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鈴木貴歩のエンターテック連載開始:アーティストは最新テクノロジーをどう活用してきたか?

2017年07月10日 13:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2017年6月、WIREDが「音楽ストリーミングがもたらした、全米ヒット曲の「7つの変化」研究結果」という記事(参考:WIRED「音楽ストリーミングがもたらした、全米ヒット曲の「7つの変化」:研究結果」https://wired.jp/2017/06/11/how-streaming-changes-music/)で、オハイオ州立大学で音楽理論を専攻する大学院生、ユベール・レヴェイエ・ゴヴァンが行った、30年間の作曲の変化についての研究を紹介した。


(関連:落合陽一が語る、テクノロジーの進化とエンタメ市場の行方「本物を見抜く審美眼が求められる」


 その研究は、1986年から2015年までのビルボード・トップ10の曲を分析することで、アクセスモデルのサービスYouTube、Spotifyで音楽を聴くことが、ランキング上位の曲のクリエイティブプロセスをどう変えたかを明らかにしており、下記を含む7つのポイントを挙げている。


・イントロが平均20秒から平均5秒と短くなっている
・曲自体が短くなった
・ソロが無くなった など


 特にイントロが短くなった、という調査結果に、“最近のアーティスト”は楽曲の商品としての機能性を重要視しているのでは、という意見も見られた。


 実は80年代の楽曲のイントロが長かったのは、アーティストや関係者が当時の最新テクノロジーが産み出したメディア環境を活用していたからだと言える。それがMTVだ。


 1981年に開局したMTVは、当時としては斬新な24時間、ポピュラー音楽のビデオクリップを流し続ける音楽専門チャンネルとして瞬く間に世界へ拡がっていった。アメリカではケーブルテレビを通じて提供されており、国土が広いために地上波では国内に届けることが難しい環境へのテクノロジーを用いたソリューションであった。その伝送能力から地上波のように限られたチャンネル数では無く、300ものチャンネルを伝送することができたためMTVのような画期的な放送局が生まれたのだ。


 “音楽を映像と一緒に楽しむ”ことにより、楽曲の導入部分であるイントロからストーリーを語ることができるようになった。イントロが凡庸でも映像にフックがあれば期待を持って楽曲ミュージックビデオを楽しむことができたし、そこで新たな表現を行うアーティストが出てきた。


 一番有名なのは、マイケル・ジャクソン「スリラー」だろう。


 映画監督ジョン・ランディスにより撮影されたこのミュージックビデオは、イントロまでに4分余りの映像が加えられ全部で13分の長さになっている。


 MTV時代を謳歌した代表アーティストがDuran Duranだが、彼らも美男子揃いのメンバーと独特のビジュアルスタイルを持つ映像作家ラッセル・マルケイの組み合わせにより、長いイントロだからこそ楽曲のストーリーとアーティストの魅力、両方が伝えられたと言える。


 このように、テクノロジーがクリエイティブを“規定している”のではなく、当時の最新テクノロジーに“張った”アーティストやクリエイターが文化カルチャーを創っている。この流れが繰り返されているのがエンターテインメントの歴史である。


 それを筆者は「エンターテック」と名付け、アーティスト、クリエイター、エンターテインメント業界人へのテクノロジー活用を啓蒙し、自らエンターテック事業や投資活動に携わっている。


 この視点から、当連載ではエンターテックがもたらす新たな文化を、過去の動きとリンクさせながらお伝えしていく。(鈴木 貴歩)