2017年07月15日 10:03 弁護士ドットコム
勤務中に会社のパソコンでしていたネットサーフィンを理由に、会社から損害賠償請求をされそうーー。弁護士ドットコムの法律相談コーナーに、そんな相談が寄せられました。
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相談者は勤務先だった会社(すでに退職)で、就業時間中に会社のパソコンでネットサーフィンをして、サボっていたそうです。その当時は、注意や処分を受けなかったそうですが、退職後、会社が使用していたパソコンを調べたことからサボりが発覚。会社側は、時間を特定して損害賠償請求を検討しているそうです。
インターネットサーフィンをして就業時間中にサボっていた場合、従業員は会社に対して損害賠償責任を負う可能性があるのでしょうか。平山諒弁護士に聞きました。
ーー退職した人が、在職中の行為について損害賠償を請求される可能性はあるのでしょうか
「勤務中のネットサーフィンなどの『サボり』を原因とした懲戒処分などの労働相談に来られる方はいらっしゃいますが、私の経験上だと、特に会社の立場で、こういった処分をできないかという相談に来る方が多いですね。法律実務の観点から見ても、非常に興味深い事案です。
退職後に、在職中の問題行動が原因となって損害賠償請求をされることはあります。私のところに相談に来られた例でも、在職中の横領や背任行為、企業秘密の持ち出しや顧客情報の私的流用が発覚してトラブルになったケースがありました」
ーー問題行動があった場合、裁判ではどういった点がポイントとなりますか
「会社にどのような損害が生じているか、そしてその損害が当該従業員の行動と因果関係があるかどうか、などの点が争点となり、損害賠償責任の有無が決まります」
ーーネットサーフィンをしていた場合、何が争点となるのでしょうか
「在職中のネットサーフィンが発覚したという今回のケースでいえば、実際的に問題となるのは、どのくらいサボっていたか、それによって会社にいかなる損害が出ているかという点でしょう。
そのため、コンピューターの履歴などで、何月何日の何時何分から何時までサボっていたか、などの具体的な情報が特定できないと、『ネットサーフィンでサボっていた』事実の特定が難しく、損害賠償追及の話は進みにくいでしょう。
ーー相談者のケースでは、すでに会社側は時間を特定しているようです
「すると、会社にどのような損害が出ていたか、という点が問題になります。
会社側に損害が出ていた事例として考えられるのは、たとえば、深夜残業の必要があるからと言って会社に残り残業代を得ていたのに、実際にはネットサーフィンばかりやって仕事はしていなかったケースでしょう。
要するに、仕事の必要があると言って残業命令を取り付けていたのに、実際には働いていなかったわけです。このような場合であれば、会社(上司)をだまして残業代を得ていたという位置づけになるため、会社にとって必要が無いのに支払ってしまった残業代分の「損害が出た」ということはできそうです。
しかし、仕事中に少しだけ気分転換などでネットを使っていたというような程度の話であれば、会社に損害が出たとまでは言えないでしょう。仕事中にサボるのがいいこととは思えませんが、賠償問題にまで発展するということはまれでしょう」
ーー程度問題ということなのでしょうか
「要するに、理論上は賠償問題に発展する可能性は存在します。しかし、実務的な感覚でいえば、どこまでネットサーフィンばかりしていたのか特定が難しいケースのほうが多いでしょう。仮に多少、業務中にサボっていたとしても、その部分を時間給などで割り出して損害賠償請求することは、請求する会社側の目で見ると非常にハードルが高いでしょうね」
ーー現役の従業員の場合、どうなりますか
「懲戒や減給などの処分の対象になることは十分あり得ます。もちろん程度問題で、『仕事の移動中にスマホで少しインターネットを見た』、『仕事中にコーヒーを飲みながら少しスマホを触った』くらいでは、減給、懲戒解雇などの重い処分にするのは、明らかに違法と言っていいでしょう。
一方で、懲戒処分が有効となるケースもありえます。例えば、仕事中にずっとスマホをしていて仕事が手につかず、取引先に迷惑をかけて会社に損害が出たような場合です。また、何度注意や指導をしても態度が改善されないとか、明らかに必要がない残業の申請をし、残業中ずっとネットサーフィンをして仕事をしないといった特殊な場合ですね」
ーー会社側からすると、損害賠償請求や懲戒処分にはハードルがあるのですね
「ハードルはありますが、損害賠償請求や懲戒処分として、あり得ないという話ではありません。スマホやタブレットが普及して、インターネットが身近になっている時代です。便利なものでもありますが、付き合い方には気を付けましょう。悪気なくとっている行動が、思わぬトラブルになる可能性もあります。
職場でSNSにアプロードした写真に企業秘密が含まれていて情報漏えいにつながるとか、職場のパソコンで海外のサイトにアクセスしたらコンピュータウイルスに感染してパソコンが壊れるなど、取り返しのつかない損害が発生する危険もありますから、これは従業員だけでなく会社としても対策を検討することが必要かもしれませんね。
ところで、もし私の事務所のスタッフが仕事中にネットサーフィンをしていたら、少しくらいは目をつぶりますが、『きっと暇になっているサインだろうなあ』と思って、積極的に仕事を割り振ることで、サボる暇を与えないようにしています。しかし、考えてみると私自身も仕事中に気になって広島カープの試合速報をネットで見ている時に、スタッフから仕事の催促を受けて焦る事もあるので、あまり偉そうなことは言わないことにしています」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
平山 諒(ひらやま・りょう)弁護士
中央大学法学部、一橋大学法科大学院卒。登録以来多数の訴訟案件を取り扱う。大小さまざまな規模の事業体の顧問業務への従事経験を持ち、労働問題を中心に企業経営のパートナーとして活躍。 府中ピース・ベル法律事務所代表。®労務調査士。最近は忙しい時ほどネットサーフィンがしたくなって仕方ないので、少し困っている。
事務所名:府中ピース・ベル法律事務所
事務所URL:http://fpb.tokyo/