2017年07月11日 17:33 弁護士ドットコム
2008年、観光バス運転手の男性(当時42)=長野市=がバス運転中に脳出血して死亡したのは、長時間の拘束などの過重労働による過労死だとして、男性の妻が国に対して遺族補償の不支給処分取り消しを求めた訴訟の控訴審判決が7月10日、東京高裁であった。後藤博裁判長は業務起因性を認めた一審・長野地裁判決を取り消し、請求を棄却した。
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原告側代理人弁護士によると、男性は観光バス運転手として約14年間の経験があり、亡くなった当時の会社には2008年3月から勤務していた。2泊3日の観光旅行運転中の8月19日に倒れて脳出血を発症し、11月30日に亡くなった。2008年7月15日~8月8日の25日間で、休日は2日のみ。拘束時間は1日平均約14時間で、走行距離は1日平均約450キロ。午前5時前の早朝勤務は5日、午後10時過ぎの深夜勤務は計11回あり、そのうち9回宿泊した。
一審判決は、労働時間について、労基署長の主張の通り、労災認定基準の時間外労働時間は満たさないと判断したが、不規則な勤務や、深夜勤務及び精神的緊張を伴う業務に該当することから、過重業務であると判断した。
高裁判決は、男性の業務の負荷の程度について、発症前1か月間の時間外労働時間が45時間40分であり、発症前5か月間の平均も1か月あたり約39時間55分であることから、「業務と発症の関連性が強いと評価はできない」と判断した。
また、労働時間以外の負荷要因については、
・業務の予定が事前に知らされており、急な変更はなかった
・深夜時間帯にかかる勤務のほとんどは、勤務終了から次の勤務開始までに8時間以上の休息可能な時間があった
・観光バス運転手として約14年間の経験があり、不規則な勤務が原因で睡眠障害などを起こして体調を崩していたといった事情がない
・拘束時間は長いが、乗客の観光や食事などに伴う空き時間があり、空き時間は休憩時間として自由に過ごしてよかった
ことから、「過重な身体的精神的負荷があったとは認められない」と結論づけた。
男性の妻と代理人弁護士は判決後、霞が関の司法記者クラブで記者会見を開き、「極めて残念で不当な判決だ」と話した。
労基署側は労働時間について、ハンドルを握って走行している時間のみ認め、乗客のトイレや観光のために待機している時間は労働時間として算入していなかった。松村文夫弁護士は「休憩時間と言われる中の実態からすれば、労働時間だと認めるべきだと主張してきた。しかし裁判所は空き時間の乗客への対応は、例外的なことに過ぎないと切り離した」と指摘した。
山崎泰正弁護士は「工場の3交代制ローテーションなどと違い、バス運転手はシフトを組まずにその仕事に応じて勤務する。深夜に勤務が終わったり、午前2時から勤務を開始したりと規則性がない。しかし判決は、人間が睡眠を取ろうとすればいつでも取れるだろうと言わんばかりで、人間の生理をまるっきり理解していない。空理空論で人というものがわかっていない判決だ」と批判した。
会見に同席した妻は「残念な結果になってしまったと思っています。あとは、うまく言葉に表現できない」と話した。
2016年1月22日の一審・長野地裁判決は、15人が死亡、26人が重軽傷を負った同県軽井沢町のスキーバス転落事故の1週間後に出た判決だった。山崎弁護士は「これで労災であることを認めさせて、バス運転手の労働実態を改善させると思っていたがダメだというので…。改善が遠のいてしまいました」と肩を落とした。
(弁護士ドットコムニュース)