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新妻聖子×さかいゆうが語る、“ポップス”への挑戦とキャリアの重ね方「メラメラ闘志を燃やしてる」

2017年07月12日 18:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 新妻聖子がニューシングル『アライブ/天地(あめつち)の声』をリリースする。


 「アライブ」はシンガーソングライターさかいゆうの全面プロデュースによる楽曲。“alive(生きている現状)”と“arrive(到着点、目指す先)”のふたつの意味を込めたという同曲は「“今”という瞬間を幸せに生きてほしい」という想いが伝わるメッセージソング。ソウルミュージックのテイストを感じさせる洗練されたサウンド、ポップな手触りのメロディを含め、ミュージカルを中心に活動してきた新妻のイメージを大きく広げる楽曲と言えるだろう。


 今回、リアルサウンドでは、新妻聖子とさかいゆうの対談インタビューを企画。「アライブ」の制作をフックにしながら、両者の出会い、歌に対するスタンス、今後のビジョンなどについて訊いた。(森朋之)


■「『ピーンと突き抜ける声だね』と声をかけてもらった」(新妻聖子)


ーー新妻さん、さかいさんの出会いから教えてもらえますか?


新妻聖子(以下、新妻):最初は私が一方的に知ってたんです。ある日、深夜のテレビを見ていたら、さかいゆうさんが弾き語りで「君と僕の挽歌」を歌っていて、「すごい!」と感動しました。「この歌を生で聴ける機会はないかな?」と思って検索したら、ちょうどいいタイミングでライブがあったから、すぐにチケットを買ったんですよね。生の歌もやっぱりすごくて、ことあるごとに「さかいゆうって知ってる? すごくいいよ」って宣伝してたんですよね、勝手に(笑)。


さかいゆう(以下、さかい):ありがとうございます(笑)。


新妻:「いつかご一緒できたらいいな」と思っていたら、去年の夏に音楽番組(『2016 FNSうたの夏まつり~海の日スペシャル~』/フジテレビ系)で共演させていただく機会がありました。


さかい:山下達郎さんの「RIDE ON TIME」を、水樹奈々さんも一緒に3人で歌いました。


新妻:私は嬉しくてひとりで小躍りしてたんですけど(笑)、そのときにさかいさんが「おもしろい声だよね」って話しかけてくれて。


さかい:おもしろい声って(笑)。そんなにザックリしてた?


新妻:「ピーンと突き抜ける声だね」って言ってましたね。高い成分が多いんだけど、スッと耳に刺さってくるねって。


さかい:セリーヌ・ディオン系というか、スケールが大きな歌い方だなと思ったんですよね。ミュージカル歌手として活動しているのは、特技を最大限に活かしていると思いました。


新妻:ありがとうございます。セリーヌ・ディオンさんは私にとって、ワン&オンリーのアイドルなんですよ。『タイタニック』の主題歌を聴いて「私もこういう人になる!」と決めたので。


さかい:そうなんだ(笑)。セリーヌの歌って“声帯学”みたいなものを感じるんですよ。「この部分をこう鳴らしたら、こういう音が出る」っていう。マライア・キャリーは生まれもった資質で歌ってる感じがするけど、セリーヌはもっと理論的というか。セリーヌって、レコーディング中は手話で会話するらしいですよ。しゃべると声のクオリティが変わっちゃうからって。ストイックというのもあるだろうけど、ある意味潔癖症なんだろうね。


新妻:そういうところも好きなんですよ。数年前にラスベガスでライブを観たんですけど、あの時代の歌姫が軒並み全盛期のクオリティを損なっているなか、彼女だけはむしろ上がっているんです。あの年齢、出産を経てもあれほどの歌が歌えるのはすごいなと。


ーー新妻さんも自分のボーカルを理論的に捉えるほうですか?


新妻:14~15年くらいミュージカルで歌い続けるなかで、自分なりのメソッドを作り上げてきたんですよね。ミュージカルって、特殊な環境で歌わないといけないんですよ。傾斜を駆け上がりながら歌うとか、泣き叫びながら歌うとか。どんな状況でもピッチは正確じゃないといけないし、セリフと同じように歌詞を届けないといけない。ブリッジしながら歌ったり、人間じゃない役もあるわけで、職人的技術がないといろんな役を演じられないんです。私も潔癖なところがあるし、いろんな状況で歌うことをがむしゃらにコツコツやってきたことで、いまのスタイルができたんだと思いますね。


■「ポップスは1対1」(さかいゆう)


ーーでは、さかいさんがプロデュースした「アライブ」についても訊かせてください。作詞・作曲もさかいさんが手がけていますが、どんな曲をイメージしていたんですか?


さかい:いい意味で“スルメ曲”になったらいいなと思っていましたね。新妻さんはミュージカル歌手としてはオーケストラと一緒にスケールの大きい曲を歌うことも多いだろうし、そういうシングルも必要だと思うんだけど、僕が作るのはそういうものではないなって。ライブ会場の大きさでいうと、東京ドームではなくて、ひとりひとりの顔がギリギリ見えるホールくらいというか。


新妻:デモはさかいさんが歌ってくれてたんですけど、フランキー・ヴァリ並みのハイトーンで、女性のキーで歌っていて。最初は「さかいさんの新曲だ!」って楽しみながら聴いてたんですが、レコーディングまでの時間もそんなになかったし、速攻でメロディを覚えましたね。


ーーレコーディングはどうでした?


さかい:さっきのライブ会場の大きさの話でいうと、東京ドームと小さなジャズクラブでは、いい演奏の質が違うじゃないですか。ドラムがいちばんわかりやすいんだけど、ドームでは「バーン!」と音が飛んでいくような叩き方ができないといけない。でも、ジャズクラブで同じようにやったら、「シンバルがうるさい」ということになる。新妻さんが最初にこの曲を歌ったときも、同じような現象が起きてたんですよね。歌が上手過ぎたし、表現力もあり過ぎて、トゥーマッチだったというか。僕としては何度も聴いてもらえる曲にしたかったし、そのためにはこの歌詞とメロディに合った歌い方をしてほしかったから、新妻聖子が持っているテクニックをいったん置いて、素の新妻聖子で歌ってもらったんです。具体的に言うと、歌詞を全部カタカナで書いて、それを棒読みしてもらいました。


新妻:おもしろい経験でした。一度歌ってブースから戻ってきたら、さかいさんが歌詞を全部カタカナで書いていて。最初、遊んでるのかと思ったんですよ。もう飽きちゃったのかなって。


さかい:違うよ(笑)。カタカナで歌うっていうのは、大瀧詠一さんがやってた方法なんだよね。


新妻:つまり「歌詞の内容を表現しないで、音としてアウトプットしてみて」というサジェスチョンだったんですけど、自分のなかの感情のスイッチを完全にオフにして歌ったら、本当に棒読みみたいになっちゃって(笑)。


さかい:(笑)。でも、3~4回歌ったら、いいテイクが録れたんですよ。売れるポップスって、歌詞とサウンドと歌がフィットしてるんです。そういう曲は安心して楽しめるじゃないですか。人ってわけのわからないもの、異物感があるものには手を出さないから。そこは大事にしましたね、今回も。


新妻:レコーディングが進むにつれて声が変わっていくのが自分でもわかったし、最初のテイクとは全然違っていて。ミュージカルは大勢のお客さんに向けて表現するから、それに慣れていたんですよね。今回の場合は、2階のいちばん奥の席まで届かせるような姿勢ではなくて……。


さかい:ポップスは(リスナーと)1対1だからね。“あなた”って歌えば親近感も生まれるし。


新妻:そのアドバイスをもらってから、自分の歌がさらに変わりました。それはすごく楽しかったです。いままでにも同じようなことを言われたことがあったんだけど、そのときはまったく耳に止まらなくて(笑)。


さかい:新妻さんは自分に自信を持っていらっしゃる方なので、「何を言われても染まらない」と自分で思っているところがあるんでしょうね。それでいいというか、こっちが言うことに完全に染まられても困るんだけど(笑)。


新妻:私は海外育ちのせいもあって、回りくどい言い方が苦手なんですよ。「作品が良くなれば過程はどうでもいい」というタイプだし、ハッキリ言ってほしくて。さかいさんは歯に衣着せぬ言い方をしてくれるから、すごくやりやすかったです。


さかい:……回りくどく言ってたつもりなんだけどね(笑)。まあ、俺自身が「何回も聴きたい」と思える曲になったから、それでいいです。


新妻:良かった。テイクのセレクトも全部さかいさんにお願いしたし、本当に“Produced by さかいゆう”という感じなんですよ。レコーディング中は何がどうなってるのか半分わかってなかったんですけど(笑)、根本にリスペクトがあったし、「あとはお任せします」という感じで。自分でディレクションしたら違う感じになっていただろうし、さかいクオリティの歌になっていると思いますね。


ーー歌詞のテーマについては?


さかい:みんなに当てはまるような歌詞にしたいと思ってましたね。テーマとしては……生きているといろんなことを求めるじゃないですか。「25歳の頃がいちばん良かった」と思うこともあるだろうし。でも、結局はいまの場所だったり、その瞬間をハッピーだと感じられるのがいちばん合理的じゃないかなって。


ーー普遍的なテーマですよね、それは。


さかい:そうですね。俺は基本的に、自分を励ますためだったり、自分の恋愛を肯定したり、否定するために歌詞を書いてるというか。職業作家みたいな感じではなくて、私小説と自伝の間くらいの歌詞が多いんですよね。「アライブ」もそうで、すごく自分が出ているなって思います。もちろんコンセプトに合わないところ書き直しましたけど、9割6分くらいはそのままですね。


新妻:すごくポジティブなエナジーに溢れているんですよね、歌詞もメロディも。私、ミュージカルでは不幸な役をやらせてもらうことが多くて、いつも恨みつらみばかりを歌っているんですけど(笑)、会う人には「明るいですね」って言われるしーー本当はネクラな部分もありますがーー明るい曲も歌いたいと思っていたので、「アライブ」みたいな曲を作っていただいたのはすごく嬉しくて。あと、さかいさんとは同世代だし、30代半ばになって、アラフォーに向かっていく世代として、「わかる!」と共感できる部分も多いんですよ、この歌は。がむしゃらに20代を過ごしてきて、歌手活動を初めて15年くらいが経って、次の15年をどうするかを考え始めて。それなりにもがきながら生きてきたからこそ、いまの自分の生き様やスタンスがあるし、そのなかで出会った人もたくさんいて。いまは「生きてるだけで丸儲けだな」と思うし、この曲の歌詞もすごく刺さってくるんですよね。


ーー先に進んでいく力も与えてくれる曲ですよね。


新妻:そうですね。私の周りは主婦やお子さんを育てている女性も多いし、Facebookを見ていても、キャリアに対してメラメラ闘志を燃やしているのは私くらいなんです。「私、青くてウケるな」って思うんだけど(笑)、そんな自分にもフィットする歌詞を書いてくださったなと思っています。


さかい:“生きている”のアライブ(alive)と“到達する”というアライブ(arrive)の2つの意味がありますからね。


■「技を磨いて得た場所であれば、自信を持ってやればいい」(新妻聖子)


ーーふだんは違うフィールドで活動している新妻さん、さかいさんが深いところでつながり合って、「アライブ」が生まれて。本当に意義深いコラボレーションだと思います。


新妻:私は高まる一方ですね。もともと子供の頃からミュージカルに特別憧れていたわけではなくて、ポップスが好きで「歌手になりたい」と思っていたんですよ。それがいつの間にかミュージカルの世界にいて、そこでがむしゃらにがんばってきて、ここでようやくこっち(ポップス)にもチャレンジできるようになって。


さかい:トントン拍子だ。


新妻:全然ですよ(笑)。ウサギとカメだったら絶対カメ。しかも遅いカメなので。ひとつ誇れるとしたら、しぶとさでしょうね。オーディションに落ち続けて、周りの人たちに「もう辞めたら?」って言われていたときも「いやだ! 歌手になるんだ!」ってダダをこねてましたから(笑)。


さかい:“辞めない”っていう才能もあるからね。俺も下北沢のライブハウスのオーディションに2回落ちてるんだけど、「いつか見返してやる」って思ってたから。(笑)


新妻:そうなんですね(笑)。


さかい:大好きなライブハウスだし、その後、よくライブをやらせてもらうようになったんだけど、スタッフに「昔、俺を落としたよな」ってチクチク言ったりして(笑)。オーディションを落ちたときに「自分には才能がないんだ」と思っていたら、(音楽を)辞めていたと思うんですよ。俺がそのとき思ったのは「あいつらに見る目がないんだ」ですから。そういうヤツじゃないと残れないんですよ。


新妻:私も「まだ時代が新妻聖子に追いついてない」と思ってました(笑)。


さかい:トントン拍子に18才くらいでデビューできる人はそのままでいいけどまあ、そういう人にはまた違う挫折があると思うけどね。そうじゃない場合は、「俺には才能がある」って自分だけは信用してあげないと。周りの人に「あいつ、何やってんだ」って言われるのはまた別の話だし、(音楽活動が思うように進まないことを)ちょっと人のせいにするくらいじゃないと、孤独に耐えられないから。


新妻:そうそう。繊細さゆえ、なんですよね。


さかい:傷ついてはいるからね。その傷を気にし続けるのではなくて、「それはそれとして、乾杯しますか!」ってなれるかどうかだから。


ーー新妻さんも、自分を信じる力は強いと思いますか?


新妻:そうかもしれないですね。私の場合は、育った環境が関係していると思うんですよ。英語も喋れないのに小さい頃にインターナショナルスクールに入れられたんですけど、インド、アメリカ、イギリス、オーストラリア……本当にいろんな国の子がいて、みんな違うんです。日本人の新妻聖子は私ひとりで、そのジャンルでは常にNO.1。そこで「自分は自分である」ということを知ったし、揺るぎないものになったんですよね。


さかい:クイーン発言が出ましたね(笑)。


新妻:(笑)。みんなクイーンで、みんなキングなんですよ。自分である以上、誰も自分を越せないと思ってやってるので。ミュージカルって、同じ役を何人かで分けることが多いんですけど、他の女優さんの舞台は見ないですから。自分にフォーカスして、技を磨いて得た場所であれば、自信を持ってやればいいだけなので。


ーーさかいさんと新妻さん、考え方が似てるのでは?


さかい:30過ぎて音楽をやったりするのって、自分のなかでモチベーションが必要ですからね。あとね、正直なだけですよ。根がマジメですから、思ったことは全部言っちゃうんですよね。


ーー「アライブ」をきっかけにして、ポップシンガーとしての新妻さんの活動も増えそうですね。


新妻 そうですね。自分が歩んできた道と自分のスタイルが180度転覆してしまうのは違うと思うんですけど、ミュージカルというフィルターゆえに新妻聖子を敬遠していたリスナーの方が、「アライブ」をきっかけに「これ、いい曲だな。新妻聖子が歌ってるのか。ちょっとライブ行ってみようかな」と思ってくれたらなと。私のザックリとした目標は、いい歌を歌い続けて、より多くの方に長く楽しんでもらうことなんです。今回の曲で新しいリスナーの方々と出会えるのであれば、すごく嬉しいですね。音楽の方向性に関しては、ひとつに決めてもしょうがないと思うんですよ。出会いを大事にしながら、ひとつひとつの歌を歌わせていただける場所で、丁寧にやっていくなかで、広がっていけばいいなと。


さかい:いまのコメントを4文字に集約すると“売れたい”ですね(笑)。


新妻:そうですね(笑)。まだ“売れた”という認識がないので、1日も早く売れたいです(笑)。


さかい:新妻さんはそれを笑顔で言えるんだから、大丈夫ですよ(笑)。自分で言うのもアレなんですけど、「アライブ」はいい曲になったし、嫌いな人はいないと思うんです。この曲をポップスの入り口にしてもらって、幅を広げてほしいなって。一方で、もっとミュージカルに寄った曲があってもいいだろうし。


新妻:今回のシングルに収録している「天地(あめつち)の声」がまさに“ザ・ミュージカル”な曲なんですよ。だからちょうどいいバランスなんですよね。


さかい:そうだね。でも「アライブ」をライブで歌うときは、ミュージカル調になるんじゃない?


新妻:いえ、そこは“さかいメソッド”で歌います。設定を決められたら、しっかり守るほうなので(笑)。


(取材・文=森朋之)