2017年07月21日 10:03 弁護士ドットコム
就職活動を意識しはじめた都内の名門大学3年生のユウキさんが、就活セミナーに参加したところ、驚くべき話を聞いたという。「今、就活の選考過程において『Webテスト』が実質的な足切りとして使われているのですが、ここで替え玉受験などが行われているというのです」と、ユウキさんは話す。
【関連記事:18歳男子と16歳女子 「高校生カップル」の性交渉は「条例違反」になる?】
Webテストとは、数学、英語などの学科試験を、Web上で回答する試験だ。テストセンターと言われる受験会場で行われるほか、自宅などで自分のパソコンで受けることもできる。しかし、ユウキさんが参加した、ある就活イベントでは、主催者が「Webテストの極意があります」と切り出し、次のような手口を紹介したという。
「主催者によれば、『友達と協力し、数学は工学部に、国語は文学部に、英語は帰国子女に頼もう』『偽アカウントを作り、問題を事前に入手しよう』というのがその極意だと言うのです」。友人たちと手分けをして受験したり、偽アカウントを作ったり、実際には志望していない企業に申し込みをし、問題を入手したら、それを別の志望する友人に渡してあげる方法だという。
大手企業の内定を得るためにはWebテストで高得点をとる必要があり、そのために多くの人がそのような裏ワザを使っているという。ネット上にも、このようなWebテストの不正は複数、投稿されており、不正が横行している疑いもある。
しかし、就職活動において、このような不正行為が企業にバレた場合、内定取り消しなどの処分も考えられるだろう。実際にどのような処分が考えられるのだろうか。柴田幸正弁護士に聞いた。
「まず、企業に採用が内定している状態とは、法的にはどのような位置づけにあるのか検討します。
内定は、労働契約が既に成立してはいるものの、使用者(企業側)が、内定者の従業員としての適格性の有無を調査するため、最終的な決定を留保している状態と考えられています。そこで、こうした留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認できる場合にのみ、内定取消しが有効になると言えます」
では、今回のケースでいえば、どうだろうか。
「企業は従業員を雇用するにあたって、どのような人をどのような条件で採用するかということについて、原則として自由に決定することができます。これは経済活動の自由の一環として、憲法で保障されるものです。
そして、採用する企業としては、こうした採用の自由に基づいて従業員としての適格性の有無を判断し、申込者から申告のあった経歴等を信頼して採用するわけです。意図的な不正行為を行うこと自体、企業との信頼関係を裏切るものですし、従業員としての適格性を損ねる事情と言えるでしょう。
こうした考え方を踏まえると、内定前の状態であれば、不正行為が発覚した時点で採用選考の対象から外すことはもちろんのこと、不正行為を行った人についてはそれ以降の採用申込を断ることも、企業の採用の自由に基づく判断としてはあり得るでしょう」
もし内定後に判明した場合には、どうだろうか。
「内定後に、採用試験の際の不正行為が発覚したという場合は、前述した内定取消しの有効性の問題となります。
企業としては、従業員としての適格性を判断する指標として採用試験を実施しています。替え玉や偽アカウントの作成といった不正な手段で突破したことは、そのことだけでも、内定を出した企業との信頼関係を著しく損ねるものと言えますね。
したがって、従業員としての適格性がないとみられて、内定取消しとなることも覚悟せねばなりません」
Webテストの種類によっては、複数の企業への応募に使えるケースもあるそうだ。他の企業の選考など、その後の就職活動への影響もあるのだろうか。
「企業には、採用の自由がありますから、その採用に当たって必要な情報を調査することもできます。最高裁判所も、企業が労働者の採否決定に際して、労働者の思想や信条を調査して、これに関連する事項についての申告を労働者に求めることを広く認めています(三菱樹脂事件)。
ですから、就職活動をする学生としても、企業による適正な選考のために、企業が行う調査に対して真実を回答する必要があります。労働者としては、内定取り消しを受けた理由について企業から調査を受ければ、あらかじめ真実を説明しておく必要があるでしょう。
そこで嘘をついても、内定後に分かってしまえば内定を取り消される可能性が高くなりますし、また、不正行為をしたことで、Webテストの結果自体が無効になることもあり得るでしょう。そうなれば、一事が万事、ということで、他の企業への就職活動にも悪影響が出る可能性がある、と言えるでしょう。」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
柴田 幸正(しばた・ゆきまさ)弁護士
2008年登録、愛知県弁護士会所属。同弁護士会の労働法制委員会では研修部会長を務め、2016年10月からは家事調停官(非常勤裁判官)も兼務。地元の瀬戸市で、個人向けの一般民事・家事事件、中小企業向けの顧問業務などを取り扱っている。
事務所名:柴田幸正法律事務所
事務所URL:http://shibatayukimasa-law.p-kit.com/