イギリスGPでは、フェルナンド・アロンソの走りを多くの人々が賞賛していた。それはもちろん、Q1の最後にドライタイヤでアタックするというギャンブルに出て、セッション終了まで残りわずかということで、計測ラップを開始し、トップタイムをマークした会心のアタックだった。
その1分前にピットインしていたストフェル・バンド―ンは、迷った挙句にインターミディエイトを選択していたことを考えると、アロンソの判断はかなり勇気のいる選択だったということになる。
これを「ただのギャンブル」と片付けるのは早計だ。オーストリアGPで、マルク・ジェネに話を聞く機会があった。ジェネはアロンソと同郷のスペイン人であるとともに、アロンソがフェラーリに在籍していたとき、チームメイトとして一緒に仕事した経験がある。
そのジェネがほかのドライバーと比較して、アロンソの特別なドライバーだと言われる理由のひとつに「コクピットにいながら、サーキット全体を俯瞰して見ることができる能力を持っている」ことを挙げた。
このことは、マクラーレン・ホンダの複数のスタッフも認めている。「アロンソほど、トラックポジション(コース上での自分が走っている位置)や天気を気にするドライバーを見たことがない」と。
そこで、オーストリアGPの日曜日、スターティンググリッドでアロンソを観察していると、レースエンジニアのマーク・テンプルと何度も空を見ながら、雲の流れについて話し合っていたのである。
イギリスGPの予選でのアロンソの素晴らしさは、Q1の走りだけではなかった。Q2での戦略的な走りはいかにもアロンソらしいアイディアだった。
というのも、アロンソはすでに30番手降格のペナティを受けて予選をスタートさせており、たとえポールポジションを獲得したとしても、最後尾スタートが事実上、決まっていた。
それでも、もしアロンソがQ3に進出すると、レギュレーション上、アロンソはQ2のベストタイムをマークしたときに装着したタイヤで最後尾からスタートしなければならなかった。つまり、アロンソはQ3に進出することになんのメリットもなかったのである。
それでもマクラーレンの地元のファンのために、チームはガレージにとどまることを良しとせず、アロンソを最後のタイミングで出した。
アロンソは途中、セクター1とセクター2で自己ベストをマークする。このとき、暫定10番手にいたのが、バンドーンだった。つまり、アロンソがトップ10に入ると、自動的にバンドーンがQ2落ちとなり、それはアロンソにとっても、バンドーンにとっても、マクラーレン・ホンダにとっても、まったく意味のない結果に終わることになる。
ところが、チェッカーフラッグを受けたアロンソのタイムは13番手。じつはアロンソは渋滞に引っかかっていたのである。
それでも、アロンソは予選後の会見で「まったく渋滞していなかった」と否定していた。それは、故意にQ2落ちしたことを自ら公言することはファンに対して失礼だと考えたからだろう。しかし、実際にはアロンソの2秒前にはサインツが走行していたことは、予選を見れば明らかだった。
自分の走りでなく、チームメイトの順位、ライバルたちのポジションをも考慮して戦うアロンソ。その千里眼で日曜日はどんなレースを披露してくれるのか、楽しみにしたい。