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never young beachが語る、タフなバンドである必要性「社会にフィットしたバンドでありたい」

2017年07月19日 19:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 never young beachの勢いは誰にも止められない。ツアーファイナルである4月12日に開催された恵比寿リキッドルームでのライブについてこちらで書かせてもらった際、筆者は文中でそのように断言したが、勢いが止まらないだけではなく、そのアグレッションとも言えるパワーをしっかり裏付けるだけの作品を用意してきた。ただエナジェティックなだけではなく、なぜそうする必要があるのか、いや、それは必要じゃなく、必然なのだ、我らはこうであるべきなのだ、という絶対的な自負をこの新作にしっかり焼きつけてきた。メジャーレーベルからのデビュー作であり、彼らにとっては3作目となる新作『A GOOD TIME』。


 曲がいい、聴きやすい、親しみが持てる、楽しい、心地よい……このバンドの良さを伝える言葉はこれまでにも星の数ほどあったが、今作にはそれに加え、音のレンジがグンと広がり、ちっちゃなスピーカーのデッキや安いイヤホンで聴いても、あるいは、これらの曲をひっさげて大きなステージのフェスに登場しても、どういう環境で誰が聴いてもワクワクするものになったと言っていい。そういう意味では、彼らが列の後ろにつくべきはスピッツやaiko。永遠に変わることのない、ポップスという名の指定席のある列だ。


 とはいえ、彼ら自身は相変わらず。ボーリングのボールを手にして波打ち際を笑顔で駆ける『A GOOD TIME』のジャケット写真さながらに、5人は今も楽しそうに浮かれている。でも、この浮かれている笑顔の裏で、彼らはこの1年ほど、人一倍の努力を重ねてきた。目先のトリックやすぐに気づくようなわかりやすい変化球など要らない。では、どこが『A GOOD TIME』をポップスたらしめているのか。さりげなくギラつかせる5人の野心を問うた。(岡村詩野)


・ずっとインディーにいるのかどうか? ってことを考えたら、それではダメだろう(阿南智史)


ーー今回のアルバムの中で、メンバーのみなさんそれぞれにとって、最もバンドとしての変化が現れていると思う曲、もしくは新しい挑戦をしようと思った曲。まず、そこから伺いましょうか。


阿南智史(以下、阿南):僕は「海辺の町へ」かな。これは切ない感じを出したかった曲なんです。そういう感じって今までの僕らにはなかったじゃないですか。この曲は、Aメロとかは普通にシンプルなコードなんですけど、サビの部分で、今までやっていなかったメジャー7thを使っているんです。別にメジャー7thを禁じ手にしていたというほどではないんですけど、でも、「この曲でやってみたいんだけど」ってメンバーに話したら、「ああ、いいんじゃない?」って結構あっさり(笑)。でも、僕にとってはすごく大きなトライだったんです。


鈴木健人(以下、鈴木):初めてでしたね、ここまで阿南が自分の主張を伝えて突き通してきたのって。そのメジャー7thからアウトロに向かう、ちょっとまどろむようなフレーズとかも「どうしても入れたい!」って言ってて。最初の16分(音符)もそこまでロマンティックじゃなくても……ってみんな言ってたんですけどね。でも、どうしてもやりたいって。


阿南:僕は今までこのバンドで結構自由にやってたんです。もちろん、曲には寄り添おうとしてて。ただ、この曲に関しては、みんなに寄り添ってもらったって感じですね。この曲は歌詞についてもそうで。曲のイメージと違う歌詞ができてきたから、「変えてほしい」って(安部に)言って。


安部勇磨(以下、安部):とうとうそこ言ってきやがったか! って思いましたけどね(笑)。僕にとってはこの曲、いい意味で、“どうでもいい曲”……“普通の曲”だったんですよ。だから、アルバムの中のバランスとか考えて、あえてこのままっていうか、歌詞もそこまで考え過ぎないで作っていたんです。でも、阿南が「書き直してくれない?」って。あの時は激震しましたね、僕ら(笑)。


ーー最初はどういう歌詞だったのですか?


安部:や、本当にどうでもいい感じだったんです。朝まで遊んで、また起きて……みたいな。本当に意味を持たせたくなかったんです。でも、ツアーかライブに向かう車の中で、いきなり阿南が「あれ、出がらしじゃね?」って言い出して。メンバーみんなそこにいるんですよ。もう公開処刑ですよ。歌詞にまで入ってきたヤツって初めてだったんで、ううううう~って感じで内面が傷ついて。そこまで言うんだったら……ってことで帰ってから書き直そうとしたんですけど、でも、結構僕としても何度か渋ってみたんですよ。「やっぱこのままじゃダメ?」とかって。だって、ここで折れたら、これから歌詞のクレームに全部対応しないといけなくなるから(笑)、防波堤が崩れるような気がして、ここで許していいものかどうか……って葛藤があったんです。でも、「できれば……」「もっと書けるっしょ、いつもの勇磨だったら」って言われて、そこまで言うんだったらやってやろう! ってことで書き直したんです。そしたら「こっちの方がいいって」って阿南も言ってくれて。いやあ、初めての体験でしたね。僕のフロントマンとしての立ち位置が崩れそうになりましたもん(笑)。


ーーこれまで、誰も安部くんの歌詞にはそういう注文をつけようって気持ちがなかったと?


巽啓伍(以下、巽):あまり考えたことなかったですね。「ああ、こういう歌詞を当てはめてくるんだ……」って、僕も最初この歌詞を見た時は思いましたけど……。もちろん僕らみんなこのバンドには思い入れはあるし、よくしたいという気持ちはあるんです。でもきっと、阿南は特にこの曲には強い思いがあったってことなんだと思います。


阿南:そう、この曲に対しては特にですね。ジョン・レノンの「ウーマン」をインスピレーションにしたような曲なんです。サビまでシンプルなコードで、サビになったらメジャー7thになるところとか、同じなんですね。なのに、よりによって、勇磨は最もどうでもいい歌詞を用意してきたんですよ(笑)。「眠い、寝ちゃうんだ」みたいな。


安部:いや、結果としてよかったんですよ。僕らの中で最も飄々としてて、このバンドに興味なさそうなアナンがそこまで言うんなら……ってことで書き直したんです。気持ち入ってて嬉しいなって。でも、歌入れした時に「どう?」って阿南に聞いても、「ああ、いいと思うよ……」って結構あっさりしてて。「え、そんな程度なの? もっと褒めてくれてもいいじゃん!」とは思いましたね(笑)。でも、そのくらい歌詞って難しいんだなって思いました。


阿南:実際、新しく書き直されたこの歌詞を聞いて、勇磨は歌い方も変わったなって感じたんですよね。


ーー確かに、安部くんのボーカルスタイルがここにきてまた少し変化しましたよね。去年の『fam fam』ではコブシが結構まわってて、すごく意識的に自分の歌い方みたいなのを作り上げようとしていた印象でしたけれど、今回は割と自然に声をお腹から出せている、喉であまり操作させていないストレートなボーカリゼイションだと感じました。


安部:そうなんですよ。実は、去年、冨田ラボさんの作品(アルバム『SUPERFINE』の「雪の街」)にボーカルで参加した時に、「自分はなんて力量がないんだろう!」って打ちのめされたんです。冨田さんのバックメンバーでもある方に、「猫背」「右肩が下がってる」とかそういう整体に関するような指摘もされて、バンドの中の歌い手、というポジションでどうやってちゃんと表現できるのか、ってことを改めて考えるようになって。それで一度ボイストレーニングに行ってみようってことで、今年に入ってから初めて通い出したんです。ツアーとかライブでキツくなってきていたっていうのもあったので、体調管理も含めて一度ちゃんと見直そうって。そしたら、本当に声が出るようになったんです。それはメンバーにも言われましたね。


鈴木:とにかく今回は歌のパワーアップが感じられるんですよ。もちろん、去年の『fam fam』の時のああいう感じもよかったんですけど、今は不自然さもないし、曲調や歌詞によって変えられるようなこともできるようになってるなって。


安部:僕の歌のクセは曲によっては邪魔になってしまう場合があるなって感じるようになって。音楽に寄り添うためにはもっとコントロールしないとなって。個性を出さないことが個性というか、もっと普通に歌うことの存在感みたいなものを出そうとは思ってて。とはいえ、僕らしい歌い回しや歌詞の特徴っていうのは絶対あるんで、消えることはないだろうなとも思うし。


阿南:まっすぐ歌うことって難しいじゃないですか。コブシを入れたりすると、それだけで個性になるし。でも、まっすぐ歌うことって、ブレスを入れても良い音程を持続させなければいけない。上手い人じゃないとできないことだと思うんですよね。それを、今の勇磨はできるようになってきているなって、感じていたんですよ。だから、歌詞を変えてもらったのって、本当に歌入れの直前だったんですけど、きっと対応してくれるだろうなって確信もあったんですよね。


ーーでは、安部くんにとって、一番の挑戦が現れている曲はどれでしょうか?


安部:僕はやっぱりそのボイトレの話じゃないですけど、「SURELY」ですね。ストレートなんですよ、この曲。ストレートな曲だと声のとっかかりが薄くなるんです。それだけに難しい。他の曲はどこかに引っ掛かりがあるんですけど、「SURELY」は本当にストレート。歌詞の感じもメロディも歌い方も。今回、どの曲も歌詞は新しいやり方を試しているんですけど、特にこの曲は曲自体ひねっていないという意味で新しいですね。リズムもこの曲は平らなんですよね。だから……またしても阿南なんかはすごく最初違和感を感じていたみたいなんですよね。


阿南:いや、これ、すごく開かれた曲なんですよ。小さなライブハウスじゃなくて、もっと大きな会場で演奏されたら映えるんじゃないかなって思えるような。最初は少しそこに違和感があったのは確かです。今の僕らのキャパより大きな曲だなっていうか。でも、実際、僕ら、今、演奏する場所が少しずつ大きくなってきているし、それだけにこういう曲は必要じゃないかなって思うんです。僕ら、どっちかっていったらインディー寄りというか、まあ、J-POPど真ん中ではないですよね。でも、じゃあ、ずっとインディーにいるのかどうか? ってことを考えたら、それではダメだろうなって思ったりもして。


巽:それすごくよくわかる。僕にとっては「気持ちいい風が吹いたんです」もそうなんです。より削ぎ落とされてシンプルになっている曲なので、勇磨のボーカルが生きているんですけど、僕自身は、ベーシストとしてバンドの中の立ち位置をすごく考えるようになった曲なんですね。今までって手癖で弾いてたというか、どの曲も同じスタンスで向き合っていたところがあるんですけど、「気持ちいい風~」は、個性を落として、シンプルにしていく必要があるかなって思って向き合った曲ですね。だから、フレーズ自体シンプルだけど、僕が弾かなきゃいけない1音にかけることの重要さをすごく考えて演奏しています。例えば、SuchmosとかD.A.N.みたいに、ベースがすごくハッキリしてて、音源を聴いてもそれが前に出てるっていう在り方にどうしてもとらわれちゃって……でも、自分はこのバンドでどういう向き合い方をすればいいだろう? ってことを考えた時に、やっぱり動きは少ないかもしれないけどその1音をちゃんと聴かせようということに気づいたんですね。


安部:1音しかないけどすごく情報量が多いというか豊かな音ってあるじゃないですか? かっこいいベーシストにはそれを感じるんです。 たっさん(巽)もそういうベーシストであってほしい、このバンドでは、そうやって1音1音を凝縮して豊かに鳴らすようなプレイヤーであってほしいですね。派手に動けばカッコいいというものではないですしね。だから、たっさんには今回のレコーディングで結構一緒にベースの話をしましたね。「なんでそんなに動いてんの、お前?」みたいな(笑)。「そこでハネることによって、次のメロディが変わってくるよ?」とか「曲に対する理解度がないよ」とかね。もう、ボロッカスに言いましたね(笑)。だって、最初は仲がいいからってことで組んだバンドですけど、ここまでやってきて、もっとこれから大きくなっていきたいって時に、「言いにくい」とかそんな理由で我慢しちゃダメでしょ。スズケン(鈴木)と阿南は割と前からそういうコミュニケーションをとっていたんですよ。でも、すこしでもウソがあったらすぐバレちゃう世界だし、通用しないってこともわかってきたので、たっさんにはちゃんと言わなきゃいけないなって思って、今回はかなり強く言いましたね。で、まるごと録り直ししたりしました。そういう意味では、音だけじゃなく、人間関係もタイトになったと思います。


巽:確かに、録り直す前は歌のアンサンブルに合ってないかんじはしていましたね。


・音そのものも、僕らの気持ちも広げていかないと(安部勇磨)


ーーでは、録り直す際のイメージ、1音の持つ説得力で聴かせるというベース・プレイで参考にした作品、アーティストはありましたか?


巽:エリック・クラプトンとかシールでしたね。


鈴木:曲調とかではなく、ベースの音の置き方ですよね。1音の白玉が、それだけでベースラインとして成り立っているようなイメージ。


ーーどの時代のクラプトンですか?


巽:00年代以降ですね。アルバムだと『バック・ホーム』。これは結構聴きましたね。


安部:アラバマ・シェイクスとかもそうだよね。


鈴木:そう、動いている方が派手だし一見カッコいいけど、白玉一つでベースラインとしてカッコいいっていう感じ、あれを目指そうってことになったんです。


巽:それの象徴が「気持ちいい風~」なんですよ。サビ前の自分のベースのフィル以外は、なるべく白玉で伸ばす、サビ前の歌の広がりを意識した感じのベースになっているんです。結局、バンドの中で僕だけ方法論として今までの通りでいてしまったんですね。だから、今回の制作中にやっとみんなに追いつけたって感じです。


安部:僕らはリズム隊が3人いるイメージなんです。スズケンとたっさんと阿南。阿南はギタリストだけど、リズムのことをちゃんと理解した上でどういうギターを弾くべきかを考えられる。そういう関係性があるっていうのはすごく大きくて、だからこそ、今回たっさんはすごく成長したんだと思います。やっぱりレコーディングの現場になると、それまでぼんやりと感じていたことも、それぞれの向き合い方として一気に出ちゃいますよね。それで僕もバーストしてガツンと言っちゃう。だってね、今回ベースを替えたもんね?


巽:そうなんです。レコーディング3日目くらいで、これまで使っていたベースを全部禁止にしたんです。これじゃ違うだろうって。で、HAPPYとかきのこ帝国のメンバーに機材(ベース)を借りに、録音スタジオのある高崎から東京まで車で行って、で、借りてまた戻って。ギブソンからフェンダーの69年製のに替えたんです。だって、こっちも100%それに対応してやらないとムカつくし、消化不良おこすわって思って。


安部:やっぱりエアー感が違うんですよ。ギブソンってマットだったりパワフルだったりな音にどうしてもなるから。微妙なニュアンスが違って。どっちがいいとかではないんですがら、今回のアルバムにはフェンダーだなって、特に60年代のモデルをギターもベース結構使いました。


巽:結局、借りた後、自分でも2本、ベースを買いましたよ(笑)。全部フェンダー。ギブソンは1本も使ってないです。今回の作品の曲に合った音を弾かないと曲に失礼かなと思って。


阿南:僕、今回、最初にドラムを録音した時に、このアルバムの方向性が見えたんです。ドラム、すっごい広がりのあるいい音だったんです。でも、そのあとにベースを録音する時に、あのたっさんの持ってるギブソンの音じゃ、どうあがいても合わないってことがわかった。ああ、なるほどなあって。その時に、アルバムのイメージに気づいたんですよね。


安部:あれはすごい気づきだったよね。


巽:実際、フェンダーを鳴らしてみて……もちろん、それまでも弾いたことはあったんですけど、改めて「なんだこの豊潤な音は!」って。


阿南:ヴィンテージ機材はこれまでも僕ら使ってきていたんです。『fam fam』でも使っていたし。でも、その頃って、中音域があったかいとか、ハイがキツくないとか、好んでいたのはそういう理由だったんです。でも、今回ヴィンテージの魅力として気づいたのは、音のレンジの広さなんですね。


安部:レンジが広がってもそれに対応できる、各々のスキルが上がったってことなんだと思いますね。中域に逃げなくても大丈夫っていうか、もっと抜けた音にも対応できるっていうか。だから、今はもう必ず自分たちが鳴らしたい機材を全部持っていくようにしていますね。手は抜きたくない。やっぱり聴いてくれているお客さんと一緒に成長したいなって思うんですよ。自分たちのお客さんって、きっと今までだと、例えば『ROCK IN JAPAN』のフェスに行ったことのないような人たちだったんですけど、僕らとかが出るようになって、「あ、行ってみよう」って気になってくれているみたいで。そうやって僕らが開いていくことによって、僕らがこれまでいたところの音楽がもっと活性化していくし、リスナーと一緒にどんどん進出していかないと、いいものはできても、広がらないですよね。それを今回のアルバムを作る前……作っている最中に確信していきました。若い人もどんどん出てきているわけで、そういうことを考えても、音そのものも、僕らの気持ちも広げていかないとって思いますね。


鈴木:広げる……という意味では、例えば僕は今回のアルバムでは「なんかさ」も新しいトライをしている曲なんです。ギターのアウトロとか歌とか絡みとか、曲調全般に、たぶん、これまでの僕らの感じを最も連想しやすい曲ではあるんですけど、実はこれで初めて完全な四つ打ちをやったんですね。勇磨から「上品な四つ打ちをやってくれ」って言われて(笑)。


安部:「カッコいい四つ打ち」ね(笑)。下品な四つ打ちじゃないヤツって注文をスズケンにして。だって、四つ打ちの曲でカッコいい曲ってほとんどないなって。渋谷とか下北の商店街で流れてるような。でも、だからこそ、カッコいい四つ打ちの曲を作りたいって思ったんですよ。こんなに日本的で風が抜けるような清潔感のある四つ打ちの曲もあるんだ、ってことを見せたくて。


鈴木:だから、最初から最後まで完全な四つ打ち。四つ打ちって基本逃げ場がないじゃないですか。フィルもある程度固まってくるし、キックはずっと鳴り続けてて、スネアはバックビートだけだし……ってなると、差をつけるとするならハイハットだけなんですよね。僕らは今まではどちらかというと裏打ちが多かったんですけど、この曲をやってハイハットの重要性を痛感したりしたんです。ハイハットってドラムの中で最も繊細な楽器ですけど、ハイハットを制していくことが、これからグルーヴをバンドとして出していくためには必要だなって思っていたんで、そういう意味ではこの曲に向き合えて本当に良かったなと。


安部:ハイハットを制する者はグルーヴを制する(笑)。


鈴木:ハイハットをどう使いこなせるかで変わってくると思いますね。


安部:それまでやったことないことをやると気づくことって絶対あるからね。


鈴木:実際、これまでタムを2個置いていたのを1個にしたんです。僕自身、ドラムスタイルがこの曲をきっかけに変わったんですよ。


安部:みんなこのアルバムで本当に変わりましたね。マツコ(松島)なんか、僕らガンガン言いすぎて、ほんと、死んでましたよ。


松島皓(以下、松島):いやあ、でも、僕にとっても変化というか発見はすごくあって。「気持ちいい風~」と「白い光」は僕のギターがすごく変わった曲なんです。今までって、俺が大体低い音の単音をミュートで弾いていたんですよ。でも、この曲では阿南がそこを担当していて。「あ、とられたな~」って思ったんですけど、その代わり、俺は阿南が弾きそうなスタイルを自分なりに考えて弾いたりしたんです。


安部:今回のアルバムはどう考えてもマツコが阿南スタイルに感化されてきたなって思える曲が多いよね。「白い光」のギターソロの導入って刻んでるじゃん? あれとか今までだったら音を伸ばしてただろうけどね。阿南を意識したんだろうなって。


松島:普通に弾くといなたくなるっていうか、The Bandみたくなっちゃうんですよ。でも、今回はそこはあえて封印しましたね。キツかったですよ、そういう意味では。持っていたギターも全然使えなくって……。


安部:死んだよね?(笑)


松島:死んだ。しかも気に入っていたギターソロも、例の「海辺の町へ」の歌詞が変わったからカットされちゃったし……(涙目)。


鈴木:まっちゃんのソロって割とフェードアウトしていく感じのが多いんですけど、今回はちゃんと終わっているものが多いんですよ。そこも阿南の影響かもしれないけど、すごく変わりましたね。


安部:正直、まっちゃんは本当に何から何まで信用がなくて(笑)。技術もそうですけど、レコーディング最後のスタジオに機材持たずにやってくるとか、そういう意識からして全然ダメなので、それを今回変えてくれるようなところを僕らは伝えたんです。まあ、まだこれでもバッチリって言える状態じゃなくて、もしかしたら、首チョンパになる可能性もあるんですけど、でも、そのくらい自分たち、メンバー同士でも厳しくやっていかないと、これからバンドが大きくなっていく上でキツくなってくるはずなんです。


ーーええ、これからバンドがもっと大きくなっていくと、敵も増えていくだろうし、もしかしたら理不尽に叩かれたり、誰にでも愛されるバンドという状況を維持していくことは難しくなってくるかもしれない。でも、そこにおもねらずに強靭でタフなバンドになるためには、結局バンドで鳴らされる作品こそをいかに絶対的なものにしていくのか、ということになる。そういう意味で、今作は勇気を持って“普通にいいポップス”という在り方に着地させるバンドとしての第一歩かもしれないですね。


安部:そうなんです。僕ら、社会にフィットしたバンドでありたいんですよ。だから、開かれた作品を作りたかったし、そのためにメンバー全員すごく努力もした。そういうことを考えていくと、ああ、スピッツって本当にすごいバンドなんだなと思ったり。僕らもあのくらいの凄い領域になりたい……でもそれは本当に難しいことだとやればやるほど感じます。けど、今の僕らのようなバンドが、そうなっていかないと、僕らの後の世代……音楽でも映画でも漫画でもなんでもいいけど文化的にもっと活躍してほしい、そのためにぼくらみたいな畑の人達が道を切り開かないといけないと思いました。


ーーでは、多くの人に親しまれる、社会への広がりを持たせる役割としてのポップスというフォーマットをあえて継承していく作業にはもはや窮屈さは感じませんか?


安部:前は思っていましたね。そんなフォルムなんて知らねえよ、どうでもいいじゃんって思っていて。でも、今はルールがある中でいかに自分らしさを出すことに快感を覚えますね。それが一番難しい作業じゃないですか。ボーカルのクセとかを出さずにフラットな言葉で自分らしさをいかに出せるかがとても楽しいですね。


阿南:僕も勇磨と一緒で、その中でどれだけかき回すか? ……を考えていて。“ポップスは正義だ”というのをキャリアと共に考えるようになりましたね。宇多田ヒカルさんとかもそうだし、海外なんてもっと顕著に今はジャズやR&Bの領域でスキルのあることをやっている人たちが面白いじゃないですか。僕らも、だから、こうしてメジャーレーベルから作品を出すことも決めたし、そのためにレンジの広い音のアルバムも作った。そういう意味では今はすごくやりがいあるし楽しんでますね。僕ら、インディーの良さもわかっている。だからこそ、もっと広がりのあるところに行かないといけないなって思うんです。


鈴木:メジャーとインディーの間の両方を行き来できる……というか、どちらの層でも聴いてもらえる存在でありたいですね。


(取材・文=岡村詩野)