2017年07月10日 10:33 弁護士ドットコム
パワハラ、解雇などのトラブルに見舞われても、すぐさま裁判へとなると、ためらってしまうかもしれない。そんな人にこそ知って欲しいのが、裁判に持ち込まずに労働問題を迅速に解決する「個別労働紛争解決制度」だ。厚生労働省の発表によれば、2016年度の利用件数が約113万件にのぼるそうだ。
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「個別労働紛争解決制度」は、どのように活用することができるのか。寺岡幸吉弁護士に聞いた。
個別労働紛争解決制度とは、どういう制度なのか。
「『個別労働紛争解決制度』(以下、「本制度」)とは、労働条件その他労働関係に関する事項についての、個々の労働者と事業主との間の紛争を解決しようとする、行政によるADR(紛争解決機関)です。
方法としては、『総合労働相談』、『助言・指導』、紛争調整委員会による『あっせん』の3つがあります。なお、相談、助言・指導、あっせんとも、費用はかかりません」
どんな内容であれば、相談できるのか。
「個々の労働者と事業主との間の労働条件や職場環境などに関する問題であれば、どのような内容であっても相談することができます。具体的な内容については最近、2016年度における利用状況についての統計が発表されたので、それにも触れながら説明していきます。
昨年度の統計では、最も多いのは『いじめ・嫌がらせ』で、その後は、『自己都合退職』『解雇』『労働条件の引き下げ』『退職勧奨』の順でした」
相談から解決にいたるまで、どのくらい時間がかかるのか。
「相談から解決までの時間については、どのような形で『解決』するかによって異なります。『総合労働相談』や『助言・指導』によって解決する場合には、1~2ヶ月で解決することもあります。
『助言・指導』では解決せず、紛争調整委員会での『あっせん』を受けて解決する場合には、それより時間がかかりますが、それでも、昨年度の統計によれば、あっせん処理が終了した事案の9割近くが、あっせん申請をしてから2か月以内で終了しています。
ただ、後に述べるように、この『終了』は合意が成立した場合だけでなく、合意が成立せずにあっせんを打ち切った事案も含んでいます。また、解決に至ったケースよりも、打ち切った事案の割合が高いことには注意が必要です」
この制度を利用した場合、会社を辞める必要があるのか。
「個別労働紛争解決制度を利用した場合であっても、事案が解決した後に同じ会社で働き続けることは可能ですし、実際にも例はあります。労働者があっせんの申請をしたことを理由として、事業主が労働者に不利益な取扱いをすることは禁じられています。
ただ、労使関係は信頼関係で成り立つものです。一度でも深刻なトラブルがあると、その信頼関係を取り戻すことは容易なことではありませんから、働き続ける例はあまり多くないと思います」
この制度でも、解決に至らなかった場合はどうなるのか。
「労働審判や訴訟へ進むことになります。これであきらめてしまう人も少なからずいるでしょうから、この全てが労働審判や訴訟に移行するわけではありませんが、少なくない数の事件が労働審判や訴訟に移行しているものと思われます。
ちなみに、昨年度の統計結果によれば、あっせん処理終了件数5083件の内、打ち切りは2847件。つまり解決に至らなかった割合は56パーセントです。
個別労働紛争解決制度は、当事者間の合意によるものであるのに対して、労働審判や訴訟は、合意がなくとも結論が出るものです。当事者間において合意に達することができなかった紛争について、労働審判や訴訟に移行することは、よくあると言っていいでしょう」
打ち切りになったのが56パーセントあることは、意外に多いようにも感じる。相談内容によっては、この制度は向いていない場合もあるのだろうか。
「事実関係にあまり争いがなく、労使双方が労働紛争の解決に向けて歩み寄る姿勢がある事案では、本制度が有用だと思われます。
しかし、事実関係に大きな争いがある事案や、労使双方の対立が激しいような事案では、合意に達する見込みはかなり低いと言えます。そのような事案では、労働審判や訴訟を最初から利用した方が、かえって時間などの節約になることもあると思われます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
寺岡 幸吉(てらおか・こうきち)弁護士
社会保険労務士を経て弁護士になった。社労士時代は、労働問題を専門分野として活動していた。弁護士になった後は、労働問題はもちろん、高齢者問題(成年後見や高齢者虐待など)などにも積極的に取り組んでいる。
事務所名:弁護士法人おおどおり総合法律事務所川崎オフィス
事務所URL:https://os-lawfirm-kawasaki.jp