トップへ

スーパーGT:“ベントレー・ボーイ”来日の理由と、GT300で戦う欧州GT3カー特有の難しさ

2017年07月14日 20:52  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

スーパーGT富士メーカーテストでEIcars BENTLEY GT3を前に笑顔をみせるスティーブン・ケインとエンジニア
7月12~13日に、富士スピードウェイで行われたスーパーGTのタイヤメーカーテスト。ダンロップとヨコハマを履く13台が参加して周回を重ねたが、今季から参戦を開始したEIcars BENTLEY TTOのピットに、見慣れぬドライバーがいた。ベントレーのファクトリードライバー=“ベントレー・ボーイズ”であるイギリス人ドライバーのスティーブン・ケインだ。

 今季、GT300クラスに初めて登場したベントレー・コンチネンタルGT3は、エレガントなボディをWRC世界ラリー選手権でもおなじみクリスチャン・ロリオーがレーシングカー化したマシン。4リッターV8エンジンを押し込み、大きなボディに似合わぬ機動性をみせるマシンはスーパーGTでも大きな注目を集めている存在だ。愛知でベントレーのディーラーを展開するアイカーズがチームの母体となっており、ピット設備等も初年度のチームとは思えぬ存在感を放っている。

 そんなEIcars BENTLEY TTOだが、井出有治/阪口良平という経験豊富なドライバーコンビをもってしても、これまでの3戦での最高位は第2戦富士での16位。ヨーロッパではブランパンGTシリーズをはじめ上位を争う存在ながら、思うような成績は残せていないのが現状だ。

「ベントレーにしてみると、ヨーロッパでは他にもGT300で走っているクルマがいて、同じような順位にいるはずなのに、こちらでは向こうに比べてタイム差が大きいじゃないかと。そこで、ベントレー側からエンジニアが来ることになったんです」というのは、EIcars BENTLEY TTOの寺本浩之監督だ。

 本国から派遣されたエンジニアは、6月30~7月1日に鈴鹿サーキットで行われた公式テストに来日。そこで、ヨーロッパで走っているコンチネンタルGT3とのセッティングの方向性などをチェックした。しかし、検証した結果セッティングの方向は間違っておらず、クルマにも問題は見つからなかった。そこで、さらなる検証を進めるべく富士テストに派遣されてきたのがケインというわけだ。

■「チームはもっと良くなるはず」と日本初ドライブのケイン
 富士スピードウェイで2日間のテストを終えた後、ケインに話を聞くと「日本は初めてだよ。とても美しい国だよね!」と笑顔で語ってくれた。

 ケインは2001年にマクラーレン・オートスポーツアワードを受賞し、フォーミュラでステップアップした後、BTCCイギリスツーリングカー選手権やアメリカン・ル・マン等ツーリングカー、スポーツカーで豊富な経験をもつ。

「いつか日本で走ってみたいとは思っていたんだけど、モータースポーツの面でもとてもファンタスティックだ。富士スピードウェイも素晴らしいトラックだし、チームもいい雰囲気だね。ドライブを楽しんでいるよ」とケインは言う。

 スーパーGTとブランパンGTシリーズの大きな違いはやはりタイヤだ。ケインにその点について聞くと「タイヤの性格はずいぶん違うよね」と語った。

「でも、ヨコハマはオースティンやニュルブルクリンクでも履いたことがあるんだ。ヨコハマをまたドライブできて嬉しいよ。グリップは高いけれど、それはトラックのせいもあると思う。いつもと違うコースと高いグリップのタイヤで走るのは楽しかったよ」

 ちなみに、ケインに「スーパーGTのレース参戦は興味があるか」という質問をすると、「今日のテストは楽しかったけど、レースについては将来にならないと分からないね」という返事が返ってきた。

「今回は新しいチームと一緒に開発を進めるために来たんだけど、チームは素晴らしい仕事をしていたし、これからもっと良くなるはずだよ」

■ライバルが踏んできたステップを、ベントレーも踏むために
 2日間に渡って井出、阪口とともにEIcars BENTLEY GT3のステアリングを握ったケインだが、寺本監督によれば「彼に乗ってもらってセットアップもしてきましたが、それなりに良くはなっていくんだけど、ライバルはもっと速い……というところ(苦笑)」とまだまだ取り組まなければいけないものは多い様子だ。このあたりは、欧州車のGT3カーでスーパーGTを戦う難しさが見え隠れする。

「ヨーロッパではスプリントもあるにしろ、やはり耐久がベースで、それに合わせているんです。そのベースをもとに他のメーカーも同様に日本にもってきていますが、スーパーGTはドライバー交代こそあるにしろ、タイヤ交換もするし、ひとりずつのスプリントなんですよね」と長年GT500を含め、スーパーGTを戦ってきた経歴をもつ寺本監督。

「そういったレースに対して、他のメーカーも『こんなパーツが必要だよね』とホモロゲーションを取ったり、対策をしてきている。ただ、ベントレーの場合は今年初めてなので、まだそこには至っていないんです」

 他の多くの欧州メーカーのGT3カーでも、これまでGT300で戦うにあたり、多くの問題点が起きていた。ヨーロッパでは履かない超ハイグリップの専用タイヤをはじめ、ピットでの停止時間が定められていないなかで、迅速にドライバー交代をする工夫といったスーパーGT特有のものもあれば、高温多湿な日本でレースをするにあたり、気温や湿度の問題で本来のパフォーマンスが出せないといった問題は、多くのチームを悩ませてきた。

 現在GT300を戦っている多くのメーカーのGT3カーは“2~3世代め”にあたり、ヨーロッパのメーカーの車両も日本を含むアジアで販売するための対策が数多く採られている。ただ、ベントレーはこのコンチネンタルGT3が初めてのGT3カーで、そろそろ代替わりが噂されている。

「昔のJGTCの頃のように、パーツを作ってどんどん付けていけるのであればこちらでやっていますが、レギュレーションとしてそれはできないレースですから。まず彼ら(ベントレー/Mスポーツ)に状況を理解してもらおうということですね。他のチームの皆さんが去年、一昨年と踏んできたステップを、我々もこれから踏んでいかなければいけないんだろうな、ということです」と寺本監督。

 今回のベントレーによるエンジニア/ワークスドライバー派遣によって、チームにとってもベントレー/Mスポーツにとっても、得るものは大きかったはずだ。そして、逆に言えばまだまだ伸びしろはあるということ。今季後半戦のEIcars BENTLEY GT3、そして現在開発が噂されているベントレーの新GT3カーへのフィードバックに期待したいところだ。