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追悼チェスター・ベニントンーー彼とLinkin Parkが音楽シーンにもたらしたもの

2017年07月23日 16:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 Linkin Parkのチェスター・ベニントンが7月20日の現地時間9時前、カリフォルニア州ロサンゼルスにある自宅で死亡しているのが発見された。


(関連:Linkin Parkがアップデートした“自身の理論” 新作『One More Light』をバンドの変遷から紐解く


 バンドは5月に新作『One More Light』をリリースしたばかり。チェスターもまだ41歳の若さということもあり、世界中のメディアやミュージシャンから突然の死に対する悲しみの言葉が次々と寄せられている。


 今回の訃報は、音楽シーンにとってどれだけ大きなショックを与えたものだったのか。デビュー前の『Hybrid Theory』からバンドを知るライターの西廣智一氏は、チェスターの死を悔やみつつ、彼らがシーンに与えた影響についてこう語る。


「アルバムをリリースして、ライブで新旧の曲を混ぜたときにどうなるかをアメリカや日本をまわるツアーで提示していくはずでしたし、バンドとしてはこれから、という時期でした。『One More Light』は久々にメンバーと会って、チェスターの調子が良くないことを考慮して作られた作品ということだったので、その予兆が無かったわけではないですが、とても悔やまれます。30歳前後のロックバンドは必ずと言っていいほど通っているバンドですし、チェスターの歌声を参考にしたボーカリストも多いと思います。日本のバンドだと、11月に共演予定だったONE OK ROCKをはじめ、CrossfaithやColdrainといった世代に強い影響を与えていますね」


 テン年代以降のバンドに大きな影響を与えたチェスターのボーカリストとしての才能は、どのようなものだったのか。同氏はバンド内における彼の重要性について、こう解説してくれた。


「Kornなどが起こしたヘヴィロックのムーブメントが一段落したところに登場した彼らは、ニューメタルと揶揄されながらもポップスとしての強度を持ち合わせ、稀有なバランス感覚で商業的にも大成功を収めました。その前後にはPapa Roach、Trapt、P.O.Dなど彼らに似た音楽性のバンドも多く登場しましたが、いずれもLinkin Parkのようにはなれなかった。それはやはり、チェスターの圧倒的な歌唱力に敵うものがいなかったということでもあります。これまでバンドにおける大半の楽曲を手掛けるマイク・シノダによるラップもバンドの特徴でしたが、3rdアルバム『Minutes to Midnight』以降、彼はラップの比率を抑えてプロデュースに専念しました。これもやはり歌を軸にやっていく決意表明であり、音楽性が変化してもチェスターの歌があればバンドのアイデンティティは守られるという決断だったと思われます」


 その一方で、バンドの音楽性が急激に変化したことに戸惑う意見も多かったが、それでもファンが離れなかった理由について下記のように解説する。


「彼らは、ファンの求める音とバンドの志向する音が乖離していった、ある種不幸なバンドともいえますが、それでも応援するアメリカのファンが離れなかったのは、イジメなどの社会問題や繊細な人間関係を歌う彼らの歌詞や、チェスターのカリスマというよりは良い兄貴的な存在の大きさがあったから。2004年にはスマトラ島沖地震による災害被害者に向けて、赤十字の協力のもとに慈善基金団体『Music For Relief』の活動を行い、東日本大震災時にも新曲『Issho Ni』を含むチャリティーアルバムをリリースしてくれました。ハリケーン・カトリーナが発生したときには、チェスターがMotley Crueの代表曲『Home Sweet Home』を本人たちとともにレコーディングし発売するなど、支援活動にも積極的な人でした」


 最後に、チェスターについて西廣氏は次のように思いを述べた。


「自身が後任のボーカリストとなった元Stone Temple Pilotsのスコット・ウェイランド、そして親友だったクリス・コーネルの死を背負って、精神的にも限界を迎えていた部分はあったのかもしれません。最新作のオープニングトラックのタイトルが『Nobody Can Save Me』だったのも、皮肉な話ですよね。ただ、9.11以降のアメリカを象徴するようなバンドのフロントマンであり、親しみやすいスターでもあったため、多くの人が悲しみにくれるのもわかります。バンドがどのような形になるかはわかりませんが、できれば継続することを期待しています」


 ロック・スターの早すぎる死は、音楽家にもファンにも大きなショックをもたらした。いまは一人でも多く、彼の意志を理解し、受け継ぐものが登場することを祈るばかりだ。(中村拓海)