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「THE REFLECTION」長濵博史監督インタビュー スタン・リーと超アメコミ好きクリエイターが生み出すアニメとは

2017年07月21日 13:24  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「THE REFLECTION」長濵博史監督インタビュー スタン・リーと超アメコミ好きクリエイターが生み出すアニメとは
TVアニメ『THE REFLECTION(ザ・リフレクション)』が7月22日より放送スタートする。「スパイダーマン」や「アイアンマン」など、実写映画でも大ブームを巻き起こしているマーベル・コミックスの数々のキャラクターを生み出してきたアメリカン・コミックス界の創造神、スタン・リーが原作を務めるオリジナルアニメだ。

今作は世界規模で起こった大災害「リフレクション」をきっかけに特殊なパワーを獲得した能力者が誕生してから3年後の世界を舞台に、その強大なパワーで悪事を働くヴィランと、その者たちに同じくパワーで立ち向かうヒーローとの戦いと、「リフレクション」の謎が描かれる。
まさにアメコミのスーパーヒーローもの作品っぽさがあらすじからも全力で伝わってくる今作でスタンとタッグを組むのが、『蟲師』や『惡の華』で知られる長濵博史監督だ。

今回、長濵博史監督にインタビューを敢行。そもそもなぜスタンとのアニメの企画が始まったのか、そして今作はどれくらいアメコミのスーパーヒーローものらしさが盛り込まれているのかなど気になるところをガッツリと伺った。
[取材・構成=傭兵ペンギン]


――伝説的クリエイターのスタン・リーが参加するこの企画はどのようにスタートしたものなのでしょうか。

長濵博史(以下、長濵)
僕は駆け出しのアニメーターだったころから、先輩たちにキャプテン・アメリカやデアデビルの魅力を力説するほどアメリカン・コミックやアクション・フィギュアが大好きだったんです。 当時はまだ『スパイダーマン』の実写映画も始まっていない頃で、邦訳コミックはほとんど出ていないし、先輩たちも「『スパイダーマン』って東映の特撮だろ」くらいの反応でしたね(笑)。
それからある時に、アメリカのシアトルでのイベントで、日本からのゲストに急に欠員が出て、先輩から「お前アメコミ好きなんだろ。来るか」と誘われて、参加することになりました。それがきっかけで、周囲にアメコミ好きであることがより知られるようになって、その繋がりでアメリカのアニメのプロデューサーと知り合うことができました。 そのプロデューサーにアメコミのことを語ったら「お前、詳しいな。じゃあ、スタンに会うか」となって、なんとスタン・リーを紹介してもらえたんです。 それでスタンに会い、彼にもアメコミのことを語ると「本当に読んでくれてるね。一緒に作品を作ろう。日本人と作品を作りたかったんだ」とスタンの方から言ってくれて、アニメの企画が始まりました。これは大体『スパイダーマン』と『X-MEN』が映画化されたころでしたね。
当時作ろうとしていた企画の内容としてはアメリカのヒーローが日本を訪れて、日本のヒーローとアメリカのヒーローの競演というようなものだったのですが、2年ほど動いていたものの、ポシャってしまいました。 とても残念だったのですが、それから更に数年後にスタンの側から「まだやる気はあるかい? もう一度話し合おう」と連絡をくれました。 それはもう願ったり叶ったりだったのですぐにアメリカに行き、新規の企画をスタートさせました。最終的な理想としては、新たな“ スタン・リーのユニバース” となるような企画をおこし、それが今回の『ザ・リフレクション』になったんです。


――スタンが原作とのことですが、彼は今回の企画にどのような形で参加しているんですか?

長濵
当初はスタンが多忙かつ高齢なこともあり、スタンはストーリーではなくあくまでアイデア出しという形式での参加だったのですが、話し合いを進めているうちにスタンが「やっぱりこれは私が書かないと。1週間くれ」と言ってきて、それからきっかり1週間後にあらすじが送られてきたんです。 そのあらすじを元に、ストーリーの骨子や世界観を一緒に組み立てていきました。それ以外の、物語を語る順番など細かいところについては「映像作りは君の得意分野なんだから、君に任せる」と一任してくれています。

――なんだか、スタン・リーがかつて行っていたマーベル・メソッド(※アーティストに大まかなあらすじを渡して作画をさせ、それを観た上で後からセリフを入れる手法)みたいな雰囲気も感じますね。

長濵
今でも彼のやり方は変わってないですね。「まず絵をくれ」と言ってきて、絵を用意するとそこから「こいつは……こんな名前のキャラクターで、こんな喋り方をするんじゃないかな」みたいな感じで、絵を観てそこから発想をどんどん膨らませていくんですよ。マーベル・メソッド的ですね(笑)。


――今作はどんなテーマの作品となるのでしょう。

長濵
“リフレクション”は<影響>や<反映>といった意味だけでなく、<投影>や<自分を省みる>などたくさんの意味があり、それら全ての意味を盛り込んだストーリーになっています。
そしてかつてスタンがやってきたように、新たなユニバースを作ろうという作品でもあります。『ハルク』や『スパイダーマン』、『デアデビル』なんかは、放射線という当時はまだまだ未知のものだったものがきっかけで誕生しています。それと同じく、今作では大災害によって超人が同時多発的に誕生します。 スタンは、科学的な要素を盛り込むことでコミックは面白くなると考えている方なので、それに似たものになっています。 要するにスタンがやってきたやり方を再構成して、再現するということを今作のコンセプトの中心に据えています。


――謎の煙と光線を浴びてパワーを得た超人の話とのことですが、かなりマーベルっぽさを感じる設定で、なんだか「インヒューマンズ(※ティリジェンミストという煙によって特殊なパワーを得た超人種族)」っぽいですよね。

長濵
そうそう。今までにない全く新しいヒーローを登場させようとはしていません。あえて、そっくりそのまま同じではないけど、どこかで見たことのあるヒーローを登場させようとしています。 それは『ウォッチメン』や『キック・アス』的なもので、単なるパクリでは終わらせず魅力的なキャラクターと独自性を確立して観客を引きつけます。
今作のキャラクターたちも、見ている人は最初は「あ、こいつら見たことあるぞ」となりながらも、見終えると「こいつらはこいつらで面白いぞ」となるようにしているわけです。 ぱっと見で、「なんかあのキャラっぽいのが出てくるアニメだ」と思った人に、詳しい人に「そのアニメ、原作者は『アイアンマン』や『スパイダーマン』作った人なんだよ」と語ってもらって、より多くの人にアメコミやスタン・リーに興味を持ってもらえるような作品にしたいという思いありますね。
僕は左利きなので子供の頃はすごくからかわれたり、学校の先生に咎められたりして、やっぱり自分はおかしいんじゃないかと思うこともありました。 そんなことがあったので後々『X-MEN』を読んだ時に、ミュータントたちに共感を覚えたし、変でも良いんだということを教えてもらえたと感じました。『X-MEN』はそういうメッセージのこもった作品だと思うし、今でも世界中のマイノリティの人に希望を与えてくれていると思っています。
そんな素晴らしい作品を生み出したスタン・リーはまだ日本ではどんな人なのかそれほど有名にはなっていないと感じています。映画でのカメオ出演はありますが、彼の業績をもっと知ってもらいたい。
そういえば、そのTシャツのロックジョーとカーナック(※どちらもインヒューマンズの一員。取材時、筆者はマーベルヒーロー大集合のTシャツを着ていた)もいるんですね。


――よく見つけてくれました(笑)。 本当にアメコミとスタンがお好きなようですが、最初に読んだアメコミは何なんですか?

長濵
小野耕世さんが訳してた、光文社の『スパイダーマン』ですね。一番気になっていたのは『シルバー・サーファー』で、銀色でサーフボードに乗っているなんてカッコいいなぁと思っていたのですが、2巻までしか出てないし、もしかして面白くないんじゃないか……と思って手を出せなかったんです。 『キャプテン・アメリカ』や『マイティー・ソー』もあったのですが、当時やってたCMで頭に羽飾りをつけたムキムキマンという男が踊るという面白いCMがあって、キャプテン・アメリカやソーも頭に羽がついているので、学校に持っていったら笑われちゃうんじゃないかと思って買えませんでした。
なので結局、最初は『スパイダーマン』にしようと決めました。東映の特撮版で知っていたし、5巻か6巻くらいまで出ていて数もあるし大丈夫だろうと思ったので。それで手にとってひと通り表紙を見てみると、4巻の表紙が凄くカッコよくてそれを買いました。 その表紙は、這っているポーズのスパイダーマンの周りに、グエン(・ステイシー)やノーマン(・オズボーン)などの顔が浮かんでいるというものでした。

――昔のアメコミの表紙によくあった頭だけが浮いてるやつですね。

長濵
あれ好きなんですよ。当時から、マンガを1巻から買うことはなくって好きな表紙を見つけて途中から買って、そこから遡って読んでいくというのが好きなんです。アメコミって元から長くあるキャラクターのストーリーを途中から読むことが多いので、意図せずしてピッタリな読み方でしたね。 そんな風に買ったスパイダーマンが最初のアメコミであり、僕の中でのアメコミ像になっています。アートをジョン・ロミータ・シニアとギル・ケインが描いている本当に凄い時期のコミックですね。
そのストーリーの中で印象に残っているのは、スパイダーマンと『X-MEN』のアイスマンが共演する回ですね。 とある事情でスパイダーマンがグエンを抱えて移動しているときに、それを見かけたボビーという男が突然路地裏に行って「X-MENである僕が悪事を見逃すわけにはいかない」みたいなことを言って変身してスパイダーマンに戦いを挑むんだけど、途中で自分の勘違いに気づいて最後は一緒に悪党を退治するというお話でした。 当時は『X-MEN』については知らなかったのですが、そのページには小さく「X-MENとはミュータント・ヒーローチームである」とだけ書いてありました。この説明だけですよ。もう、まったくわからない(笑)。なので、最初はアイスマンって事情もわからずスパイダーマンを邪魔するなんて嫌なやつだなぁと思ったのですが、最後に仲間になるところをみて、驚いたし、アイスマンのことが凄く好きになりました。
この何の前触れもなく突然別のコミックのキャラクターが出てくるし、敵か味方かもわからないという、ドキドキ感を色んな人に味わって欲しいと思っていますし、今回の作品にも取り入れています。


――そういったアメコミっぽさや、スタン・リー作品っぽさをアニメーションの中に取り入れるにあたって、どんな工夫をしていますか?

長濵
特別なことをしているという意識はないですね。ただ、スタン・リーの作品の魅力を表現しきったアニメーション作品はまだないと思っているので、自分がやるんだったら、そこをしっかり出して行きたいと考えています

――それはキャラクター・デザインにも反映されていますか?

長濵
スタンがジャック・カービーやスティーブ・ディッコらと生み出したキャラクターは、子どもでも簡単に描けるように作られています。例えばスパイダーマンは、蜘蛛の巣模様をちゃんと描くのは大変ですが、子どもがクレヨンで赤い顔に白で目を描いて、黒で線をいれればなんとなくスパイダーマンだと認識できますよね。 そういう子供でもわかる「記号」が重要だと思うので、今作のキャラクター・デザインにも反映しています。
主人公のエクスオンやアイガイはアルファベットの「X」や「I」をモチーフにしていて、例えばエクスオンなら赤にXを描くだけで分かるようになっています。 これはシンプルで一見バカバカしくも思えるかもしれませんが、ファンタスティック・フォーの青いタイツに「4」の文字だって、コミックを読んでいるうちにたまらなくカッコよく見えてきますし、ファンならその「4」の文字を見ただけで「あっ、ファンタスティック・フォーだ!」盛り上がれるわけです。
そういうアイコン化がアメリカン・コミックらしさかなと思っていて、それを今回の作品でもやっています。日本的デザインもカッコいいのはわかるんですが、あえてレトロなアメコミのキャラクターが今アニメ化されたかのような雰囲気を出しているんです。

――ヒーロー作品を盛り上げるには、やはりヴィランの魅力も欠かせないと思うのですが、今作ではどんなヴィランが登場しますか?

長濵
金属を操る女性や、蛙のような化物などたくさんの謎めいたキャラクターが登場します。今作では、ヴィランはヒーローよりも自らの能力を受け入れるのが早くて、すでに先手を打っているという世界となっています。 ヴィランになる人間はある意味、パワーを手に入れてしまって普通では無くなったことで自暴自棄になり、社会に溶け込むことを諦めているものが大半で、そんな連中を束ねる人間も出てきて、組織化が始まっています。 一方で、ヒーローはまだ個々に活動しているので、ヴィランのネットワークに圧倒されているというような状況となっています。

――ヴィランはチームを組んでるのに、ヒーローはまだバラバラなんですね。

長濵
そうですね。エクスオンはすでにヒーロー活動をやっているキャラクターである一方で、アイガイはこれからヒーローになっていく人物だったりと、いろんなアメリカン・コミックのスーパーヒーローの形を散りばめています。 エクスオンの特徴としては、マスクは脱がないしオリジン(※ヒーローの誕生秘話)は明かさないヒーローであるというところです。もちろんオリジン自体は作ってあるんですが、それを作った当人以外は、彼を演じる三木眞一郎さん以外知りません。 だから、三木さんにはエクスオンのコスチュームがまったく違うものに見えてるでしょうね。物語の中でもちらっとだけしか明かしません。そういう断片的なものでいろいろ想像を膨らませながら、楽しんでいただければと思っています。


――パワーも相手の能力のコピーなあたり、本当に正体不明な感じで面白いですね。では、一方でアイガイはどんなキャラクターなのでしょう

長濵
アイガイは肩の張った大きなアーマーを着ていますが、これは彼の自己顕示欲の現れでもあります。 彼は有名な歌手だし、本名も「イアン(Ian)」なので、彼自身としては「ほら、俺だよ。みんな分かるでしょ」と思っているんですが、とある事情で能力者たちへの風当たりが強くなってきているので、正体を明かすタイミングを逃してしまっているようなキャラクターです。


――そういえば、主人公の人はどちらも完全に顔を隠したコスチュームのヒーローですね。やはりハーフマスク系のヒーローはあまり日本では受けないと考えた結果なのでしょうか

長濵
そういうことは考えてないですね。エクスオンに限って言えば、完全に顔を隠すことで、どんな人種でも性別でもあり得るという風にしたかったんです。これは、スタン・リーがスパイダーマンのコスチュームに関して言った「あのコスチュームはどんな世界の読者でも自分がコスチュームを着ていると思い描けるものなんだ」という発言に影響を受けています。 残念ながら、僕ら読者はスパイダーマンはピーター・パーカーなんだということを知ってしますけどね。もし記憶が消せるならスパイダーマンがピーター・パーカーだってことの記憶を消したいですね(笑)。 ジェイムソン編集長が劇中で「スパイダーマンを悪者だ」と言っているところも、グエンの父のステイシー巡査が正体を探る話も、スパイダーマンの正体を知らないで読んだらもっと面白いかもなぁとは思っていたのです。
そういう意味もあって、今回のエクスオンは全身を覆うコスチュームで正体を完全に隠しているんです。マスクをかぶれば自分もエクスオンになれるかもしれない。そんなことを考えて欲しいですね。 スタンと話し合った時も、正体不明のスパイダーマンを作りたいということを話しました。そういうこともあって、正体不明であるという意味の「X」もかかったネーミングになっています。


――かなり深い意味をデザインに盛り込んでいるんですね。

長濵
そうなんです。日本で作られた「アメコミっぽいデザイン」は日本的に翻訳されたものが多くて、カッコよさ重視のあんまり意味のないパーツがついてたりしますが、例えばキャプテン・アメリカのコスチュームはアメリカ国旗がモチーフであり、国旗を纏って戦場で戦うという意味がありました。また彼がコスチュームを脱いで引退する理由もアメリカという国家を信じられなくなったからとちゃんと意味がありましたよね。 スパイダーマンは当初はあんな格好じゃなかったんだけど、ピーター・パーカーがTV番組で稼ぐためにもっと目立つ格好にしようと、おなじみのデザインになったという設定があります。よくよく考えたら、全然蜘蛛じゃないですからね、あのコスチューム(笑)。
そういう形で、今作のキャラクターのコスチュームもすべてストーリーを持たせてデザインしてあります。形だけでなくカラーリングにも大事な意味を持たせてあるんです。 それをスタンと話し合って、絵を見てもらい、名前をつけてもらっています。最近はちょっと長めの名前を付けるのが気に入っているのか、スティール・ルーラーとかフレイミング・フューリーみたいな、音のカッコよさを重視したちょっと複雑な名前をつけてくれていますね。 ちなみにスタン・リーのキャラクターはミスターミスティックという名前になっています。でもみんな、劇中では正式名称であんまり呼ばれないんですよ

――アメコミヒーローヴィランっぽいですよね。

長濵
そうなんですよ。スパイダーマンが「ウェブヘッド(蜘蛛の巣頭)」、アイアンマンが「シェルヘッド(殻頭)」と呼ばれたりするように、愛称で呼ばれることが多いです。例えば、アイガイはヴィランの間では名前が知られていないので「トサカ頭」とか「青いの」と呼ばれますね。そういうのが、やりたかったんです。