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androp×Creepy Nutsの“違い”が生む魅力ーーBUMP、女王蜂らロック界コラボの歴史から考える

2017年07月21日 10:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 様々な場面で価値観の多様性が重視されるようになって久しい昨今。バンドによる他アーティストとのコラボレーションの中にも、驚きのタッグによって制作された楽曲が多く生まれている。そもそも、コラボ曲が「異なる価値観を持つアーティスト同士の共同作業」だと考えれば、相手との音楽性が遠ければ遠いほど、その結果が誰も予想のつかない魅力的なものになるのは当然のこと。つまり、コラボレーションとは、バンドが普段の音楽性から一歩踏み出して、新たな可能性を追求するための場所になるということだ。近年の日本のロック・シーンにもそうした楽曲は多数あり、バンドの新しい表情をリスナーに見せてくれる。


■BUMP OF CHICKEN feat. HATSUNE MIKU「ray」


 たとえば、BUMP OF CHICKENにとって初のデュエット形式でのコラボ曲となった「ray」は、メンバーの演奏の記名性がダイレクトに反映される「バンド」と、無数のクリエイターがネット上でN次創作を繰り広げる「ボーカロイド」という、まさに正反対とも言える2組が手をとった楽曲だった。初音ミクのプログラミングはkz(livetune)が担当。一見水と油とも思える藤原基央と初音ミクの歌声の違いが、むしろコラボ曲ならではの魅力を生んでいる。ライブではスクリーンに投影した初音ミクと演奏を繰り広げる様子も印象的だった。


■Base Ball Bear「The Cut -feat. RHYMESTER-」


 バンドの音楽性を広げるという意味では、「The Cut -feat. RHYMESTER-」もその好例だろう。ここでは過去にも様々な形でラップの奥深さを多ジャンルに伝えてきたRHYMESTERを迎え、豊富な引出しを持つソングライター・小出祐介のリミッターをさらに取り払うような音楽性を実現。制作時にはともにスタジオに入りほぼゼロから組み立てていったそうで、両者の化学反応がリアルな形で収められている。以降のライブでは小出祐介がラップを担当するなど、パフォーマンス面でも可能性を広げた楽曲と言えるのではないだろうか。


■女王蜂「金星 Feat. DAOKO」


 2017年の楽曲では「金星 Feat.DAOKO」も忘れられない。この楽曲は音源化前に、DAOKOのツアーに女王蜂がゲスト出演して披露された妖艶なディスコ・チューン。小島英也(ORESAMA)と浦本雅史(Soi Co.,Ltd)を迎えたトラックの上でリズム感も節回しも異なるアヴちゃんの艶やかな歌とDAOKOの言葉数の多いラップが融合し、妖しさの中にも普段の女王蜂にはないキュートさが加わった。DAOKOのメジャー・デビュー曲「水星」(tofubeatsのカバー)になぞらえて曲名が「金星」になっているのもコラボならではだ。


 こうして3曲を見ても、コラボレーションは多くのバンドの可能性を広げる役割を担っている。だとするなら、今年の夏は、この2組のコラボが話題になりそうだ。


■androp「SOS! feat. Creepy Nuts」


 andropが自身の楽曲では初のコラボ曲としてCreepy Nutsを迎えた「SOS! feat. Creepy Nuts」が、8月23日にリリースされる(配信は7月26日よりスタート)。この楽曲は7月4日に行なわれたandropのワンマンツアーの東京公演にCreepy Nutsが飛び入りし、2組がステージ上で共演する形で初披露されたサマー・チューン。この曲のみ動画撮影が許可されたため、SNSに観客が撮影した動画が多数アップされたことも話題になった。そして、このコラボレーションもまた、まったく異なる2組の魅力がひとつになった楽曲になっている。何しろ、andropはモダンでスタイリッシュなアレンジの妙と普遍的な歌心を兼ね備えた正統派ロック・バンド。一方のCreepy Nutsは、自らを「たりないふたり」と称してヒップホップの王道からはみ出した自分たちのリアルをさらけ出すヒップホップ・ユニット。そんな2組がそれぞれの音楽性の違いに加えて、陽/陰を担うように「夏」「サマー・ソング」へのスタンスの違いを持ち込んでいて、全編を通して2つの視点が次々に切り替わるユニークな構成が生まれている。


 冒頭、「ツァラトゥストラはかく語りき」の壮大なサンプリングが挿入されると、それぞれのカラーがはっきりと分かれたパートが交互に登場する。Creepy Nuts色を全開にしたバース部分では、R-指定が<お前のことを嫌いなやつもいる>と夏や夏曲をひたすらディス。いわば「夏嫌いによる夏嫌いのためのサマー・チューン」といった雰囲気で、サウンド面でも夏を思わせる要素は最小限に抑えられ、<海で騒ぐやつサメに食われろ/肝試し行くやつは呪われろ>と言いたい放題だ。とはいえ、<全っ然さみしくない><お前がどうしてもって言うなら行ってやってもいけどな><誘えや!>と羨ましさを滲ませるバランス感覚が秀逸で、「本当は夏を楽しみたいんでしょ?」とツッコむ隙を与えているのが最高に面白い。一方、サビはandrop色を前面に出した清涼感溢れるギター・サウンドとキャッチーなメロディ&コーラスが溢れ出す「夏好きによる夏好きのためのサマー・チューン」。<言い訳ばっかお前何様>とCreepy Nutsにも目配りしながら、<ウェイ! ウェイ!>というコーラスも加えていかにも夏らしい、開放感いっぱいの音を連れてくる。こうして、群像劇のように2つの視点が組み合わさることで、通常の夏曲よりも驚くほど間口が広くなっているのが「SOS!」の最大の特徴だ。また、お互いが自分たちの役割を意識することで、それぞれが「陰/陽」にエクストリームな形で振り切れていく姿も非常に楽しい。そう、サマー・ソングと聞くと明るいものだけを想像しがちだが、実際の夏の過ごし方は人によって何通りも存在し、ウェイウェイ無邪気に弾ける夏もあれば、それを横目に文句を言って過ごす夏もある。そしてひとたび見方を変えてみれば、夏をどう楽しむかは、結局のところ自分次第なのだ。


 MVには水着や浮輪を用意して準備万端のandrop=「夏好き」と、悪態をつきながら浜辺にやってきたCreepy Nuts=「夏嫌い」が、浜辺で一緒になってはしゃぐ様子が収められている。けれども浜辺には終始雨が降っていて、結局2組がびしょ濡れになってやけくそで盛り上がるというユーモラスな雰囲気に、このコラボならではの魅力を感じる人は多いんじゃないだろうか。音楽性もスタンスも正反対の2組が集まり、「立場なんてどうでもいいから、お互い楽しもうぜ!」と手を取り合うことで、「互いの音楽的な可能性」と「夏の魔法」とが同時に浮き彫りになっていくような、魅力的なケミストリーが生まれている。(文=杉山 仁)