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旅行業法に抵触? 川崎市教委主催のキャンプ中止…弁護士「問題はなかった」と指摘

2017年07月16日 10:03  弁護士ドットコム

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川崎市教育委員会などでつくる実行委員会が主催する、子ども向けの夏休み国内キャンプ旅行企画が、旅行業法に抵触するおそれがあるとして6月下旬、中止されることが決まった。


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川崎市教育委員会によれば、この企画は20年以上も前から毎年、行われてきた。「営利目的ではなかったが、経済的収入(参加費用)を集める上で、旅行業者として登録する必要があったが、それをしていなかった」ことも旅行業法に抵触する恐れがあるとして、中止を決めたという。


営利目的ではなくても、旅行業者としての登録は必要なのか。観光庁は「参加者を公募してツアーをおこない、対価(参加費)をもらうことは報酬にあたる。実費であっても、報酬だ。黒字だからではなく、赤字であっても対価を取ることは『業』にあたる」と話す。


業であれば、旅行業法に基づき、旅行業者としての登録が必要になるため、川崎市教育委員会がキャンプを中止した判断も妥当となる。しかし、旅行業法に詳しい金子博人弁護士の見解は、観光庁や川崎市の教育委員会とは異なるようだ。金子弁護士に聞いた。


●問題となるのは「何が報酬にあたるのか」

「またか、とがっかりします。子供たちが楽しみにしていたイベントが、『旅行業法にふれるおそれがある』として、突然中止になるケースは、毎年のように起きています。しかし川崎市の件は本来、中止にする必要はなかったと私は考えています。そこで、このような残念なことが繰り返されないよう、旅行業法について解説していきましょう。


まず、『旅行業』の定義規定は、旅行業法2条1項にあり、旅行業とは『報酬』を得て所定の行為をする『事業』と定められています。


問題になるのが、何が『報酬』にあたるか、です。


国土交通省の通達(平成8年4月1日付け)では、「経済的収入を得ていれば報酬』としています。交通費や宿泊費など、イベント参加に必要な実費を徴収している限りは、『経済的収入』は無く、『報酬』ではありません。参加を呼びかける広告費、通信費も含まれているのだとしても、それらが実際の出費である限り、『報酬』ではありません」


ただ、注意が必要な文言もこの通達には含まれているそうだ。


「この通達では、『行為と収入との間に直接的な対価関係がなくとも、相当の関係があれば報酬をえていると認められる』とし、例として、『無料で宿を手配したが、後に割り戻しを旅館から受けていた場合』をあげています。


この例で問題とされるのは、割戻金を主催者が自己のものとした場合です。割戻金があっても、これを参加者に返金したり、参加者の飲み物代などに使えば『報酬』ではありません。一般論として、一括で受け取った参加費用に残金ができた場合でも、飲み物代や通信費などで、使い尽くせば、『報酬』にはなりません。


ところが、内訳を明示せずに『参加費』などの名目で、一括で受け取ると、旅行業の関係者や、旅行法を聞きかじったような人から、『旅行業法違反だ』とクレームがくることが多いようです」


●営利目的ではなくても「業」になるのか?

今回、川崎市教育委員会側は「営利目的ではない」が、中止をしている。教育委員会によれば、根拠となるのは旅行業法施行要領だ。この第2条第1項では、「経済的収入を得ていれば報酬となる」「国、地方公共団体、公的団体又は非営利団体が実施する事業であったとしても、報酬を得て法第2条第1項各号に掲げる行為を行うのであれば旅行業の登録が必要である」などと定められている。なぜ、営利目的ではないのに、中止となったのか。


「前述したように、実費を徴収している限りでは、『経済的収入』に該当しません。そこで本来であれば、中止にする必要はなかったと考えています。


今回のようなトラブルは、度々起こっています。2016年6月には、熊本地震のボランティアを被災地にバスで派遣するNPOの『ボランティアバス』について、NPOが参加費を直接集めるのは、実費であっても旅行業法違反だとして、観光庁が是正を求める通知を出しています。結局、その後、災害半年までは法適用除外することは認められましたが、制約も残されています。


しかし私は、旅行行法や旅行業法施工要領、通達が定める『経済的収入』に、実費は含まれないと考えており、子ども向けのキャンプ旅行やボランティアバスなどを対象にしようとする方針は、いささかやりすぎではないかと考えています。


諸外国の場合、『他の子供達のためにも頑張ります』といって、裁判を提起する例をよく耳にします。本件で、裁判所は、旅行業法違反とはしないと思います。日本の場合、うやむやのまま、『長いものに巻かれろ』となりがちなのは残念なことです」


●「年1回だけなら、旅行業法違反とは言えない」

開催頻度によっても判断は変わるのだろうか。たとえば、年1、2回くらいでは「事業」にはならないのだろうか。


「旅行業とは、『報酬を得て所定の行為をする事業』を言いますが、『事業』とは、『同種の反復継続行為』のことです。年1回程度なら、『反復継続』とはいえないでしょう。従って、たとえ手元に残金が残っても、それが年1回だけなら、旅行業法違反とはなりません。


では年に何回実施したら『反復継続』かですが、これについては、法令も判例もありません。


しかし、不動産の仲介実務では、年に3回程度の仲介を『事業』とする目安にしているようですので、旅行業もそれを参考にしてよいでしょう。となると、毎年、夏季にだけするイベントでも、3回に分けてイベントを組むと、年3回実施したとして『反復継続』という可能性が出てきます。十分、注意してください」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
金子 博人(かねこ・ひろひと)弁護士
「金子博人法律事務所」代表弁護士。国際旅行法学会の会員として、国内、国外の旅行法、ホテル法、航空法、クルージング法関係の法律実務を広く手がけている。国際旅行法学会IFTTA理事。日本空法学会会員。
事務所名:金子博人法律事務所
事務所URL:http://www.kaneko-law-office.jp/