー作品を生み出した。2016年には同時期に7~8本の魔法少女アニメが深夜に放送されるほどの爛熟期を迎えたが、満を持してその「原点」がスクリーンで新作を迎えることになった。


 5年ぶりの劇場版公開作となる本作だが、時系列はTVシリーズ2期の『魔法少女リリカルなのはA’s』と3期の『魔法少女リリカルなのはStrikerS』の間にあたる。ゲーム作品を下敷きにした物語で、「なのはシリーズ」らしいアクション満載の娯楽作品となっている。


 PSP用対戦ゲーム『魔法少女リリカルなのはA’s PORTABLE -THE GEARS OF DESTINY-』を下敷きとしたストーリーとなっていることもあり、本シリーズの持ち味であるバトルシーンが多めの構成となっている。TVシリーズには登場しない新キャラクターの姉妹、アミティとキリエが中心となる物語なので、TVシリーズを見ていない観客でも概ね物語を追える内容だ。


 「魔法少女」とタイトルに冠しているが、ガジェットやメカを用いて、魔法を超科学的なものとして描いており、SF好きにも受ける要素が満載な作品でもある。そういう意味でも意表をつく魅力に満ちているし、ジャンルのクロスオーバーの面白さを感じさせる作品でもある。


 今回は前後編の前編であるが、血湧き肉躍るバトルは最新の劇場版ということもあり、シリーズ屈指の出来だ。後編はさらなる爆発的な展開を期待したい。(杉本穂高)