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タレントの独立や移籍を制限する「芸能プロ」は独禁法違反? 公取委が検討会で議論へ

2017年07月25日 11:33  弁護士ドットコム

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公正取引委員会が7月12日、「人材と競争政策に関する検討会」を開くことを発表し、関心を集めている。公取は今後、所属タレントの独立や移籍を制限する芸能プロダクションの契約について、独占禁止法に抵触するかどうか実態を調査するものとみられる。


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公取の調査対象は、芸能人にかぎらず、スポーツ選手やIT系のクリエイターなども含まれる。女優の清水富美加さん、のんさんなど、所属事務所との対立が相次ぐ中、芸能分野についても独禁法が適用されることになるのか注目される。芸能問題に詳しい弁護士は、この動きをどうみているのか。河西邦剛弁護士に聞いた。


●独占禁止法に抵触するのか?

「公正取引委員会の発表では『特定の業種・職種固有の事項や個別の取引慣行の評価は検討対象としない』と記載されています。


しかし、公取委HPの検討会開催のお知らせでは、『松竹株式会社ほか5名に対する件』(1963年、所属俳優の引き抜きを禁じた『五社協定』が問題になった)を引用しながら『高度な技能を有する一部の職種について、独立・移籍を制限する慣行が存在するとの指摘がある』と明記していることからも、芸能界における移籍を示唆しているように読めます」


芸能プロダクションが、所属タレントに対して独立や移籍を不当に制限することが独占禁止法に抵触するのか。


「いわゆる独占禁止法(正式名称:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)は、不当な取引制限や不公正な取引方法を禁止しており、これらが行われた場合には、公正取引委員会の立入検査等の調査がなされます。その結果、排除措置命令がなされることがあります。


『不公正な取引方法』があるかどうかについて、『優越的地位の濫用』を検討することができます」


芸能プロダクションは、所属タレントに対して優越的地位を有していると言えるのか。


「『優越的地位の濫用』とは、取引相手と比較した場合の優越的な地位を利用して、取引相手の自由で自主的な判断を妨げることをいいます。


今まで、弁護士の業務を通じて100通以上の契約書を見てきましたが、芸能プロダクションとタレントとの間で結ばれる専属マネージメント契約のほぼ全てに『専属性』が規定されており、タレントが一度契約してしまえば、所属事務所以外を通じて芸能活動を提供することは禁止されています。


また、多くの契約書の第1条には『甲と乙は独立の当事者として』と規定があるのにもかかわらず、タレントは芸能プロダクションの指示に従わなければならないという義務規定があり、タレントは事務所の指示に従って指定された芸能活動を提供するのが実情です。


このように、所属事務所の指示を通じてしか芸能活動ができないという状況下においては、事務所が優越的地位を有しているといえるでしょう」


●優越的地位の濫用行為とは?

独立禁止や独立後のいわゆる「干される」状態を作る文言も契約書には含まれているのだろうか。


「契約書には、契約期間(多くの場合は2~3年)終了後、一定期間の芸能活動の禁止や他事務所への移籍を禁止し、違反した場合には損害賠償責任を負う内容になっていることがあります。


また、実際に、所属タレントが独立や移籍を試みようとすれば、芸能プロダクションが、テレビ局を始めとする各種メディアに対して『当該タレントをキャスティングするのであれば、当社所属のタレントはその番組には出演させることはできない』と圧力を加えることで、当該タレントの出演は事実上著しく困難になります」


一部では、「子役のために様々な投資をし、売れっ子にしたのは事務所の力。売れっ子になった途端、事務所を切り捨てることにならないか」という批判もあるようだ。


「確かに、芸能プロダクションは多額の投資をし、タレントを数年かけて育成し、その後売れた段階で回収するというハイリスクハイリターンなビジネスであり、芸能プロダクションがタレントを縛りたいというのは十分理解することのできるニーズです。


実際、裁判例の中にも『芸能プロダクションは、初期投資を行ってアイドルを媒体に露出させ、これにより人気を上昇させてチケットやグッズの売上げを伸ばし、そこから投資を回収するビジネスモデルを有している』と明言したものもあります。


しかし、契約書の中に、移籍・独立を禁止するような条項を規定することや、独立しようとするタレントに関してメディアに不当な圧力をかける行為は、独占禁止法が禁止する優越的地位の濫用に該当し得る行為といえるでしょう。


また、複数の芸能プロダクションが共同してタレントの移籍を制限する場合には、不当な取引制限に該当する可能性や、不公正な取引方法の一類型である共同の取引拒絶に該当する可能性があります。


まずは今まで議論されなかった芸能界の実態について公取委での踏み込んだ議論がなされることを期待しています」



(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
河西 邦剛(かさい・くにたか)弁護士
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。アイドルファンで、今まで参加したコンサートは300公演以上。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/