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「カーズ/クロスロード」原点に立ち返ってマックィーンの岐路を描く プロデューサーインタビュー

2017年07月14日 14:24  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「カーズ/クロスロード」原点に立ち返ってマックィーンの岐路を描く プロデューサーインタビュー
「カーズ」シリーズの第3作『カーズ/クロスロード』が7月15日に全国公開を迎える。2006年に誕生した『カーズ』は、世界を股にかけるスパイアクションの『カーズ2』や、レッカー車のメーターが活躍するコミカルなスピンオフなど、多彩なシリーズが作られてきた。最新作ではベテランレーサーになったライトニング・マックィーンが、人生の岐路に直面する姿を描き出した。
アニメ!アニメ!ではピクサーのアンドレア・ウォーレン プロデューサーにインタビューを行った。マックィーンの挫折を描いた理由や、新たにチャレンジした表現など、本作の様々な魅力について話を伺った。
[取材・構成=高橋克則]

■ マックィーンの岐路をどう描いたのか?

――『カーズ/クロスロード』はベテランレーサーになったマックィーンの心境が丁寧に描かれていて、シリーズ第1作の続編であることを強く意識させる作品になっています。本作が生まれた経緯について教えてください。

アンドレア・ウォーレン プロデューサー(以下、ウォーレン)
『カーズ』の原点を意識した理由はマックィーンの物語に立ち返りたいという気持ちがあったからです。私たちはマックィーンをアスリートとして描いています。アスリートにとっての第二の人生は普通の人より早く訪れるものです。人生の岐路を迎えたマックィーンに立ちはだかる試練とは一体何なのか。レース中に大事故を起こした彼がどのような道を選ぶのか。その問いに興味を抱いたことが作品を生み出すきっかけになりました。「クロスロード」という邦題は、マックィーンが置かれた状況を示した良いタイトルになったと思っています。

――マックィーンがクラッシュする場面はポスターにも使われていますが、非常にショッキングな仕上がりですね。

ウォーレン
私はマックィーンが可哀相で今でもポスターを直視できないんですよ(笑)。クラッシュのシーンでは彼を無機質な車として表現するようにしました。生き生きとしたキャラクターではなく単なる金属の塊のように見せるため、フロントガラスにある目も描かないことにしました。そんな残酷な描写にしたのはマックィーンをアンダードッグ、勝ち目のないキャラクターに変えるためです。
『カーズ』を観た人ならマックィーンが非常に優れたレーサーであることはすでに知っています。もし劇中で起こるクラッシュがちょっとしたアクシデントであれば、彼は難なく乗り越えてしまうでしょう。そんなマックィーンに挫折を経験させるためには、観客にショックを与えるほどのシーンが必要だったんです。それは真の「クロスロード」となる瞬間を生み出すために不可欠なポイントでした。

――新世代ルーキーのジャクソン・ストームもマックィーンを脅かすキャラクターとして描かれています。

ウォーレン
そうですね。ベテランになったマックィーンがどんな車たちと闘わなければならないのか、その象徴がストームなんです。彼は圧倒的な速さを誇るだけではなく、デザイン面でもマックィーンにプレッシャーを与える存在です。ストームは若さと力強さに満ちたフォルムを目指して作り上げていきました。二人を横並びにすると「マックィーンって古くない?」と感じる人も多いのではないでしょうか(笑)。

――女性トレーナーのクルーズ・ラミレスはいかがですか?

ウォーレン
彼女はマックィーンのカムバックを支えるために全力でサポートするという役柄です。でも実はストームと同世代の車で、彼と同じようにマックィーンに焦りを感じさせるキャラクターでもあります。衰えを感じているマックィーンに「子供のころからファンでした」と言ってしまったり、特訓メニューを「シニアプロジェクト」つまり「おじいちゃんプロジェクト」と名付けたりと、年齢を意識させるような発言をするんですよ。ストームがマックィーンを直接的に追い詰めるのに対して、クルーズは間接的にメンタルを攻めてくるタイプですね。彼女自身にはまったく悪気がないところが憎めないのですが(笑)。ただクルーズは大きな力を持っていますし、物語においても非常に重要なキャラクターです。マックィーンと同じ時間を過ごすことで、彼女にも変化が生まれてきます。

■ 『カーズ/クロスロード』は“応援”の物語

――第1作の公開から10年が経ちました。ピクサーの3DCGにはどのような変化がありましたか?

ウォーレン
テクノロジーの進歩によって映画のルックは大きく変わりましたね。CG特有のツルツルとしたものではなくリアルな世界を描けるようになり、作品への没入度はさらに増したと感じています。最大のチャレンジは泥の表現でした。これまで水や土を描いたことはありましたが、その中間である泥は初めてだったんです。泥を本物らしく見せるため、実際に泥を混ぜたり、泥のレース映像を観たりと、研究を重ねてザラザラとした独特の質感を作り上げました。その成果は車をぶつけ合うデモリッション・ダービーのシーンに結びついています。派手に壊れる車のボディはもちろん、レース場を飛び交う泥にも注目してほしいですね。

――物語の後半ではマックィーンが大きな決断をします。彼の選択は企画段階から決まっていたのでしょうか?

ウォーレン
いえ、最初から結末を決めていたわけではありません。私が映画作りのプロセスの中で、作品の全体像が少しずつ見えてくるときが一番好きなんですよ。観客の心に響く映画を作るための物差しになるのは自分自身です。どうすれば私たちの心に響く作品になるのかを第一に考えていたため、エンディングにたどり着くまでに多くの時間がかかりました。
結末の手がかりとなったのは、第1作でマックィーンを導いたドック・ハドソンです。声優を務めていたポール・ニューマンが亡くなったため、本作ではドックもすでに他界しています。ベテランレーサーとして成長を遂げたマックィーンですが、ドックの不在が心の喪失を埋められない原因になっています。そんな彼がドックの過去を知ることによって、新たな道が拓けるというストーリーが形づくられていきました。

――マックィーンがドックのレース映像を収めたフィルムを観るシーンは印象的でした。

ウォーレン
私も大好きなシーンです。ドックがレーサーとして活躍していた姿を観たり、当時を知る人々とふれ合うことで、マックィーンは多くの気付きを得ます。私たちに置き換えれば、おじいちゃんの青春時代を知るような感覚なのでしょうか(笑)。最終的に『カーズ/クロスロード』は人を応援することについての物語になりました。互いに支え合ったり、導き合ったりすることは、誰もが経験のあることで、私たちはその恩恵を受けて生きています。作品のテーマとしてこれ以上相応しいものはありません。

――ピクサー作品ではキャラクターが映画や映像を観るシーンがしばしば登場します。それはなぜですか?

ウォーレン
今回のシーンについては、ドックのフィルムをマックィーンが観る様子を描けば、回想を使わずに現在進行形のまま過去のレースを見せられるという利点があったからです。映像を観るキャラクターがよく登場するのは、出来事を直接的に描くのではなく、それに心を奪われているキャラを通して見せた方が効果的だからかもしれませんね。映像に感情移入しているキャラクターを観ると、私たちの心もなぜか動かされてしまうんですよ。

『カーズ/クロスロード』
7月15日(土)公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
監督:ブライアン・フィー
製作総指揮:ジョン・ラセター

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