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全4話一挙配信中! 宮藤官九郎の遊び心全開、Huluオリジナル連続ドラマ『山岸ですがなにか』

2017年07月23日 13:02  リアルサウンド

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 ドラマ評論家・成馬零一による連載“成馬零一の直球ドラマ評論”。今回は、本日ついに最終話となる第4話が配信された、Huluだけで観ることができるオリジナル連続ドラマ『山岸ですがなにか』をレビュー。SNSでも話題で、熱狂的なファンが増え続けている本作の見どころを考察する。(編集部)


参考:『山岸ですがなにか』主役・太賀「俺という俳優をイジり倒された作品」 自身のゆとりエピソードも


 昨年放送された連続ドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)は、ゆとり第一世代と言われる坂間正和(岡田将生)たち20代後半の若者たちを主人公にした青春群像劇。


 脚本を担当するのはクドカンこと宮藤官九郎。連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)を筆頭とする数々の名作ドラマを手がけてきたコメディドラマの名手だが、『Mother』や『Woman』(ともに日本テレビ系)といった坂元裕二脚本のシリアスな社会派ドラマを手がけた水田伸生がチーフ演出を務めた本作は、社会派コメディドラマとなっており、今の若者たちのリアルな姿を捉えて、宮藤の新境地となった。


 7月2日と9日には、SPドラマ『ゆとりですがなにか 純米吟醸純情編』が前後編に分けて放送され、こちらも大好評だった。しかし、すぐに終わってしまったため、連続ドラマで観たかったという意見が多く、ファンの間ではゆとりロスが発生している。


 そんな、ゆとりロスの方々に是非ともおススメしたいのが、オンライン動画配信サービスHulu(フールー)で配信中の『山岸ですがなにか』(監督・鈴木勇馬)である。


 ゆとりモンスターこと山岸ひろむ(太賀)に焦点を当てた本作は、虚構と現実が交差するコメディドラマ。シリアス度が高いテレビドラマとは違った、遊び心が全開のクドカンらしい作品となっている。


 テレビドラマ『ゆとりですがなにか』のAP(アシスタント)として働く須藤は、番組の取材で知り合ったゆとり世代の山岸のことを取材するため接近していくうちに、いつの間にか付き合うことになっていく……。


 須藤を演じる佐津川愛美は、昨年公開された映画『ヒメアノ~ル』で森田剛が演じる異常殺人者に狙われる女の子の役を好演。テレビドラマでは『ギャルサー』(日本テレビ系)などに出演している。真面目でいい子なんだけど、ちょっと我が強くて、めんどくさいところのある若い子を演じさせると、右に出るものはいない女優だ。今までは、どちらかというとシリアスな役の印象が強い佐津川だったが、クドカンドラマということもあってか、コメディ寄りの弾けたキャラクターとなっており、新たな魅力を見せている。


 ゆとりモンスターの山岸に焦点を当てたドラマに見える本作だが、須藤もまた、マイペースなゆとり世代だということがだんだんわかってくる。テレビ局のノベルティーグッズの服ばっかり着てくるファッションに無頓着な須藤に対し、ツッコミを入れる山岸の方が、常識があるように見える。


 テレビ業界の関係者が登場し、物語と同時進行で、劇中劇が進んでいく姿は、宮藤が脚本を手がけた恋愛ドラマ『マンハッタンラブストーリー』(TBS系)を思い出させる。虚実が入り混じり、物語の力で現実を改変していくという超展開は、クドカンドラマにおいては欠かせない要素だが、『ゆとりですがなにか』はシリアスな社会派ドラマという新境地に挑んでいたためか、虚実が入り混じるメタフィクション性は影を潜めていた。そう考えると、小ネタ満載で虚実が入り混じる『山岸ですがなにか』は、むしろ、宮藤の本堂と言える作品かもしれない。


 とはいえ、本作は『ゆとりですがなにか』という連続ドラマのスピンオフドラマの中で、『ゆとりですがなにか』の制作現場を描き、実在する人物として山岸が出てくるという入れ子構造のため、フィクションなんだか現実なんだが、どんどんわからなくなっていく。コメディとはいえ、こんな入り組んだ構成のドラマを、毎週15分のドラマで展開しているのだから凄まじい。


 それにしても、太賀が演じるゆとりモンスター・山岸は面白い存在だ。初登場した時は、自分のペースで周囲を振り回し、説教されると逆ギレしてLINEで退社届けを出したかと思うと坂間たちをパワハラで訴えるという行動に移ったかと思うと、いつの間にか会社に復帰しているという調子のいい姿には「こいつは何なんだ?」と。亜然とさせられた。


 だが、悪人かと思うとそうでもなくて、話数が進むにつれ、坂間たちとも打ち解けていく。かといって、山岸が反省して心を入れ替えたというわかりやすい場面はなく、気付いたら馴染んでいたという感じなのが、実に不思議である。もしも山岸が、心を入れ替えて良い奴になっていたら、どこか居心地が悪く感じたかもしれない。山岸が山岸のまま存在できるのが、クドカンワールドの多様性なのだろう。


 須藤とのやりとりを見ていても、自己中心的ではあるが、言っていることはそこまで酷くはない。むしろ、彼なりに須藤のことが好きなんだとわかり、「山岸、良い奴じゃん」と思った。


 自己中心的で調子に乗っていて、イラつくけど、どこか憎めないキャラとなり、いつの間にか『ゆとりですがなにか』に欠かせない男となっていた山岸。30代に入り人生の岐路を向かえるゆとり第一世代の今後も楽しみだが、山岸の今後がどうなるのかも、とても気になるところである。(成馬零一)