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欅坂46が開拓する“アイドルの可能性” 1stアルバムの主な新録曲から分析

2017年07月22日 10:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 欅坂46の1stアルバム『真っ白なものは汚したくなる』が7月19日に発売された。


 ロングヒットを続ける昨年のデビュー曲「サイレントマジョリティー」、続く2ndシングル曲「世界には愛しかない」、3rdシングル曲「二人セゾン」、そして今年の4thシングル曲「不協和音」というヒット続きの全シングル表題4曲が収録されているだけでも十分に価値のあるアルバムだ。デビューからこれまでの記録と言える通常盤の収録曲は、このグループの入門編として最適だろう。そして、このアルバムには大きく分けて二つの側面がある。カップリング含め20曲以上あるこれまでの既存曲をほとんど収録している、そのベストアルバムとしての側面が一つ。もう一つが新たに用意された16曲、その新作アルバムとしての側面だ。合わせて計40曲。この特大ボリュームは、それだけでこのグループの魅力がたったひと言やふた言では語り尽くせないことを物語っている。今回この記事では、新たに作られた16曲から主要な曲をピックアップしていきたい。


欅坂46主演ドラマ『残酷な観客達』と新アルバムの繋がりは?


・グループのイメージをより強固にする「月曜日の朝、スカートを切られた」


 欅坂46と言えば、社会や大人に対しての強い反抗心を歌う姿だ。この曲はそうしたパブリックイメージをより確実なものにする楽曲となっている。


 イントロの駆け上がってゆくストリングスの旋律は「サイレントマジョリティー」の冒頭部と対にさせているのだろうか。雲間に差すひと筋の光のような情景が立ち上った同曲と比べると、こちらには深い絶望や悲愴を感じる。Aメロで中心にやってくるアコースティックギターのバッキングは、デビューから2ndシングルあたりまでの欅坂46のトレードマークだが、全体的に暗雲立ち籠める重苦しいリズムはダンサブルな曲の多いこのグループにとってはあまりない傾向となる。A→B→C(サビ)と順々に進む1番をまず見せておいて、2番ではA→Bの後にCに着地させず、一度Dメロを迂回させる。それがこの曲の詞の核心部<誰もが 何かを 切られながら 生きている>というフレーズだ。実際、この箇所はキックの四つ打ちが効いていてサビよりも気分が高揚する作りになっている。


 この躍動感に乗せた痛烈な表現を経て、終盤の決め台詞までとことんシリアスな態度を貫く。<あんたは私の何を知る?>。実はこれ、以前メンバーの一人が冠番組で言い放った「私のこと何も知らないと思う…」という発言が元ネタだというのはファンならではの妄想だろうか。ダンスも過去の振り付けからの引用が多々見受けられるなどセルフオマージュが多く、デビュー時から見続けてきたファンは(厳粛な曲の雰囲気とは打って変わって)ニヤニヤしてしまう楽曲となっている。


・ひらがなけやきに初めて誕生したユニットに与えられた名曲「沈黙した恋人よ」


 切なげなピアノのイントロが流れる。このたった8小節のフレーズがまず何よりも美しい。細かいことを言えば、8小節のうち前半の4小節と後半の4小節では異なる人物の心情が表現されていると解釈してみたい。前半が女で、後半が男か。その二人のやり取りのようなメロディになっていると思うと、さらに切なく聴こえてくる。ともあれ、それをそのままボーカルが繰り返しなぞるAメロ。このフレーズが<太陽を吸い込んだ>までの約40秒間でイントロ含め計3回流れるため、リスナーの脳に自然とインプットされる。Bメロを終えて、<君が指差すものを~>から始まるサビでそのフレーズをもとにした発展系のメロディを歌わせる。このサビは、それ単体でももちろん素晴らしいのだが、冒頭の8小節のフレーズを背後に感じることでよりいっそう深みが増す。記憶の中にある旋律と実際に鳴っている音との「差異」を聴くことで輝き出すのだ。


 歌詞は、二人の関係の変化について歌っている。”君”は空を飛ぶ鳥を指差すが、”僕”はそれを見つけられない。同じものを見ても”君”が感じているものと”僕”が感じているものが違うことに気付く。そこで”僕”は、記憶の中にある二人の関係は時とともにいつの間にか過去のものとなっていたと悟るのだ。それは、どこかこの楽曲の構造とリンクしてはいないだろうか。二人の関係の変化、それこそまさに「差異」なのである。だからこそ、<あの頃の自分に縛られてたんだ>から続く展開、すなわち、転調したりギターソロをさせてもなお畳み掛けるように鳴り続ける(二人の記憶が蘇るような!)あのフレーズのリフレインに、我々は涙せずにはいられないのだ。作曲は姉妹グループの乃木坂46に多く楽曲を提供している杉山勝彦。欅坂46には他に「青空が違う」を提供している。ラストの詞<黙ってちゃ夏は終わるよ>を受けてまたあのフレーズが流れる。メロディはそこで、最後に少しだけ優しいものに変わっていたのだった……。


・メンバーの個性を引き出す3つの新しいソロ曲


 アルバムにはメンバーの魅力を引き出すソロ曲が新たに3つ収録されている。たとえば、長濱ねるのソロ曲「100年待てば」はどこか懐かしいサウンドで構成された好楽曲だ。アルバム上次の曲にあたる「沈黙した恋人よ」の<黙ってちゃ夏は終わるよ>のような急かすメッセージとは裏腹に、<今すぐ好きだと言わなくても人生は長いから>という歌詞にあるような、ゆったりとした雰囲気を漂わせている。半音下降クリシェが多用される序盤の脱力感、波に揺られているような王道進行のサビの安定感と、ポップスの雛形からも楽理的にも逸脱がなく、非常に安心して聴くことができる。どんな時も決して声を荒げたりしない落ち着いた彼女のイメージがよく表われているだろう。


 一方、平手友梨奈による昭和やさぐれ歌謡風味の「自分の棺」は、今年に入ってから「自分のことが嫌い」と各メディアで発言していた彼女の現在の心境を掬い取る一曲だ。グループの絶対的センターゆえに、グループイメージをさらに濃ゆくしたような楽曲にもなっている。<値札を貼られたしあわせが これみよがしに並んでる>なんて16歳の少女に歌わせているのだから面白い。今にも消えて無くなりそうな彼女の存在感にこちらとしては冷や冷やさせられるばかりだが、その意味では長濱とまったく対照的な二人と言えるだろう。


 こうしたソロ曲は、グループの表面的なパブリックイメージからは感じ取れない細部の魅力にフォーカスしている。しかしその中で、Type-Bに収録されている「夏の花は向日葵だけじゃない」は、歌い手にあったもともとの魅力を膨らませることに加えて、新たな一面を発掘した一曲だ。ファンの間ではおバカキャラや、よく笑う姿から天真爛漫で純真無垢なイメージが定着している今泉佑唯。ピアノとストリングスがふんだんに用いられた2000年代J-POPの王道バラードといった趣のサウンドは、彼女のその幼く清純なイメージを少しだけ大人にシフトさせ、年齢相応の女性の魅力を演出する。彼女の成長を音で祝福するピアノの伴奏。それに応えるメンバー内随一の歌唱力。冠番組で楽屋裏の隠し撮りをした際に、ずっと歌っていた姿とも重なる(「青空が違う」の<ひまわりの種を持ってきた>の箇所を口ずさんでいたのが恐らくタイトルに繋がっている)。また、今年の4月13日に活動休止を発表して以来、ファンの前から姿を消していた彼女。この約3カ月間は病気療養という意味以上に、ファンとどう向き合っていくのかということを考えさせられた期間だったのではないだろうか。これまでグループにはなかった曲調にトライしたこの曲は、ソロ曲としての役割を全うしつつ、歌い手の新しい魅力を掘り起こし、さらにはグループが直面した課題にも接近するような姿勢を見せる。彼女が参加するフォークデュオ・ユニット、ゆいちゃんずの新曲「1行だけのエアメール」と合わせて、アルバム全体を通してのハイライトと言っても過言ではないだろう。


・その他バラエティに富んだ新曲たち


 その他、アルバムにはまだまだ多彩な楽曲が収録されている。ブラックミュージックのエッセンスを取り入れた「少女には戻れない」、ダンスチューン「東京タワーはどこから見える?」「AM1:27」、四つ打ちEDMの「太陽は見上げる人を選ばない」、サビの盛り上がりが期待できる「危なっかしい計画」、90年代エレクトロポップ風の「君をもう探さない」など、ライブでのパフォーマンスが映えそうな楽曲が揃う。人気ユニットに与えられた新曲「ここにない足跡」や、爽やかな王道アイドルソング「永遠の白線」など、昨今のグループアイドルらしいストレートなポップスもある。漢字欅とひらがなけやきの混合ユニットによる「猫の名前」や、Queenを彷彿とさせる「バレエと少年」など、実験的な試みも多い。こうした楽曲群は、グループの可能性をあるひとつの方向に固めてしまうことを防ぐのにとても重要な要素だ。


 欅坂46は、以上のように楽曲それ自体も非常に魅力的なのだが、それよりも振付師であったり映像作家であったり、作品の周りにいる(もちろん彼女たち自身も含む)クリエイター陣のそれぞれの解釈がファンにとって重要な意味を持っている。MVの爆発的な再生回数であったり、CDのロングセールスや音楽番組でのダンスが話題になったりするのは、他でもなくその証左だ。となると、今週末の富士急ハイランド・コニファーフォレストでの野外ライブ、夏の音楽フェス行脚、そして8月に開催される全国アリーナツアーで、以上の楽曲たちがどのようにパフォーマンスされるのかが気になるところ。


 アイドルシーンの最前線でまさに今、アイドルの可能性を開拓している欅坂46。そのひとつひとつの動向に目が離せない。(荻原 梓)