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JAY’EDが選び取った、アーティストとしてのセカンドステージ 紆余曲折のキャリアを辿る

2017年07月07日 18:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 JAY’EDから久々のオリジナルアルバムが届いた。通算4作目となる『Here I Stand』は、前作『HOTEL HEART COLLECTOR』からなんと3年ぶりだ。豪華なゲストが参加し、彼のファンでなくとも知る名曲のセルフカバーも含まれている。満を持して発表しただけあって、ある種のお祭り的なアルバムと捉える方もいるかもしれない。


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 しかし、この数年、実はJAY’EDはもがき苦しんでいたのである。来年でメジャーデビュー10周年。インディーズ時代を含めると、中堅と呼ばれてもおかしくないキャリアを重ねているが、けっして順風満帆とはいえなかった。そんなJAY’EDの新しい決意表明がこの『Here I Stand』なのだ。


 では、JAY’EDはどのような変遷を経てここに行き着いたのだろうか。彼は、日本人の父とニュージーランド人の母を持ついわゆるハーフだ。ニュージーランドで生まれ育ち、10歳で大阪へと移住した。この頃はまだほとんど日本語もしゃべれなかったというから、小学生だった彼の苦悩はこの歳にしては相当大きかったはずだ。おそらく少なからずイジメなども体験したのではないだろうか。しかし、高校生になってから音楽に目覚め、持ち前の才能を発揮していくことになる。


 17歳からは関西のクラブシーンでメキメキと実力を付け、DOBERMAN INC.(後のDOBERMAN INFINITY)やNORISIAM-X(後のURALi)などとともに、関西のヒップホップ集団「D-ST.ENT.」に所属。大いに注目されたが、ようやくメジャーデビューに行き着いたのは、20代後半に差し掛かっていた。年齢だけをとれば、遅咲きといってもいいだろう。


 2008年にシングル『Superwoman』で〈トイズファクトリー〉からデビューした彼が、最初に大きく注目を浴びたのは、デビューから1年ほど経った後。JUJUのシングル「明日がくるなら」にフィーチャーされて大ヒットを記録してからだ。その年の10月に発表した初のメジャーアルバム『MUSICATION』は、オリコンのトップ10にチャートインし、当時最も注目されるアーティストへと成長した。


 しかし、それからの道のりは安泰なわけではなかった。着実にコアファンを獲得していたとはいえ、思った以上にセールスは伸びないし、シングルヒットも出ない。アルバム2枚で〈トイズファクトリー〉とは契約解除となり、その後はフリーで1年ほど活動。2013年にはユニバーサルミュージックに移籍をするも、これまた2年ほどで契約が終了。いつしかマネージメントにもレーベルにも所属しないまったくのフリーのアーティストとなってしまう。今の時代、フリーになることは悪いことではないし、そうやって成功しているアーティストも多数存在する。しかし、彼はライブの動員はそれなりにあったが、3年の間アルバム発表することなく、いわばくすぶっている状態だった。


 この状況を救ったのが、他ならないEXILE ATSUSHIだ。JAY’EDとは10年来の友人関係だった彼が、今回の復活へと導くことになる。ブラックミュージックラバー同士として語り合ったこともあるというATSUSHIは、JAY’EDのもがいている姿を見てどうしても手を差し伸べたくなったのだろう。ATSUSHIのプッシュもあって、JAY’EDはマネージメントをLDH JAPANに移し、レーベルも〈ドリーミュージック〉へと移籍が決まる。そして、2人の共同プロデュースという形で生まれたのが、このアルバム『Here I Stand』だ。ここに至るまでの紆余曲折を知ってから本作を聴くと、なるほどと思わされる点がいくつもあることに気付く。


 まず、なんといってもタイトル曲であり、先行シングルにもなった「Here I Stand」が、彼の新しい旅立ちを象徴している。ATSUSHIが作詞を手掛けているが、まさにJAY’EDの境遇をそのまま盛り込んだような内容に仕上がっており、さかいゆうが書き下ろしたメロディを、ピアノのみを伴奏に歌い上げていくのだ。先行シングルにするにはずいぶん思い切った楽曲だが、なんの飾りもなく素のままのJAY’EDが浮かび上がっており、メッセージがストレートに伝わってくる。彼にとって、ここまで自身を裸にしたような楽曲はこれまでにはなかったのではないだろうか。この一曲だけで今回の意気込みや心境が伝わってくる。


 そういう観点でみれば、その他の要素も納得がいく。例えば、ゲスト参加しているDOBERMAN INFINITYは、大阪のインディーズ時代からの盟友であり、ATSUSHIとの出会いのきっかけを作ったアーティストでもある。また、ラッパーのAKLOも長い間JAY’EDと共演を続けており、彼の苦悩を近くで垣間見てきた。こういった仲間とともにアルバム制作できたことは、JAY’EDにとってこの上ない喜びだったはずだ。BACHLOGICやLugz&Jeraといったデビュー前から付き合いがあるクリエイターたちが参加しているのも同じような理由があるのだろう。


 また、セルフカバーに関しても、自身の代表曲である「ずっと一緒」は自身にとってもファンにとっても大切な楽曲であり、今回の再出発にあたりもう一度丁寧に歌い直したという印象を受ける。「明日がくるなら」も同様で、この誰もが知る名曲をソロバージョンで歌うことにより、過去に対してのけじめを付けたといってもいいだろう。そして、フランク・シナトラなどの名唱でおなじみのスタンダード「MY WAY」を日本語カバーしているのも意外だが、もともとは映画絡みのチョイスだったとはいえ、これほどまでに本作にぴったりと収まる選曲はないかもしれない。


 もちろん、Crystal Kayや今市隆二(三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE)といった初の人選も新鮮だし、EDMのような新しいサウンドも積極的に取り入れており、前を向いて進んでいるという感覚は満載。過去を否定するわけではなく、一旦区切りをつけて新たな一歩を踏み出しているのだ。JAY’EDにとって、この『Here I Stand』はあくまでもセカンドステージの第一弾。次の展開に期待しながら、じっくりと聴き込みたいアルバムなのである。(栗本 斉)