2017年F1第10戦イギリスGPは、ルイス・ハミルトンが圧倒的な強さで優勝、一方のライバルであるセバスチャン・ベッテルはタイヤトラブルに泣き7位でフィニッシュしている。ニッポンのF1のご意見番、今宮純氏がイギリスGPを振り返り、その深層に迫る──。
------------------------------
ルイス・ハミルトン、歴史的な大勝利。英国F1レジェンドのジム・クラークに並ぶ4連覇・5勝は、PPから全周回をリード、最速ラップも樹立するパーフェクト・レース。母国で大観衆を魅了したまさに『シルバーストン・ライブ』――。
名勝負が数多く刻まれてきたイギリスGP、今年もそのひとつ。残酷なエンディングが待ちかまえていた。フェラーリ勢が最後にタイヤトラブルに襲われ緊急ピットイン、バルテリ・ボッタスが2位奪還してメルセデス1-2(通算70勝目)。1位セバスチャン・ベッテル177点に1点差としたハミルトン、首位メルセデスは330点に伸ばしてフェラーリを55点リード。第10戦で今シーズンの潮目は変わった。
事前イベント12日の「F1ライブ・ロンドン」をひとり欠席したハミルトン。母国ファンを裏切る行動だと、ゴシップ好きなメディアは騒ぎたてた。ある意味自分で自分にプレッシャーをかけるような行動になったが、メンタルが強い彼は、そのプレッシャーをはねのけて集中していく。
67回目PPを決めた1分26秒600(平均244.891KMH)。すべてのコーナーを攻め抜き、3セクターともベストタイムをそろえるスーパーラップだった。喩えるならばウサイン・ボルトが100mで新記録9秒台前半を出したような1周――。
目視でも今までよりどのコーナーも10~20KMH速く、高いギアのまま、早回しで見ているかのようだった。平均台の上を精確に飛び跳ねるようなラインが何センチか外れたら、とんでもないことになる。マゴッツ~ベケッツ~チャペルだけでなくこの“86秒間”に、彼は全身・全霊・全力を捧げた(と思う)。
「神のご加護を」と最近ハミルトンがインタビューで口にするようになった。デビューしたばかりのころ、やんちゃだったルイスがそんなことを言うようになった。もうすぐ200戦、85年生まれのルイスはベテランの域に入る。
ここではフェラーリの敵はメルセデスではなくレッドブルだった。スタートから器用に動くマックス・フェルスタッペンが、3~4コーナーでベッテルをとらえた。それから“バトル1”開始、ポイントリーダーは何度もラインを変え、コースをはみ出しながら仕掛ける。
でも抜けないベッテルは18周目にピットへ、想定プランより早めだ。当然ソフトでの第2スティントが長くなる。だがフェラーリはこれでのロングランをメルセデスほど、フリー走行で徹底してはいなかった。
フェルスタッペンとの“バトル1”の後に、ボッタスとの“バトル2”に引きずり込まれたベッテル。ニュー・スーパーソフトの相手に抵抗する場面が何度も繰り返され、たびたびコースを外れていた。大丈夫か、デブリや小石、破片などを拾ってしまうのではないか……。
42周目に16コーナーで左前輪がロックアップ。こらえたものの次の周のストウ・コーナーでかわされると、ベッテルのペースは1分34秒台にがくんと落ちた。一方2位をキープするキミ・ライコネンは懸命に1位ハミルトンを追い、14秒以上あったギャップをじわじわ10秒台まで削ってきた。1分31秒台ハイペース、背後に3位ボッタスが迫りセーブするわけにはいかない。
48周目、1分32秒台にやや下がったライコネン。その直後、セクター2で左前輪が“ビッグ・バン”。パンクではなくトレッド剥離状態に見てとれた。ライコネンが緊急ピットインした、そのとき(ほぼ同時に)ベッテルの左前輪に異常事態が。
心配されたパンク症状に陥り、セクター1からピットまで延々スロー走行を強いられ万事休す。たどっていくとスタート後のフェルスタッペンとの“バトル1”が敗退のきっかけ、苦しい後半スティントでボッタスとの“バトル2”がすべてを狂わせた。
メルセデス対フェラーリの総力戦をかきまわしたレッドブル。3戦連続リタイアを断ち切った4位フェルスタッペン、最後尾から抜きに抜いた5位ダニエル・リカルド。名勝負には彼らのような活気ある存在が必ず現れる――。