2017年F1第9戦オーストリアGPは、ポールポジションからスタートしたバルテリ・ボッタスが今季2勝目。スタートでは応援団の声援を受けたマックス・フェルスタッペンが無念のリタイアに……。ニッポンのF1のご意見番、今宮純氏がオーストリアGPを振り返り、その深層に迫る──。
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GPごとにウイナーが変わる。モナコはセバスチャン・ベッテル、カナダはルイス・ハミルトン、アゼルバイジャンはダニエル・リカルド、そしてオーストリアはバルテリ・ボッタス。4戦で4人、これは13年シーズン以来だろう。
勝者だけではない。中間チーム勢による“ミドル・リーグ”でも最上位者が変わってきている。モナコはトロロッソのカルロス・サインツJr.(6位)、カナダはフォース・インディアのセルジオ・ペレス(5位)、アゼルバイジャンはウイリアムズのランス・ストロール(3位)、ここではハースのロマン・グロージャン(6位)。F1夏の陣、彼らもせめぎあいを展開中。
「ジャンプ・スタート(フライング)」という言葉が2位ベッテルの無線から流れた。ひさしぶりだ。12年ベルギーGPで6位グリッドのパストール・マルドナドがそのペナルティをとられている。ちなみにあのレースではそれより、グロージャンが引き金を引いた1コーナー多重事故が大きな事件に。
ややレッドランプの消える時間が長めに感じられた。PPボッタスがわずかに左寄りにマシンを止めているのも気になった。けれども明らかなフライングには見えず、繰り返されたリプレイVTRを見て彼のタイヤがほんの少し前に動いた(ように)見えた。
初めてTV画面にスタート反応タイムの表示がでた。ボッタス0.201秒、ベッテル0.369秒。客観的にみてこの<0.168秒差>はちょっと驚く。陸上競技ではスタート反応タイムが0.1秒未満だと、フライングになる。医学的な見地から人間の反応力ではありえない数値だからとか。
FIA判定は「セーフ」。わずかにボッタスのタイヤが動いた件は、スタート監視システムのいわゆる誤差の範囲内ということであった。
ベッテル自身は“超人的な”彼のスタートに納得いかない様子だったが、今は言動を慎まねばならない立場。FIAをまた刺激するのはまずい。一方ボッタスは「最高のスタート」を強調、勝因に挙げた。
フロントロウのダッシュとは別に、スタートは相当乱れた。10位サインツが加速せず、真後ろ12位フェルナンド・アロンソがとっさに右いっぱいに避ける。するとその後ろのダニール・クビアトも続いてチームメイトを抜く。彼らの斜め前では6位マックス・フェルスタッペンも失速状態……。
昔話になるが87年エステルライヒリンク時代はこのストレートがもっと狭く、スタートで2度も事故発生、3度目の正直でやっとレースが始まった。この後、コース幅などが大改修されて今日に至る。
話を戻すと、アロンソの周囲警戒ぶりがOBカメラ映像からよく分かった。何度もヘルメットを右側に向け、絶えず後方をミラー・チェック。1コーナーにターンする瞬間にクビアトの“魚雷攻撃”をうけた。内側から行くしかなかった彼は登り坂で前方視界が限られていた(それは理解できる)。だがオーバースピード、止まれない。アロンソの横にいたフェルスタッペンが第2の被害者、満員のMAX応援団席の真ん前で終わるとは。
14年に9位グリッドから2位まで挽回したハミルトン、今年は再現ができなかった。予選3位→8位グリッド降格、これが敗因につながったと言えるだろう。せめて2位タイムを出し切れていれば7位グリッド、結果論になるがスタートからいい展開に持ち込め、スーパーソフトをもっと長く使えて、最終スティントでの反撃力を担保できたはずだ。
Q1をウルトラソフト、Q2はスーパーソフト(スタートタイヤ)、Q3でウルトラソフト。そのアタックで彼らしくなく、何度もリヤがスライドするのをコントロールできなかった。むしろボッタスのアタックラップに粗さがなく、落ち着き感が見てとれた。PP2度目、最初の時とはそこが違う。
終わってみて気づいたこと。タイトル争いの二人ともリードラップが無かった。セーフティカーも出ず、雨も降らず、81分あまりのショートレース。ボッタス平均スピード224.757KMHは今季最速戦、昨年イタリアGPモンツァ237.558KMHに次ぐ。高速テクニカルなレッドブルリンク、17年F1はコース個性を際立たせる――。