F1シーズンを転戦していると、いろいろな人との出会いがある。そんな人たちに、「あなたは何しに、レースに来たのか?」を尋ねてみる特別企画。今回は、はるばる南アフリカからやってきたクラース・プリンスルーくん。ルイス・ハミルトンの大ファンだという彼は、どうしてシルバーストンにやってきたのか。
—————————
ハミルトンがイギリスGPでウイニングランをした後、マシンを止めたパルクフェルメで車イスに座っていた少年たちがいた。ひとりは、今年4月のドニントンパークでのイギリスF4のレース中にアクシデントに見舞われ、両脚切断の大ケガを負ったビリー・モンガーくんだ。その隣にいたのは、クラース・プリンスルーくんだ。
レース後の記者会見で、ハミルトンはこう語っている。
「今日は南アフリカから来てくれたマイケルって子もいた。彼はガンと闘っているんだ。彼に会えて本当に素晴らしかった」
オランダ系の南アフリカ人のプリンスルーくん。ハミルトンは英語読みで「マイケル」という愛称で呼んだ。プリンスルーくんもまた、モンガーくんと同じ18歳の少年だ。
だが、モンガーくんがハミルトンの招待だったのに対して、プリンスルーくんは、ある慈善団体の招待を受けて、今回イギリスGPにはるばる、南アフリカからやってきた。
どうして、プリンスルーくんは、シルバーストンにやってきたのか? 父親のクラース・プリンスルー・シニアさんは涙をこらえながら、こう答えてくれた。
「息子は、ルイス(・ハミルトン)の大ファンで、いつもテレビでF1を観戦していた。彼がF1にデビューした2007年からずっと応援していたよ。ところが、1年前にユーイング肉腫を発症したんだ。いまステージ4で、医者からは余命3カ月と宣告されてしまったんだ……」
ユーイング肉腫とは、主として小児や若年者の骨(まれに軟部組織)に発生する肉腫。粘膜や皮膚などの上皮組織に発生する悪性腫瘍は『がん』といい、骨、軟骨、筋肉や神経などの非上皮組織に発生する悪性腫瘍を『肉腫』と呼ぶ。
骨にできる悪性腫瘍には骨肉腫があるが、骨肉腫は骨にできた悪性腫瘍が骨を作り、腫瘍部分が骨に変化するという特徴を持っているのに対して、ユーイング肉腫は骨の組織を破壊する性質がある。
そのプリンスルーくんは、ハミルトンからTシャツにサインしてもらっただけでなく、レース終了後のチームの記念撮影会にも、モンガーくんとともに招かれ、ハミルトンの勝利を祝った。さらにイギリス・チャンネル4の中継でも共演。
「最高の一日だよ」と、父親のクラース・プリンスルー・シニアさんは唇を震わせた。