2017年07月26日 18:23 弁護士ドットコム
今秋の臨時国会で争点になるとみられる労働基準法の改正。政府は、裁量労働制の対象拡大や、年収1075万円以上の専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」(高プロ制)の導入を目指している。成立すれば、残業の概念がなくなるため、労働時間の増加が懸念されている。
【関連記事:子連れ夫婦、2人分の料理を注文して「小学生の子ども」とシェア…そんなのアリ?】
しかも、政府はこの改正案を、今年3月にまとめた働き方改革実行計画を受けた、年間720時間の「罰則付きの残業時間規制」などとセットにして審議する方針だという。
日本労働弁護団の嶋崎量弁護士は7月26日、「真っ向から矛盾するものをセットで審理して、まとめてしか判断できないというのはおかしい。経済優先だと正直に明かして、国会で信を問えば良い。1つ1つ審議、判断してほしい」と政府方針を批判した。
発言は、厚労省記者クラブで開かれた会見でのもの。会見には、労働系弁護士や過労死遺族の団体が参加し、「残業代ゼロ法案」とも呼ばれる、労基法改正案の「まやかし」を指摘した。各団体は「ピンチをチャンスに変え、廃案に持ち込みたい」としている。
改正案は、「時間ではなく、成果で評価する制度」と伝えられることもある。しかし、弁護士らによると、こうした転換は現行法でも十分に可能だという。
「賃金は労使の合意で決めれば良い。今でも成果主義で働いている人がいる。政府の広報は(法律を通すための)デマだ」(嶋崎弁護士)
ブラック企業被害対策弁護団の佐々木亮弁護士も、改正案を「ブラック企業に栄養を与える法案だ」と批判した。
「成立すると、早く帰れるようになるという論調があるが、現行法でも、早く帰る人に満額の給与を払うことは規制されていない。仕事が終われば早く帰れる、労働生産性が上がるというなら、すでにやっているはずだ」(佐々木弁護士)
改正案では、高プロ制のほか、企画業務型裁量労働制を、法人営業に拡大することも盛り込まれている。企画業務型裁量労働制とは、企画・立案・調査・分析に当たる労働者を対象に、実際の労働時間と関係なく、決められた時間分の労働をしたとみなす制度だ。
しかし、裁量労働制は、単なる「残業代減らし」に使われていることが少なくない。弁護士らによると、裁量がほとんどなかったり、対象にならないはずの労働者に適用したりと、企業が独自の解釈で運用できてしまうのが現状だという。
過労自殺した電通・高橋まつりさんの遺族代理人も務めた、過労死弁護団全国連絡会議の川人博弁護士は、裁量労働制の拡大について次のように警鐘を鳴らした。
「サラリーマンの営業職は、法人に関連した営業が基本で、何らかの形で企画に関与しているというのが実態だ。高橋まつりさんについても、この範疇の中に組み入れられて、長時間労働の規制を一切なくす対象になりうる。企画業務型の拡大は、長時間労働を促進し、現在の状況を合法化してしまう」(川人弁護士)
一方、連合は、年間104日の休日を義務付けるなどの条件付きで、労基法改正案を容認する方針であることが報じられた。
この点について川人弁護士は、「そもそも休みの日数が少ない。加えて、自宅労働が蔓延しているのに、それを規制する状況になっていない。こんなものが一体どうして、健康確保につながるのかが理解できない」と指摘した。
報道によると、連合は7月25日までに、方針転換を撤回。政府案の修正に関する「政労使合意」を見送る方針を固めたと言われている。会見の参加者たちは「一緒に反対しようぜと呼びかけたい」「廃案に向けて、より強固に共闘してくれると信じている。最後は必ず労働者のために動いてくれる」などと連合にエールを送っていた。
(弁護士ドットコムニュース)